番外編…あんたの心をへし折りたい。

☆七星姫乃の独り言☆


「…本当はね、最初はあんたの事いじめるつもりなんかなかったの。絶対に信じてもらえないと思うけど…」


「初めてあんたを見た時。あんたの事がね、気になったの。」


「あの学校にいる連中は、みんな私に絶対服従。媚を売ってくるキモい奴らばっかり。それは生徒だけじゃなくて、先生達までみんな同じ。」


「たまにいる神谷みたいに私に軽口叩ける奴は大手企業のご子息だったり、政治家の息子だったりで権力を持ってる奴らなの。」


「そんな中で、あんただけは何の権力も無いはずなのに、私に興味を示さなかった。媚を売ることはなかった。学校に来て、誰とも話さずに帰っていくだけ。」


「…それで気になったの。あんたの事が。」


「…普通に話しかければよかったわよね。」


「でも、あの頃の私は色んなことで自分の人生が嫌になって。腹いせに学校でやりたい放題してたから…そんな選択肢はなかった。」


「はじめて私があんたに話しかけた時のこと覚えてる?」


「クソみたいな連中を連れて、私が先に声をかけた。」


「『あんた、入学してから1ヶ月経ってるのに未だにこの私に一度も挨拶しにこないなんてどうゆうつもり?』」


「今思うと、ほんとどうかしてるわね。昔の私。」


「『この方をどなたと心得てるの!!』」

「『信じられない!』」

「『気持ち悪い髪型をして!』」


「そんな私の言葉に、あの連中は私のご機嫌取りをしようと酷い言葉をかけたのよね。思えばそれがいじめが始まるきっかけだったかもしれない…」


「それでね。その時あんたは私達に向かってこう言ったのよ。」


「『えっと…誰ですか…』って。」


「連れてきたあいつらはカンカンに怒ってたけど、私は違った。」


「あんたのことを羨ましく思ったの。」


「他に流されず、ただ1人、己の道を歩く。」


「『七星』に決められていた道を『七星』に集まってきたゴミ共に囲まれて歩いてきただけの私には、孤独なあんたが眩しく映った。」


「それから捻くれてた私はね、こうも思ったの。」


「『どうしてもあんたの心をへし折ってやりたい』」


「そこから私達の本格的ないじめが始まった。」


「あんたを私に服従させたかった。他の奴らと同じなんだって、思い知らせてやりたかった。」


「どうせ『七星』には勝てないんだって。」


「けど、どれだけいじめてもあんたは登校し続けた。まるで気にしていないように。」


「だからあの日、最後の手段に出た。」


「あんたの大事な物…処女を、この手で奪ってやろうって。」


「ごめん。最低よね…」


「でもね、その時には多分…あんたに惹かれてたんだと思う。」


「私を取り巻いてた奴らが、あんたの処女を他人に渡そうとした時に、ありえないくらいの怒りが湧いたの。」


「『こいつは私のだ。誰にもやらない。』って。」


「それからあんたを初めて抱いた。…正直、すごく興奮した。」


「あんたの綺麗な肌を、絶対に他の奴に触らせたくなかった。」


「でもここまでヤれば、さすがにあんたも不登校になると思った。『七星』に屈すると思った。」


「だからあんたを抱くのもこれが最初で最後だと思ったら、何時間も抱いてしまった。」


「でも次の日、普通に登校してきたあんた。私がどれだけ驚いたか。」


「それから次の日も、その次の日も、そのまた次の日も。」


「はっきりと私の負けだと思ったわ。」


「そして、同時にあんたの事が…好きなんだと自覚した。」


「正直セックスした時に、自分の心には薄々気づいちゃったんだけどね。あんたの身体に本当に興奮してたから。」


「でも遅すぎよね。…もう手遅れ。」


「だから私はいじめから手を引いた。あんたを自由にしてあげようと思った。」


「なのに、あんたが全く切り揃えられてない髪型で登校してきたから、独占欲が抑えられなかった。」


「…あんなの、誰かにやられたんだと思うじゃない。なんであんなに下手クソなのよ。」


「自分で切ったって事実を知った時は、内心すごく焦ったわ。もうあんたのワイシャツ引き破っちゃってたし。」


「そのせいで丸見えになったあんたの胸。…あの時あんたを抱いた記憶が蘇って、ダメだった。」


「『奴隷』だなんて言って、またあんたを無理やり抱いた。」


「…ほんと、どうしようもないわよね。」


「それから私が用意した美容室に行って、出てきたあんたを見て惚れ直したわ。」


「ほんと、前髪で隠すのが勿体無いくらい可愛い顔をしてたから。」


「それに、あんなに酷い事をした私に向かってあんたは照れたように笑うから、感情が揺さぶられたわ。」


「今でこそ、そのイメージチェンジが私の為だったって知ってるから、可愛いいエピソードとして私が保存しているけど…あの時は、違ったのよね。」


「次の日教室に入ったら、私が整えてあげたあんたの頭を撫でてるあいつがいた。」


「神谷隼人…私ののり子をいやらしい目で見るクソ野郎。」


「え?いじめから助けたんだからいい奴だろって?」


「…ふざけないで。」


「イメージチェンジをする前ならいい奴で通るかもしれないけど、のり子が可愛くなってから手を差し伸べてきたんだから下心しかないわよ。」


「ここが漫画の世界ならあいつは主人公だったかもしれないわね。いじめから助けた男が美少女と結ばれる。」


