第7話 本当の正体
高橋は、自分の小説の中で、
「日本という国は、宇宙人が、なぜかこの国にターゲットを示して、何かの試験的なことをしている」
というような、
「まるで、
「ミニター」
としての、国家というものを、創造していたのだった。
もちろん、全面的なフィクションであるが、
「あり得ないということでもないか」
と思わせる。そんな世の中を彷彿させる物語だった。
そこで、考えたのが、
「戦国時代における衆道」
という考え方だった。
要するに、高橋の中では、
「考えが先に進むにつれて、物語が出来上がる」
というよりも、
「結論が頭の中に浮かんでいて、そこから逆算する」
という考えが強いかも知れない。
しかし、
「小説というのは、時系列でしか進めることはできない」
と思っているので、
「だったら、考えながら、話を進めていく」
ということに掛かっているということではないか?
と考えるのであった。
高橋が、小説を書くうえで、
「室よりも量だ」
ということで考えるようになったのは、
彼も以前は、
「小説家になりたい」
ということで、他の人と同じように、作品を作れば、それを、いろいろな新人賞であったり、文学賞に原稿を送ることで、審査を受けるという形をとっていた。
しかし、ほとんどのところでは、一次審査も通らない。しかも、
「審査に関しての問い合わせは一切受け付けません」
というのは、昔からあることで、一次審査、二次審査の通過者を列記するだけで、それ以外は一切しることはない。
つまりは、
「どこがいかに悪いのか?」
などということはもちろん、
「自分は、不合格になったが、その中の順位としては、どれくらいなのか?」
というのも一切分からない。
それはそうだろう。
新人賞や文学賞というと、その審査をするのは、
「下読みのプロ」
と呼ばれる、一種の、
「アルバイトの連中」
である。
募集要項にある。
「審査員」
と書かれている有名作家の人が目を通るのは、最終選考に残った、数作品だけである。
しかも、応募作品が、500作品あれば、下読みのプロというのが、20人だったとすれば、
「一人で、平均、25作品を読むことになる」
ということなので、それぞれに、感想もいろいろあるわけで、しかも、プロなのは下読みだけで、作品の本質などどうでもいいのであった。
「下読みのプロ」
というのが見るところは、
「文章が体裁を整えているか?」
ということだけである。
「誤字脱字はもちろんのこと、応募原稿としての体裁が整っていなければ、その時点でアウトだ」
ということになるだろう。
もちろん、一人で何十作品も読むことになるので、最後の方は、ある程度惰性になってしまうだろう、
そういう意味で、
「読まれる順番」
というのも、運だといえるだろう。
結局、本当のプロが見るわけではなく、作品の本質にも迫っているわけではない。
そもそも、順位をつけるだけではなく。ただ、
「体裁さえ整っていたら合格。そうでなければ不合格」
ということになるだろう。
もちろん、読んでいて、読みやすい作品が、合格しやすいというのも、当たり前だということであろう。
だから、最終選考までの間に、作品の優劣など、つけられるわけがないのだ。
「下読みのプロ」
だって、ピンからキリまであるわけで、彼らの中には、この程度の審査すら、
「適性的には問題がないのか?」
といえるであろう。
それを考えると、
「小説家になるというのは、果たして目指すところとして正しいのだろうか?」
と考えるのだ。
新人賞を取って、出版社から、
「先生」
と言われ、
「期待の新人」
ということで、その出版社では、一人前ということだが、他ではまったくの無名である。
だから、新人賞などの賞を取ったとしても、あくまでも、
「スタートラインに立った」
というだけで、それ以上でもそれ以下でもない。
問題は、
「次回作が、受賞作よりも面白いかどうか?」
ということであり、作家のプロとして続かないのは、そこにあるからだ。
新しいものを求められるので、
「どんどん、いい作品を書かないと、取り残される」
というもので、ピークを越えてしまうと、そこで終わるといってもいい。
いまさら、
「ミステリー作家」
として売ってきた人が、その限界を感じたからといって恋愛小説を書き始めたとして、それが売れるだろうか?
