第六話「夢霞む」
第41話
――遠い、遠い。
霧がかかって見えなくなってしまいそうな程遠い昔の夢。
俺が獏を名乗るずっとずうっと前の過去の記憶。
本当の名前で、歪むことのない人生を歩いていた時のこと。
そう。全ては、俺が幼少の頃から始まっていた。
「あら、坊や。私の事が見えるの?」
「……貴女は、誰ですか」
長い銀髪の眩い程美しい女はある日突然俺の夢に現れた。
切れ長の美しい竜胆色の瞳が俺を映した。その瞳は驚いたように僅かに丸く見開かれて揺れた。
紅が塗られた艶っぽい口元が、妖美に、艶やかにゆっくりと弧を描く。
女は天の川のように輝く銀髪を揺らしながら、まるで女形の歌舞伎役者の様に艶やかにこちらに近づいてくる。
「最近夢世に頻繁に来るっていう人間って、貴方のことね」
鈴が鳴るような透き通った声音。その瞳は獲物を定める遊女のような、男を誘う瞳。
まだ毛も生えない子供に、まるで一人の男を相手にするような色っぽい口調で話しかけ俺の顎を細く白い指で持ち上げた。
逃げようと思えば逃げられた。しかし身体は動かない。
俺の瞳は目の前の女から離すことができなかった。俺の身体は拘束されたように動くことができなかった。
硝子玉のような瞳に、自分自身の姿が映っているのが見えた。
「うふふっ……坊や、とてもいい匂いがするのね。気に入ったわ。そんなに夢が好きなら私が色々教えてあげる。お友達になりましょう」
「坊やじゃない。俺の名前は――」
それが俺、
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