第2話 継母に引っ叩かれましたが、帝国からの使者に助けてもらいました

「クラウディア、あなたには今からこの館で働いてもらうわ! 穀潰しには用はないのよ。判った?」

いきり立った継母は言ってくれた。

私は継母の言葉に頷くしかなかった。


まあ、今すぐに出ていけ! って言われないだけましだ。

いくら前世の記憶があるからって、一人で外に放り出されては、生きていける知識も力も私にはなかったのだから。


それからは毎日、暑い日も寒い日も私はメイドとして、館内の雑用をさせられた。雑巾掛けは元より、不得意な裁縫とか、手を傷だらけにしながらさせられたのだ。


「クラウディア、この直しは何なの!」

パシーン


私はよく裁縫で継母に引っ叩かられた。

もう私は反抗する気も失せていた。


「なんで叩くの?」

一度文句を言ったら、

「何ですって!」

パシーン パシーン

倍になって返ってきた。倍返し、いや、引っ叩き返していないんだから、2発引っ叩かれ損だ。



服装の直しって? 

そう貴族と言っても、貧乏男爵家ともなると、衣装は古いのを直しをしてでもそれを着ないと生活が回らなかったのだ。

伯爵家や帝国の貴族になればさすがに違うだろうが、属国の男爵家なんてこんなものだった。


「ほらあ、お姉様、この服をあげるわ。喜びなさい」

義妹のカミラに至っては古くなってぼろぼろになった傷んだ衣装を私に着せて、露骨にからかってきた。

私がムッとした態度を取ると、

「お母様、お姉様が私に反抗するの!」

「何ですって!」


パシーン

私はその度に継母に引っ叩かれた。


さすがの私も最近は義妹に逆らうなんて面倒なこともせずに、従うふりをしていた……


でも、こんな生活いつまで続くんだろう?


くじ運の悪い私が物語のヒロインかもしれないっていう妄想はとっくに捨て去ったが、このままでは一生涯この母娘のメイドのままだ。いや、メイドは給金をもらえるだけましか……私なんて給金をもらったことなんてなかった。プレゼントなんて小さくなった義妹のお古だけだ。

最も背が低いから私は着れたけれど……

本当に奴隷と遜色なかった。



16歳になる年に貴族の子弟の行く王立学園があった。

学園に行けば少しはましになるだろうと私は淡い期待を持っていた。


一度、お父様に頼んだら、

「お母さんに聞いておくよ」

と言ってくれた。でも、あの継母が許してくれるだろうか?

私は不安に思った。


その夜だ。


パシーン


継母から引っ叩かれて

「穀潰しのお前なんかを学園に行かせる金があるわけ無いでしょう」

と叱責されたのだ。

さすがの私も泣き崩れた。

ないたら少しは許してもらえるかなと思ったのは甘かった。


翌朝はいつもの倍の仕事を与えられたのだ。


顔を腫らせて2倍の仕事をさせられる私は悲惨だった。

でも、継母に睨まれるのが嫌なので皆私を無視してくれた。

本当に最悪だった。



でも、このままではいけない。一生涯コイツラの奴隷なんて嫌だ。

どうしよう?

そう悩んでいるときに冒頭の夢を見たのだ。


私はどうかしている。私が婚約破棄されることよりも、私があんなイケメンの婚約者になれるなんて事はあり得ないのだ!