30年くらい前であれば、
「自分独特の世界を作ってしまえば、○○小説の第一人者」
ということで、
「ベストセラー作家」
というものの仲間入りということで、
「小説家として、生き残る権利、資格のようなものが与えられた」
といってもいいだろう。
ただ、それも、
「今までであれば」
という状況でもある。
というのは、
「時代の流れが許さない」
ということもある。
というのは、
「今は、街から本屋も消えていっているし、コストのかかる、紙媒体における書籍化は難しい」
と言われている。
つまりは、
「ネット小説」
ということで、
「配信で買う」
ということになるのだ。
これは、音楽業界にも言えることだが、紙やCDなどのような媒体を売っているお店で買うか、せめて、その媒体を、通販などで買うかという時代であれば、分からなくもないが、今では、
「ネット配信」
で、スマホの画面で、小説やマンガが読めたり、スマホ自体に音楽再生アプリが入っていれば、ダウンロードして聞くだけのことである。
「媒体」
として作ってしまえば、どういうことになるのかというと、
「どれだけ売れるか?」
ということを予測して、作っておく必要があるということだ。
売れると思ってたくさん出版したが、実際には、まったく売れず、本屋などに置いてもらった分、ほとんどが、返品で出版社に返ってくる。そうなると、
「在庫」
ということで、
「倉庫や、そのスペースを確保しなければいけないわけで、それも、いずれ売れるというのであれば分かるが、売れずに返品を食らえば、二度と売れずに、それこそ、オブジェとして飾るしか手はないということだ」
オブジェであれば、一つあればよく、あとのほとんどは、ひどい言い方ではあるが、
「ごみでしかない」
ということになるのであった。
小説家としての、
「スタートラインに立つ」
というだけで大変なのに、
「今のような時代背景」
というものを考えると、
「小説家になる」
ということがどういうことなのかというのも分かるというものだ。
「小説家だけで食っていけるわけはない」
というのは、昔から言われていることで、よくドラマなので、
「小説家デビューは下はいいが、鳴かず飛ばすで、アルバイトで金を稼ぎながらでないと生活ができない」
という人がどれだけいるか?
ということである。
そういう人が、アルバイトで、
「下読みのプロ」
というのをするのかも知れない。
自分がデビューするための老竜門として通ってきた道だ。
「こいつらの中から、デビューする人もいるだろうが、したらしたで、俺と同じ運命をたどるだけだ」
ということになる。
「しょせん、小説家なんてそんなものだ」
と思うと、
「小説家が、食っていけないから、アルバイトをする」
というよりも、
「普通にサラリーマンをやりながら、趣味として好きな小説を書いている方がよほどいい」
ということになるのではないだろうか?
「まずは、生活の安定」
ということを思うだろう。
考えてみれば、小説家になりたいと思った時、誰もが思うのは、
「自分の本が、本屋に並び、本屋の人の作ってくれるポップを見て客が買ってくれる。自分は、編集者から、先生先生とちやほやされ、立場は編集者よりもこっちが上だ」
と思っていたのだ。
しかし、実際は正反対である。
「世の中というのは、金を出す方が絶対的な強さがある」
ということで、立場的には、読者が一番強く、そこから書店。出版社。そして、一番弱いのが、作品を描いた作家ということになるのだ。
もちろん、クリエイターとしての、尊厳はあるだろうが、そんなものは、商売の世界では関係ない。
作家というのは、
「作品を生み出すただの機械」
といってもいいだろう。
だから、
「生み出せない作家は、プロではない」
と言われることになり、自然と消えていくのが、関の山だといってもいいだろう。
今では、大きな商業施設が集まった都心部では、20年くらい前までは、本屋が4,5軒はあっただろう。
「一つのビルには一つは大きな書店があった」
といってもいいくらいだったのに、今では、1軒あるかないかが関の山だ。
しかも、大きな書店があったとして、本のレイアウトはまったく違う。
文庫本コーナーなどでは、昔は、売れる小説家の本であったり、直木賞作家であれば、たくさんの本が置いてあったものだが、今では
「誰が直木賞作家だったのかということすら分からない」
といえるだろう。
昔であれば、商業作家に対しての宣伝はすごかったが、今ではおとなしいものだ。
もっとも、
「宣伝をすれば売れるというものではなく、手に取ってみたいという本をいかに演出するかということで、難しいところになっている」
といってもいいだろう。
マンガでも同じことだし、音楽でも同じことだ。
「配信」
というのがいいのか悪いのか、やはり、
「媒体あっての芸術だ」
と思っている人は古いのだろうか?
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