第20話 誰も迎えに来ないと不安に思っていたら遅れてルードが迎えに来てくれました

学園の一日目の夜に行われる新入生歓迎レセプション、すなわち、パーティーだ。


パーティーなんて、生まれて初めてだ!

こんな綺麗な衣装を贈ってくれるなんてルードは良い友人……いや、待てよ! 

ルードが私の衣装を選んでくれたというのは恐らく違う気がする。

だってルードは今日も補講をするつもり満々だったし、パーティーのことなんて全く教えてくれなかった。


ハイデマリーが気を使ってくれたに違いないのだ。

でも、お金は足りたんだろうか? 

こんな立派な衣装、既製品でもとても高かったはずだ。もし、衣装代で足りなかった分をハイデマリーが出してくれていたら、返さないといけないかもしれない。

でも、私の自由に出来るお金なんてほとんど無いし、バイトなんてしている暇はあるんだろうか? 

ルードは鬼のような宿題出してくれそうだし……


「どうしたんだ? クラウ、誰が迎えに来てくれるか心配しているのか?」

コンスが私に聞いてきた。

「そんなの気にしても、もう決まっているはずだ。だから今から心配しても無駄だぞ」

「いえ、コンス。私を迎えに来てくれる男の人がいれば良いけれど……私は何しろ成績は最下位だし。

そんな私を私を迎えに来てくれる人がいるかどうかそちらの方が心配で……」

誰が迎えに来るかは生徒会と先生を中心に決めるそうだけど、大体同じクラスの上の学年の先輩が来てくれるそうだ。

Eクラスとはいえ、貴族の子供達もたくさんいる。

学年最下位の私を迎えに来てくれる先輩なんているんだろうか? 

実家では散々いじめられていた私は誰も迎えに来る人がいずに、一人だけ忘れられてとり残される未来が想像できるんだけど……


「何言っているんだ! クラウはこんなに綺麗なのに、嫌がる男がいたら、私がその男に代わってエスコートしてやるよ! 気にしなくても必ず来てくれるから。心配するだけ、損だぞ」

コンスが、笑って言ってくれた。

本当にコンスは公爵令嬢なのに、気取ったところもなくて親切だ。

私が男だったらコンスに首ったけだったと思う。


ホールの入り口からどよめきが起こった。

入ってきたのはイケメンの生徒会長だったのだ。


「キャー!」

「生徒会長様よ」

「誰のところにいらっしゃるの?」

皆が一斉に注目する。


生徒会長はコツコツこちらに向かって歩いてきたのだ。


そして、おもむろにコンスの前で跪いた。


「コンスタンツェ様。私にエスコートさせて頂けませんか?」

そう言って手を差し出したのだ。

「はい、喜んで」

コンスは生徒会長の手を取った。

「じゃあ、クラウ、パーティー会場で」

コンスはそう言うと、生徒会長にエスコートされて歩き出した。


二人が歩き出すと、全員二人の優雅な姿に見惚れていた。


「ああ言うのを美男美女のカップルって言うのね!」

ポピーが言ってくれて、私達は皆頷いたのだ。


それから、次々に迎えが来たけれど、私には誰も来なかった。

ポピーには優しそうな2年生の男の先輩が。

ヘレナには3年生のインテリっぽい男の先輩が。

皆一人、また一人といなくなっていった。


さすがの私も焦り出した。

やはり、学年最下位の女をエスコートするのは嫌なんだろうか?

皆が嫌がって、忘れられたとか、見捨てられた可能性もある。


そして、私一人だけ取り残されたのだ。

私はとても惨めな気分になった。

まあ、実家では鞭打たれて、苛められていたのだ。それに比べたら、一人ぼっちなんて、全然問題はない。

私はそう思って、笑おうとした。


「あれ! 残りはあなた、一人だけなの?」

Eクラスの女子寮の寮監のおばさんが出てきて、私に声をかけてくれた。


「変ね、もう皆迎えに来てくれたのに!」

「忘れられたんですかね」

「そんな事はないわよ! もうじきに迎えに来てくれるから」

寮監のおばちゃんはそう言ってくれるが、私には信じられなかった。


「残り物には福があるっていうじゃない」

おばちゃんはそう言ってくれたけれど……


更に5分経っても誰も迎えに来なかった。


さすがの私も諦めて一人で会場に行こうとした時だ。


ダンっと寮の扉が開いたのだ。


「えっ」

私は驚いた。


そこには白い燕尾服を来たルードが立っていたのだ。

「ごめん遅れたって、あれ、クラウは?」

そう言ってルードはキョロキョロしているんだけど、私はここにいるのに!


「ルード!」

私がムッとして言うと

「えっ、お前クラウなの?」

驚いた顔でルードが近づいてきた。


「あっ、本当だ。あまりに違いすぎてびっくりした」

ルードはまじまじと私を見てくれた。


「えっ、そんなに違う?」

私が小首をかしげると。ルードが赤くなっているんだけど……


「どうしたの?」

「いや、その」

「ルード様はクラウディアがあまりにも可愛いから動揺しているんだよ」

寮監のおばちゃんが言ってくれるけど、絶対に嘘だと思った。


「そんな訳ないわよね」

私がルードにそう言うと


「ルード様、ちゃんと言わないと他の男の子たちに取られてしまいますよ」

「いや、そんなんじゃなくてだな」

「でも、きれいでしょ」

「そこは認める」

寮監の言葉にルードが認めたんだけど……


「えっ?」

私は驚いた。まさか、今までちびとか痩せ過ぎとか地味顔とかしか言われていなかったルードが、私のことをきれいだと言うなんて信じられなかった。


驚いた拍子に一筋の涙が流れた。


「えっ、どうしたんだ、クラウ?」

ルードは驚いて聞いてきた。


「だって、ルードが遅いから、誰も迎えに来てくれないと思っていたんだもの」

私はそう言うと後から後から涙が漏れてきたのだ。


「いや、本当にごめん。遅くなって悪かった」

ルードが何度も謝ってくれた。

そして流れる涙をルードが拭いてくれた。


「さあさあ、そろそろ泣き止んで。

良かったじゃないか。女の子に大人気のルード様が迎えに来てくれたんだから、残り物に福はあったろう」

寮監のおばちゃんもそう言って私の頭を撫でてくれた。


私は必死に涙を抑えた。そして、ルードが癒やし魔術をかけて涙の跡を無くしてくれた。



「では、クラウ、私にエスコートをさせて頂けますか」

ルードが私の前で頭を下げて手を差し出してくれた。

「喜んで」

私はルードの手を取ったのだ。

生まれて初めて男の人のエスコートで私は歩き出したのだ。


とても見目麗しい男に変わった幼馴染のルードのエスコートで、私はレセプションの会場に向かって歩き出した。





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