第2話 失踪者
そんな、
「世界的なパンデミック」
というものは、表面上の落ち着きを取り戻している。
というのも、伝染病のレベルを、最高級から、
「季節性の風邪レベル」
にまで引き下げたことで、マスゴミも騒がなくなってきたし、政府も自治体も、何も発表しなくなってきた。
この引き下げは何を意味しているのかというと、
「患者の治療費は今まで政府持ちであったが、個人負担になった。これはワクチンや予防接種においても同じであり、自費負担である。さらには、隔離の必要もなく、政府が国民に要請することもなくなる」
というものである。
もちろん、再度蔓延してくれば話は別だが、要するに、
「国も自治体も、出す金がなくなってきた」
ということであろう。
もちろん、中には、まだまだ余裕のあるところもあるだろうが、要するに、
「金を使いたくない」
ということであり、
「国家としても、これ以上、この件で煩わされるのは、たまらない」
ということになるのだろう。
ただ、現場は混乱する。
しかし、一度引き下げた以上、国家は、
「知らぬ存ぜぬ」
と決め込むことだろう。
それが、国家であり、政府というものであった。
世界で起こっている戦争も、ある意味、
「世界的なパンデミック」
というものが猛威を振るっていたことで、
「戦争どころではなかった」
ということなのかも知れない。
世界的に、
「パンデミック」
というものが収まりかかってきた時、
「待ってました」
とばかりに、隣国に攻め込んでいったり、あるいは、
「パンデミックの間にも、小競り合いは続いていたのだが、表に出ていなかっただけで、ほとぼりが冷めたということで、相手国が報復をしてきたことで、戦争がエスカレートしてきた」
と言ってもいい。
先に戦闘状態に陥った国を、冷静に社会情勢とを比較しながら見つめたことで、
「こちらがいつ戦闘開始すればいいか?」
ということを冷静に見つめているのかも知れない。
それを考えると、
「戦争というものは、世界情勢をも見ていないといけない」
ということになる。
もっとも、それぞれの戦闘には、その理由が、根本的なとこrで違っている。
最初に戦闘を起こしたところは、
「元々、連邦国家に含まれていた2大国ということだったのだが、その領土問題と、片方の国が、別の陣営に入ろうと考えたことで、裏切者として映ったことでの戦闘行為」
ということであった。
かたや、あとから戦闘状態となった国としては、
「元々は、宗教問題と民族問題であったが、大国が、この二つの民族に対して行った、二枚舌外交が遺恨を残し、しかも、かつては、大戦中に、民族的な虐待を受けたことで、彼らは、国家を持つということで、自分たちを守ることに気が付いた。
そこで、宗教的な聖地に建国しようとすると、そこには、
「異教徒の国があった」
ということである。
建国はしたのだが、当然、そのわだかまりは最大に達することになるのだ。
それが、
「宗教問題と民族問題」
という二つの側面からの紛争となり、
「度重なる戦争」
と引き起こすことになったのだ。
少なくとも、建国されてから、50年以上という、半世紀くらいの間に、大きな戦争が、5回は起きていたのである。
何といっても、
「一つの都市に、3つの宗教の聖地」
というのがあるということなので、それは厄介な話である。
そもそも、自分たちが住んでいるところに、他の家族がズケズケとやってきて、そこに勝手に国家をつくるのだから、先住民はたまったものではない。
さらに、宗教が絡んでいるので、話のややこしさは、さらに深いといってもいいだろう。
それが大きな問題となり、ずっと、小競り合いのような問題が起きていたが、すでに、
「憎しみしかない」
と言ってもいい、両陣営なので、実に厄介なことであった。
そんな世界情勢は、元々燻っていたということは、超大国には分かっていたことなのかも知れない。
それでも、
「世界的なパンデミック」
という、にっちもさっちもいかないという問題から、身動きが取れなかったが、その間隙を縫って、戦闘状態が勃発したということだろう。
どちらにしても、
「人間というものは、戦争から逃れられない」
と言ってもいいのではないだろうか?