だって、私は男爵家で働くしがないメイドなんだから。


そう思いながら朝の雑用をしていた時だ。


私は継母に呼ばれたのだ。

それも自分の掘っ立て小屋に。


「クラウディア! これは何なの!」

継母は私の宝箱をひっくり返したのだ。

私がいざと言う時のためにと必死にためていた硬貨などが散乱した。


「キャー、お継母様」

私は叫んで必死に硬貨を拾い集めようとした。


パシーン

私はまた、継母に引っ叩かれた。

やばい、顔から、地面に叩きつけられる、

と、覚悟した時だ。

ハシッと抱き止められた。


その抱き止めた人を見たら、逆光だけどとても綺麗な金髪が見えた。

「あ、有り難うございます」

私は受け止めてくれた見ず知らずの人にお礼を言った。

「いや、つい手が出てしまった。大丈夫か?」

男は優しく私の頬に手を伸ばしてくれた。

「痛いっ!」

頬に痛みが走って思わず私は声をあげていた。

「あ、すまない」

男は慌てて謝ってくれた。


「ちょっと、あなた、誰なの? お金をちょろまかせたメイドを注意して教育しているところを、邪魔しないでくれる?」

継母が、ヒステリックに叫んでくれた。

お金はちょろまかしてなんてしてないわよ! それは必死に内職して貯めたお金だ。

でもそんな事言ったら三倍返しになる。ここは我慢だ。


「教育に、暴力とはカッセル王国は野蛮なのだな」

でも、男の人が私に代わって言ってくれた。野蛮なのはこのまま母だけだけど。


「な、何ですって!」

男の声に継母は、更に切れていた。


「ルード様、こちらにいらっしゃいましたか?」

後ろから、慌てて、その男の側近らしい人が飛んできた。


「フリーダ、どうしたんだ?」

同時に父が、飛んできた。

「あなた、この男がメイドを注意したら、文句を言ってきたのよ」

「フリーダ、言葉は慎みなさい。こちらは帝国の学園からいらっしゃったルード様だ」

父が私を助けてくれた男を継母に紹介していた。

「えっ、帝国から」

継母の態度が変わった。

「まあ、ようこそいらっしゃいました。オイシュタット男爵の妻のフリーダと申します」

母が私を張り倒して男に文句を言っていたことが無かったかのように態度を変えてくれた。


「……」

私は開いた口が塞がらなかった。


「オイシュタット男爵。あなたの妻はメイドに暴力を振るっていたが」

流石にムットしてルードが言った。

「……」

父は一瞬言葉に詰まった。


「いや、ルード様。そのメイドが相当なことをしたのでしょう。メイドへのしつけも時には必要ですからな」

父の後ろからでっぷりと太った貫禄のある男が出てきた。


「ほおーーーー。外務卿はカッセルではメイドの教育に暴力を振るうとそう言われるのだな」

私は外務卿という言葉に驚いた。何故そんな偉い人がこの男爵家にいるの?


「いや、そう言うわけでは……たまにはそう言うこともあるかと勘案いたした次第でして」

更に外務卿がルードにおもねったのだ。

私は唖然とした。

ルードは帝国の中でも相当偉いらしい。


「いや、申し訳ありません。ルード様。家内にも後で言い聞かせておきますので。フリーダ!」

父が慌てた。

それはそうだろう。

我が男爵家からしたら雲の上の外務卿にこれ以上庇ってもらうわけにもいかない。

それにその外務卿がおもねる相手の機嫌を損じたら、後で王宮から叱責を受けることにも繋がるのだ。

下手したら叱責だけでは済まない。


「申し訳ありません、ルード様」

母も仕方無しにルードに謝った。


「謝る相手を間違っているのではないのか?」

じろりとルードは継母を睨んだ。


「えっ?」

継母は固まった。


「こちらのメイドに謝るべきだろう」

ルードは私を前に押し出してくれたのだ。


じろりと継母が私を睨んでくれた。


止めて! あなたが帰った後で今度は4倍返しされるから!

私は必死にルードを見つめたのに、ルードは許してくれなかった。


「オイシュタット男爵!」

ルードは今度は父に促したのだ。

横で必死に外務卿が継母に謝れと言っていた。


いや、止めてったらあとが怖いから!

私はそう言いたかったが、こんな中で言えることではなかった。


「フリーダ!」

「も、申し訳なかったわ」

噛みながらフリーダが私に棒読みで謝ってきた。

でもその目は後で覚えていなさいよと言っていた。

ああああ! これはだめな奴だ。5倍返しだ。

私は暗澹としたのだった。

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