四ノ宮楓という女。…プロローグ

 私…四ノしのみやかえでの人生を語るには、欠かせない人物が2人いる。


 父と母…私の両親。


 まず初めに、私の父の話をしてあげる。


 四ノしのみや清十郎せいじゅうろう


 恐らく私よりも上の世代であれば、全国民が知ってるんじゃない?


 この男は、それほどまでに有名な"政治家".だったわけだし。


 まぁ、有名といってもその方向性は良くない方向だけどね。


 『脱税』『裏金』『暴力•圧力』『買収•賄賂』…


 私の父は、誰もが認めるクズだった。


 これ全部、"ある事件"がきっかけで父が窮地に立たされた時に、その弱った父にトドメを刺すかのように癒着していた団体から次々と梯子を外されて、暴露されていった内容達なの。


 マスメディアは一斉に父を取り上げ、袋叩きにし、政治家としての息の根を完全に止めた。


 でもまぁ、正直こんな話は私にとってはどうでもいい事ね。マスコミも暴露した政治家も、結局は醜い権力争いをしているだけだし。


 ただ、大嫌いだった父が失脚したことに関しては、ざまぁみろと心の中で嘲笑ってあげる。ほんと、最高の気分だったから。


 まぁ、これは私にとってはその程度の事件でしかないってこと。私の人生に関わってくるのは、この失脚する前の、全てのきっかけとなった"ある事件"の方ね。


 ある事件…それは、父の不倫報道のこと。


『10股以上の大不倫』

『15人以上の隠し子発覚』


 愛人のうちの数人が正妻の座を取り合って、その中の1人がマスコミに情報提供をしてしまったのがきっかけで、公になったこのスクープ。


 ほんと、どこまでも馬鹿な男よね。


 まぁ、ここまでならあんたも調べて知ってる事でしょう?


 でも、母の話をするにはこの話はベースになるから話した。


 だから、ここまでの父の話をもう一度頭に入れた上でこれからする母の話を聞いてほしい。




 私の母は美人で、優しくて、私の自慢の母親だった。賢く、博識で、なんでも器用にこなし、私に色々な事を教えてくれた。


 …ただ不幸だったのが、生まれつき身体が弱かった所。そこだけが唯一の欠点。


 そして、その唯一の欠点が最低最悪の父と巡り合わせてしまうの。




 資産家の両親の元に生まれた母は、本来であれば何不自由なく過ごせるはずだった。


 …でもね、身体の弱い母はその身に子を宿す事ができなかった。つまり、後継を残す事ができなかったの。


 資産家の両親にとって、その事実を持つ母は『ただの出来損ない』だった。


 そのせいで7人居た兄妹達の中で冷遇され続け、1人だけ最低限で質素な暮らしを科せられてたんだって。…本当最低。


 そして、そこを父に利用されたの。


 父が、母の両親に持ち込んだ話を、私なりに要約するとこうなる。


『私に資金と"出来損ない"を提供してくだされば、後に見返りとして重要なポストを渡す事を約束しましょう。』


『その出来損ないな娘を利用するのです。』


『"身体の弱い妻の為に死に物狂いで働く政治家"…国民はこう言ったフレーズにころっと騙される。』


 どう?クズでしょう?


 そして、こんなプレゼンに母の両親は同意した。こっちも同類ね。


 それで、結局約束通り父に対して多額の資金とマスコミを使った情報操作を繰り返し、父は一躍有名な政治家に上り詰めたわけ。


 そして、父の"愛妻家"のイメージ付けに散々利用され尽くした母は、愛人達と関係を続ける父の隠れ蓑として最適だった。


 本当、母にとって最低最悪な人生だったと思う。


 そんな経緯があって、私と母はずっと二人で暮らしていたの。常に愛人とよろしくしていた父が帰ってくる事はなかったからね。


「ちょっと、お話を遮ります。すみません。」


 なにかしら?


「…聞き間違いでなければ、お母様は子を成せないと先程おっしゃっていた気が…」


 …そうね。それもちゃんと話す。


 …結論から言うと私と母は血がつながってない。だから正確には義母ね。


 言った通り、母は子を成せる健康体じゃなかったから。


 じゃあ、私は一体誰なのかって?


 …まぁ、あんたの事だから薄々わかってると思うけど、私は父と何処の誰とも知らない愛人との子。…ほんと、最悪よね。


 この事を知ったのはね、私が中学生にあがった頃。その時に私が学校で暴力事件を起こしたの。そしてこの時に、父とも初めて会った。


 中学校って、親が参加する行事っていくつかあったでしょ?それに父は当然、母も中々これなくてね。その事に関して同級生に馬鹿にされたの。


 でも正直、私が馬鹿にされる分にはどうでもよかった。気にもしなかった。


 …けど、あの時は母も一緒に馬鹿にされたの。


 母はね、何度かは学校に来てくれた事があるの。その時に…車椅子を使って来たのね。多分同級生はその母の姿を見てたんだと思う。


 そんな母の身体的な部分を、笑いながら馬鹿にされた。


 そんなの、許せるわけがなかった。


 だから、母を馬鹿にした同級生の男子を思いっきりぶん殴っちゃった。何度も何度も。


 それが大事になっちゃって…ここで父が登場ってわけ。


 先生に叱られながら生徒指導室にいたらさ、急に知らないスーツ姿のおじさんが入ってきて。


『この度はうちの娘がすみませんでした。』


 とか言い出すの。

 

 訳がわからなかったよね。あんた誰だよって。


 そんな風に困惑しているうちに、気づいたら父と先生との話がついててね、また気づいたら私は父の高級車に乗せられてた。


 そして、母が待つ家までひっぱっていかれたんだけど…


 私はそこで、初めて会った父親の正体を知る事になるの。


 



 


 


 


 

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いじめの一環で抱かれた私、初めてを奪った貴女に恋をする。 水瀬 @minase_yuri

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