まだ、何も起こっていないが、怪しいと思われているところも、今、行動を起こして、世界を敵に回すことはできないということで、その様子をうかがっているのかも知れないのであった。
そんな時代背景の中で、
「まるで時代錯誤もいいとこだ」
という言葉で叫ばれるようになった、一つの社会問題があった。
それが、
「神隠し」
と呼ばれたり、
「人間蒸発」
と言われたりしたものであった。
「神隠し」
と
「人間蒸発」
とでは、似ているところもあるが、そのニュアンスは、結構違っているといってもいいだろう。
「神隠し」
というのは、一種の、
「かどわかし」
と言ってもいいのだろうが、
「誰かに誘拐された」
あるいは、
「何かの事件に巻き込まれる」
ということでの、
「拉致監禁、誘拐」
の類であったり、
「殺害」
という最悪の結果だったりということがほとんどであろう。
しかし、
「人間蒸発」
ということであれば、それは、他力ではなく、
「本人の意思」
というもので、行方をくらませたり、家出であったりと言った、
「失踪」
というものが多かったりする。
しかし、放っておくわけにもいかないことも多い。
「思い余って自殺を試みる」
ということも結構あり、そのため、捜索願を出す人も多いのだ。
しかし、警察というところは、捜索願を出したとしても、ほぼ動いてはくれない。よほどの事件性というものがなければ、
「そのうちに帰ってくると言わんばかりに何もしようとしない」
ということである。
だから、実際に、自殺が見つかって、いくら家族が、
「だから、捜索願を出したのに」
と言っても、後の祭りである。
家族などが捜索願を出し、心当たりを探してみるということはできるだろうが、捜査権というものが、一般市民にはないので、できることは限られている。
「やはり警察の介入が必要」
ということになるのだろうが、いくら警察とはいえ、個人のプライバシーには入り込めない。
いくら、
「捜査権」
というものがあろうとも、ほとんど何もできないというのが、警察というものではないだろうか?
特に、時代の流れからか、
「個人情報」
に関しては、昭和の時代からこっち、相当に厳しくなっている。
ネットの普及による詐欺問題であったり、ストーカーによる、個人の特定など、その時代くらいから、社会問題になったことから、個人情報を漏らさないということが叫ばれるようになった。
もっとも、それまでが、
「ザルだった」
と言ってもいいくらいで、逆に犯罪が、
「多様化し、詐欺なども、巧妙になってきた」
と言えるのではないだろうか。
そんな、
「行方不明者」
を、これら二つに分けることが基本的にはできるだろう。
ただ、神隠しというのは、恐ろしいもので、
「政治目的な拉致」
というのもあったりするのが、半世紀に渡って問題になったりしている。
ただ、これらの、
「捜索願」
というものを出すまでもなく、
「行方不明というのがどういうことなのか?」
というものが分かることがある。
それが、
「営利誘拐」
というものだ。
基本的には、誘拐した相手に、
「身代金」
という形のものを交換条件として出すというものであった。
これには、
「金銭的な目的」
というのもあれば、
「相手に対しての恨み」
というのもある。
もちろん、
「そのどちらも」
というのもある。
身代金を要求した相手の会社のかつての従業員で、首になったことでの逆恨みということもあるだろう。
また、
「自分の会社が倒産寸前のところで、取引先として、援助をお願いしたのに、援助が断られ、倒産したことでの逆恨みということもあるだろう。
確かに、
「誘拐された側の会社も悪かった」
ということもあるかも知れないが、少なくとも、誘拐された人が、社長でもない限りは、誘拐された人は、完全な、
「とばっちり」
ということになるだろう。
しかし、営利誘拐という犯罪は、ある意味。
「割の合わない犯罪」
と言ってもいいかも知れない。
「営利誘拐」
という罪は、犯したというだけで、罪は重い。
しかも、成功率はかなり低いとも言われている。
何といっても、
「身代金を受け取るところが、一番確保されやすい」
ということで、犯罪が難しいことを裏付けているといってもいいだろう。
だから、
「営利誘拐というのは、よほど相手に恨みを持っていないかぎり、割に合わないものはない」
と言ってもいいだろう。
あれは、昭和の終わり頃だっただろうか。
「ある食品メーカーの社長が誘拐されたことから端を発した事件があったが、食品業界の不特定多数を相手に、何度も脅迫や誘拐などを繰り返した事件があった。犯人は捕まらなかったが、かなりセンセーショナルな事件であることに違いはない。犯人の目的も分かっていないので、犯人を特定することもできない。しかも、狙われた食品メーカーは、いくつもあり、その共通点を見つけるのは難しかった」
と言えるだろう。
「まさか、事件を混乱させようとして、不特定多数の食品メーカーを狙ったということなのか、実に恐ろしい犯人であった」
ということである。
それからは、あまり営利誘拐というのはなくなってきたのではないだろうか?
