第二幕

第三話

「なんでこんなことになってるんだ!」

「うるさいわね! そもそもあなたが事の発端じゃない!あんな事業に手を出さなければよかったのよ!」

 両親の罵声が響き合う中、気配を殺すようにしながら食事をする。

「美織、部屋に戻りなさい」

「……はい」

 もう、日常に溶け込んでしまっている夫婦喧嘩。

 まだご飯が残ってる、と言うことすら無意味だと知っている。

 いずれ、二人が離婚するだろうということも。

 今更何かを主張したところで無意味だということも。

 今、かろうじて二人をつなぎとめているのが、自分だということも。

 全部全部、知ってる。

 廊下に出た時、窓の外の夜空が目に映った。

 まだ、家族仲が良好だったころに軽井沢で見た、満天の星が輝いていた夜空と同じものだとは思えない。

 でも、当たり前だ。

 東京の空は、排気ガスで淀み、濁りきっている。

 まるで今の我が家みたいだな、と自嘲する。

 夕食も大して食べられなかった。

 時間がなかったのもあるが、何より食欲がなかった。

 部屋に入ると、机の上に目を移す。

 現実逃避だと言われても、もう、私にはこれしかない―――。

 救いを求めて、いつものように勉強道具に手を伸ばした。

 まだ、夜は長かった。

 私にとって、夜は、あまりにも永すぎる時間だった。

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