第17話 オリエンテーションで頑張った私達は最後の訓練場でコンスの一撃が炸裂しました

『帝国第三代皇帝陛下の肖像画の所に向かえ』

紙を見て私は唖然とした。


「「「えっ、何これ?」」」

昼食を終えて教室に戻るとほとんど同時にチャイムが鳴った。

入って来た先生たちが紙を配ってくれた。

その紙に書かれていたのだ。

「第3代って誰だよ」

「そんなの知るかよ」

「マイナー過ぎないか」

「全然わかんない」

皆、判らないみたいだ。


「そもそも名前判っても肖像画見てどれが第3代って判るんだよ!」

確か、ベルナールとか言う文官志望の男の子が叫んでいた。


「はい、皆さん。静かに! 各班で考えて」

アデライド先生が注意するが、


「第3代はコンスタン帝だ」

コンスが叫んだ。

「コンスタンツェさん!」

「まあまあ、アデライド先生、良いじゃないですか? この問題は難しすぎますよ」

「しかし……」

マルタン先生がアデライド先生を抑えてくれた。

先生も難しすぎると判ったみたいだ。


「コンス凄い」

「なんでそんなマイナーな皇帝の名前知っているのよ」

ヘレナが聞くと

「私と似た名前だからな」

あっさりとコンスが言った。

何でもコンスは皇帝陛下の名前を全部暗記させられたらしい。

さすが公爵家の令嬢だ。

私は感心した。

でも、後で私も全て暗記させられるとは思ってもいなかったのだ……


「先生、オルガンってどこにあります?」

コンスがマルタン先生に聞いていた。

「うん、礼拝堂じゃなかったか? 入学式の講堂の横にある」

「よし、礼拝堂だ。行くぞ!」

そう言うと、コンスは立ち上がったのだ。

「えっ、ちょっと待ってよ」

「コンスったら」

私達は慌てて立ち上がった。

そして、コンスを追いかけたのだ。

「廊下を走ってはいけません」

アデライド先生の叱責を聞きながら私達は速足で歩いた。

皆ついてくる。


「何故オルガンなの?」

「コンスタン帝は音楽に造詣が深くて、オルガンの改良をしたんだ」

コンスは皇帝が何をしたかまで憶えているみたいだ。

「よし、走るぞ」

外に出るといきなりコンスが走り出したのだ。

「ちょっとコンス」

「早いって」

私達は追いかけようとしたが、日ごろから走ったりはしていないのだ。


「あれだな」

前世の教会によく似た建物が講堂の横にひっそりと建っていた。

その前に着いた時は私達はゼイゼイと息も絶え絶えになっていた。

「コンス、あなたは体力お化けね」

ヘレナも私と一緒にへたっていた。



「中に入るぞ」

コンスについて中に入るとステンドグラスが輝いていた。

「きれい」

私は思わず見とれていると、コンスはずんずんと1枚の絵の前に向かって行った。


「な、何でお前達、ここがこんなに早く判ったのだ!」

そこには陰険そうな、物理のランベール先生が立っていた。

この先生が追試の問題を作ったんだと私の直感が言っていた。


「勘です」

ズバッとコンスが言ってくれた。

「勘だと、おのれ小癪な」

先生が何か叫んでいるが、


「それよりも先生。次の問題を」

「おおそうじゃった。でも、ここからは最低クラスの貴様らには難しかろうて」

ヘレナの声にニヤリとランベール先生が不敵な笑みを浮かべてくれた。


「この問題を解くのじゃ」

先生は全員に問題を配ってくれた。


「朝は4本足、昼は2本足、夜になると3本足になるものはなんだ」

と書かれていた。

「何、この簡単な問題」

私は思わず声に出して言っていた。


「な、何じゃと、そこの属国の留学生。言って見ろ」

ランベールが私を憎しみの籠った視線で睨んでくれた。

私まだ何もしていないのに! 何なんだろう? この憎しみの籠った目は?

私は驚いた。


「あんたが生意気なこと言うからでしょ。あの先生しつこいみたいだから後が大変よ」

後でヘレナから注意されて私は青くなったけれど、でも、この憎しみに満ちた視線はそれだけではないはずだ。


「人間です」

私があっさりと答えると


「な、何故判った。儂がこの1週間必死に考えだした問題を……」

ランベール先生は唖然としていた。

「えっ、そうなのか?」

コンスがキョトンとした顔をしていた。理由が判らないみたいだ。


「赤ちゃんの時は最初は四つん這いで、その後2本の足で歩いて、最後は杖をついて歩くからです」

私の代わりにヘレナが答えてくれた。

そう、私達、前世の人間はすぐにわかるわよ。


それを聞いて

「くっそう……1週間かけて考えたのに!」

ぶつぶつ言っているランベール先生を残して私達は絵の下に書かれた次の会場に向かったのだ。


次の会場は刺しゅうだった。


四角を縫えばよいので簡単だ。

コンスが指を傷だらけにしながらなんとかやり切った。

「うーん、刺しゅうは生まれて初めてやったが、なかなか奥が深いな」

訳の分からないことを言っていたが……


その次は家庭科室に行って、ゆで卵を作る問題で楽勝だった。

コンスはすぐに出来たと言って先生の所に持って行ったのだ。

いくら何でも早すぎる。

割ってみるようにと言われて、何故か自分の頭に当てて割っていた。

次の瞬間、髪を卵だらけにして、呆れた先生に浄化してもらっていたけれど……


最後は訓練場だった。


3人で3人の上級生と対峙して、負けたら、10分間ここにいなければいけなくなるのだ。


私達は先生に防具をつけさせられて

「ええええ!」

「本当にやるの」

私とヘレナはさすがに怯えた。

上級生はいかつい男の先輩だ。

こんなの剣なんて持ったことない私達が勝てるわけはないじゃない!


「ここは任せておけ。私がやる」

コンスが剣を持って前に出た。


「ちょっと」

「コンスタンツェ様」

「待ってください」

騎士と先生が青くなった。


「手加減はする」

「えっ」

「ギャ」

「止めて」

逃げ出そうとした騎士達に構わず

「食らえ!」


コンスが剣を横殴りに振り切った。


ダンっ

「ギャッ」

可哀そうな3人の騎士は瞬間で吹っ飛ばされて、訓練場の壁に叩きつけられていたのだ……


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