第3話 ゴミ捨て場の逃避行

 ケースを背負って急いで逃げる。うかうかしてると天井の裂け目から落ちてきたゴミに押し潰される。だから急ぎつつ焦らずに逃げるんだよお~!


 右にソファーが落ちて、左にテーブルが落ちる。落下してくるゴミにぶつかれば、きっと即死だ。小刻みにジャンプを繰り返しながら、足場の悪いゴミ捨て場をあっちへこっちへ逃げ回る。と、うおぉ!? あぶなっ!? 今スレスレだったぞ!?


 とにかく必死で逃げた。何度も跳ねて跳び回り、やっとこさゴミ捨て場から脱出した時には行きも絶え絶えだった。


「はあ……死ぬかと思った……」


 呟く僕の背後から「にゃあ」と、のんびりした声がした。まったく……猫ってのは呑気なものだね。ま、ひとまずは僕も猫も無事なようで何より。安心できたよ。


「さあ、帰ろう」


 僕は猫を背負い両脇にゴミ捨て場からの戦利品を抱えて友達が待つ住み処へ向かう。友達とは一緒に住んでる。いわゆるシェアハウスと言うやつだ。家と呼ぶにはお粗末すぎるかもしれないけどね。なにしろ屋根がなければ壁もない。床だけ作って、そこにベッドとソファーを運び込んだって感じの場所だもの。その周りにはガラクタが適当に置かれてる。ほら、みすぼらしくて大事な住み処に到着だ。


「おぅい。ただいまぁ」

「うぃー。おかえり」


 僕が声をかけると暗視ゴーグルを装着した少年が、こちらを向いた。どうやら彼はソファーに座って何かの機械を弄っていたらしい。彼の片手には、なかなか年期のはいっていそうなドライバーが握られていた。彼も変わり無さそうで何より。数時間前に別れただけなんだから、そうそう大きな変化なんて無いか。


「よく帰った。ラビット」

「そりゃ帰るよ。僕たちの住み処だもの」

「怪我はしてなさそうで安心したぜ。それで、今日は何か面白い収穫はあったかよ?」

「見て驚くなよ。メカニック」


 僕は、両脇に抱えていた戦利品と、背負っていたケースを床に置いて、開いた。そこには今も宙に浮き回転を続けるバター猫の姿があった。香ばしい匂いが鼻に届く。メカニックの方を見ると、彼は驚きと興奮を隠せないような表情をしていた。おお、良い反応だね。面白い。


「お、おおお、お前! これどうやって手に入れた!?」

「その反応、これが何か分かっているようだね」

「どうやって手に入れたんだと聞いている!」

「おいおい、興奮するなって。答えるから」

「頼むぞ」


 それから僕はバター猫と出会った経緯をメカニックに話すのだった。何か、大き何かが始まるのを感じながら。

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