たられば
エピローグ
私の名前は野村優子といいます。
喫茶店で話を聞いたあの日から一ヵ月後、樹里ちゃんは帰らぬ人となりました。
荷物を取りに家に帰った時、運悪くお父さんと鉢合わせしてしまったらしく、病院に運ばれて来た時にはもう息をしていませんでした。
外傷は大したことはなかったのですが、打ち所が悪かったのです。
あの喫茶店で会ってから、樹里ちゃんがどうなったのか私には分かりません。
ただお葬式の時、樹里ちゃんのお棺の前で泣き崩れていた直人君と、樹里ちゃんの遺体の左手にゴールドの指輪があったことから、きっと二人はあれから幸せにやっていたのだと思いました。
私がこの小説を『樹里』として書いたのには理由があります。
樹里ちゃんの一回忌で会った直人君は、酷くやつれ、まだ樹里ちゃんの死を乗り越えていないのだと分かりました。
樹里ちゃんは私に話をしてくれた時、とても幸せそうに話していました。
あの幸せそうな顔は今でも忘れられません。
だから直人君が幸せであって欲しいと願う樹里ちゃんの気持ちを知って欲しくて、私は樹里ちゃんのお母さんに連絡を取り、遺品の中から樹里ちゃんの三年間の思い出が記してある手帳をお借りしてこの小説を書きました。
どこかであなたがこの小説を目にし、樹里ちゃんがどれだけあなたを思っていたのかを、そしてどれだけあなたの幸せを願っているのかを知って欲しい。
樹里ちゃんはあの日、こう言っていました。
「あの頃の私は死ぬことなんて怖くなかった。いつ死んでもいいと思ってた。本当にそう思ってたんだ。暗闇に差す光は温かいものなんかじゃない。でも、差し出されたその手はとても温かいものだった」
と。
「私は直人に命を救われ、コータ先輩に命を繋ぎとめられた」とも言っていました。
樹里ちゃんの命を救ったあなたなら、きっと自分の命も救えるはずです。
どうか樹里ちゃんの想いを無駄にせず、命を大切にして下さい。
心より樹里ちゃんのご冥福をお祈り致します。
野村優子
たられば 完
たられば ユウ @wildbeast_yuu
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