第七話「夢見る」
第50話
初めて自分を見てくれる
生意気で、狡くて、でも一緒にいるのがとても楽しくて。ずっと一緒にいたいと思った。
夢世と現世、夢魔と人間、決して相容れない存在だとは分かっていたけれど、彼の傍にいたかった。
でも彼は別な女と一緒になると、私の元から離れていこうとした。引き止めても駄目だった。
頭では分かっていた。しかし、離れたくない、一緒にいたいと心が痛むくらい叫んだ。
今まで数えきれない程の人間を惑わしてきたけれど、これが恋という感情なのだと、初めて気づいた。
そうして私は彼から大切なものを奪って、夢の世界から追い出した。
こうすれば彼は恨んででも私をずっと忘れることはないから。彼の中に私という存在を刻み込めると思ったから。
初めて自分を見てくれた
優しくて、暖かくて、とても不思議な匂いのする娘だった。
誰にも見つけてもらえず、地べたに這いつくばって震えていた私に、彼女は微笑んで手を差し伸べてくれた。
でも優しい彼女は大好きな彼と一緒に逢っていた。夢の中でとても楽しそうに、二人で笑っていた。
とても楽しそうで、恨めしくて、私もその輪の中に混ざれたら――と、とても羨ましくて。
愛おしい彼の目の前で、夢を見たくないと嘆く可哀想な彼女を騙して大切なものを奪って、夢の世界に縛り付けた。
奪った彼女の瞳を介してみる世界はとても美しくて。
彼女の瞳を介してみた彼はとても幸せそうで、美しくて。
だからこの世界でたった一人で生きる私は余計孤独を感じて、寂しくて、悲しくて。
これ以上独りでいるのは耐えられなかった。
少しでも気づいてほしくて、二人に私の存在を知らせるように少しずつ、少しずつ近づいていった。
そして漸く彼女と会えたから私は最後に彼から大切な彼女を奪い、ずっとずっと傍にいてもらうことにした。
夢を見たくないと嘆いても、こちらに来れば夢を見なくても済むから。
そうして彼女を連れて行けば、きっと彼も彼女を追いかけて私に会いに来てくれるから。
彼女のことも大好きだけど。でも、それ以上に私は彼のことを愛しているの――霞。
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