というのも、昔のようなやり方は通用しなくなった。
昔であれば、まず誘拐したということを告げる電話が犯人からあり、
「警察に言えば、誘拐した相手の命はない」
などと言って脅迫することで、中には、そのまま犯人の言いなりになるパターン、さらには、
「犯人は、警察に通報されることを分かって言っている」
ということで、警察に通報する人のパターンがあるだろう。
警察は、電話工事の職員に化けて、家に逆探知の装置などを設置することになるだろう。
しかし、これもおかしな話で、
「誘拐した家で、タイミングよく、電電公社の人がやってきて、工事をするなど、普通はありえない」
ということで、犯人に分かってしまうということなのに、それでも、
「バレないようにしよう」
という涙ぐましい光景は、ドラマなどであれば、滑稽医師か映らない。
しかし、実際に警察は、逆探知の装置を設置して、家族と打ち合わせをするのだ。
「なるべく引き延ばしてくださいね」
という。
だが、なんといっても、誘拐された家族は、別に俳優のプロではないのだ。
しかも、家族が誘拐されて気が動転している。そんな状態で、警察の言うとおりに本当にできるというのであろうか?
実に不思議なことである。
たいていの場合は、逆探知をしようとしても、時間が短すぎて、
「ダメだった」
ということが多い。
もし、逆探知が成功しても、公衆電話からの電話で、すぐに犯人は立ち去るだろうから、特定などできるはずもない。
何しろ、警察は、判明後に動くわけだからである。
しかし、今の時代であれば、まず不可能に近いといってもいいかも知れない。
なぜなら、今はいたるところに、防犯カメラが設置してあり、WEBカメラなどもあるのだ。
だったら、
「携帯電話で掛ければ」
ということになるだろうが、今は、GPS機能などがあるので、警察が令状を示せば、そのケイタイの位置や、所有者は開示できるということになる。
さらには、
「誘拐」
ということ自体が難しくなる。
それこそ、子供や会社で責任のある立場の人は、防犯上、GPSをオンにしているだろうから、そこから、すぐに足が付くというものだ。
そういう意味でも、昔からの犯罪として、
「誘拐」
あるいは、
「強盗:
というのは、割が合わないといってもいい。
「強盗」
というと、個人の家だったり、コンビニなどの、夜間営業のところで、ほとんど店員も客もいない時間があるというと、コンビニにしかならないだろう。
しかし、店長も会社もそれくらいのことが分かっているので、ほとんどレジに金が入っていないというのが当たり前というものだ。
だから、コンビニ強盗をしても、被害額が、
「数千円」
ということで、それこそ、一日アルバイトの日給と変わらないといってもいいくらいにしかならないのだ。
当然、割が合わないわけで、
「数千円のために、人生を棒に振る」
ということになるのである。
しかも、今の時代は、
「キャッシュレス」
ということもあり、現金自体がないのだ。
「時代は変わった」
ということになるのであろう。
時代の変化とは、
「科学の発展」
ともいえる。
犯罪というものも、時代とともに、やりにくくなっているのだろう。
何といっても、防犯カメラや、ドライブレコーダーなど、いたるところにカメラがある、これでは、アリバイトリックも、何もできなくなるだろう。
さらに、
「死体の身元を隠す」
という目的での、
「死体損壊」
いわゆる、
「顔のない死体のトリック」
というものも、
「DNA鑑定」
による、
「本人確認が可能なことで、なかなか難しくなってきた」
それを思うと、
「探偵小説」
と言われていた時代の、トリックは、なかなか使えなくなったといってもいいだろう。
しかも、
「探偵小説というのは、いくつかのタブー」
というものが存在する。
たとえば、
「ノックスの十戒」
などというのがそのいい例で、実際の事件ではなく、読者を必要とする探偵小説では、
「読者に配慮した」
という内容の話でなければいけないというものであった。
それだけに、探偵小説というものを考えた時、その特徴として、
「事件が発生し、事件を解決する役である探偵がいて、犯行を行った犯人が、綿密な計画を立てて、探偵と対決をする」
という、
「分かりやすいストーリー」
というのが、探偵小説である。
もちろん、変質的な探偵小説も存在するが、
「本格派」
と呼ばれるものは、ほとんど、
「この流れに沿っている」
と言ってもいいだろう。
その中のバリエーションとして、
「トリック」
というものがあるのだが、それも、ある程度のものは、すでに、
「黎明期に出尽くしている」
と言ってもいいだろう。
トリックというものとして、
「アリバイトリック」
「死体損壊トリック」
「密室トリック」
「一人二役」
「叙述トリック」
などと言われるが、そのほとんどは、バリエーションによって、組み合わせるかなどしないと、トリックというものは、ただの枝葉でしかないということになるであろう。
実際にトリックを組み合わせるもので、
「アリバイトリックと密室トリック」
「一人二役と死体損壊トリック」
などというものを読んだことがあった。
まだ戦後くらいの頃で、実際にトリックとして本格ミステリーとするのであれば、これくらいの組み合わせは必要だと言えるだろう。
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