第七話

扉の前で深呼吸をし、笑顔を作る。

「ただいまぁ~!」

いかにも楽しかったというような、無邪気な態度で。

「あら、美織。お帰りなさい。新しい学校はどうだった?」

「楽しかったよ!―――あ、手、洗ってくるね!」

ここまでは、順調だ。

私が何も感じられなくなってしまったということを、母に知られてはいけない。

これ以上、負担をかけてはいけない。

「それでね、前の席の絵奈ちゃんって子が、」

鏡の前で固めなおしてきた笑顔を、維持する。

私の仕事は、勉強と、母に負担をかけないこと、母の言うことを聞くこと。

「……美織?どうしたの?全然食べてないじゃない。」

慌てて、おやつに手を付ける。

昔は好きだった母の手作りのケーキも、今は味がしなくなってしまった。

美味しかったのに。

味覚がなくなったことも、食欲がなくなったことも、知られてはいけない。

これ以上、母に負担をかけてはいけない。

私は、いい子だから。

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