「でもね、そんなの幻想よ。いじめられてる側は、助けてくれた相手から好意を抱かれてるなんて知ったら普通に気持ち悪いと思うんじゃないかしら。」


「そもそも、いじめから助けた相手と恋に落ちるって、それ最初から下心しかないじゃないって話よね。ほんと気持ち悪い。」


「…まぁ、いじめてた私が言うなって話ではあるのだけど。」


「…話が逸れたわね。」


「それで、まだ真実を知らなかったその頃の私はそのシーンを見て一瞬で悟ったの。」


「『イメージチェンジをしたのは、神谷好きな男の為だったんだ』って。」


「もうね、怒りが込み上げてきて仕方なかった。」


「だからあんたを拉致した。」


「酷い考えだけど、私のモノにならないのなら、誰のモノにもならないように汚し切ってやろうとさえ思った。」


「…ほんとに、狂おしいほどあんたの事が好きだったから。」


「でも、あんたは思わぬ行動に出た。」


「トイレの個室で、制服はおろか地味な下着まで全部脱いで。」


「『抱かれるなら七星さんじゃなきゃ嫌だ』って。」


「私があの時どれだけ内心で喜んでいたのか、興奮していたのか、あんたは知らないでしょう。」


「結局個室で5回くらい致したわよね。それでも私はまだ全然足りなかった。」


「私と2人きりなら別荘に行ってもいいいって言うあんた。それにまた私の胸は踊った。」


「それで意気揚々と外に出たのよね。…なのに、あいつは本当に空気読めない。」


「本当に漫画の主人公気取りで、正義の味方面して、あんたの事を私から引き離そうとした。」


「でも、あんたを抱いて、冷静になってたあの時の私はね、神谷にあんたを渡しても良いかななんて思ってたのよ。」


「ほら、私と違ってあいつ男だし。生物学的に言えば、正しい恋になるでしょ?」


「もうね、そうやってあんたの幸せを考えるくらいには、私はあんたの事を愛しきっていた。」


「だから、あんたに選択肢をあげた。あんたがあいつを選んでも、文句なんてなかったわ。」


「なのに、あんたは王道ストーリーを無視して、私を選んで飛び込んできた。」


「あの時の神谷の顔、傑作よね。私も思う存分煽り倒してやったわ。」


「もうね、別荘についてからは、私を選んだあんたが悪いって思いながら我を忘れてあんたを抱いた。」


「あんたが快楽に身体を震わせる度に、私は幸せな気持ちになってたの。」


「でもね、あまりにも自分に都合が良すぎて…やっぱりおかしいと思った。」


「それで改めて考えてみた。…あんたが『七星』に取り入ろうとして演技をしていたと仮定したら、全部辻褄が合った。」


「だって、神谷の事が嫌いというだけならまだ納得できるけど、いじめた相手である私に好意を持つなんて理解不能だもの。」


「でも、それでもいいと思った。」


「もう、私はあんたの事心から愛してたから。」


「なのに…」


「告白してくるとか…意味わかんない…」


「けど、私の事が好きだと泣きじゃくるあんたを見て…例えこれが演技で、私は騙されてるんだとして…それでも、あんたを私のモノにすることを選んだ。」


「『七星』でしかなかった私を、あんたが『姫乃』にしてくれた。」


「あんたが、私が私でいれる居場所になってくれた。」


「恋人同士になって、初めてキスをして。」


「…言っておくけど、私のファーストキスだったんだからね。…なのに、いきなり泣き出すから、やり方を間違えたんだと本気で焦った。」


「それからはもう、止まれなかった。何時間もあんたを抱き続けた。」


「朝起きて、あんたの下半身が動かない事実に本当に焦った。身体ばっかり求めすぎて、嫌われるんじゃないかって。」


「だけどあんたは、そんな私を更に煽ってきて…本当に勘弁してよと、内心では性欲とひたすら戦ってた。」


「結局あんたの誘惑に負けて、朝一番の行為をした。…それを終えて、ようやく冷静になってマリアを呼んだ。」


「マリアは私の数少ない信頼をおける人。…正直、事後処理を頼むのはすごく恥ずかしかったけど…」


「結局マリアが片付けている間、あんたをお姫様抱っこしてあげたけど…私を見つめるあんたに我慢できなかった。」


「マリアに見られないように、何度もキスをした。」


「まぁ、でもそこはさすがはマリアね。…全部バレてたわ。」


「それからマリアが貯めてくれたお湯に2人で浸かった。」


「安静にしなきゃダメだって分かってるけど、正直水に濡れたあんたの身体にはすごく興奮してたのよ。」


「そんな感じで、2人でゆっくりした時間を過ごして…親の話になった時に、あんたは異様な反応をしたのよね。」


「だから、問い詰めた。恋人である私が、あんたの味方だって言い聞かせて。」


「そしたらあんたの口から飛び出た過去は、想像以上のものだった。」


「私の憧れた孤独の四ノ宮のり子は、最低の親によって強制的にそうさせられただけの、可哀想な女の子だった。」


「もう憧れとか、どうでもいい。…ただあんたを、守ってやりたかった。」


「それに、過去の私は最低すぎた。なのにこんな私を好きになってくれたあんた。…奇跡にも程がある。」


「信じられない話だけど、あんたが私を強く求めているのは、私の身体が一番よく知っている。」


「それに、なんでもお願いを聞いてあげると言ってあげた時、あんたが最初に出したお願いが全てよね。」


「『嘘でもいいから、好きって言われながらキスされたい』」


「愛しさが溢れて仕方なかったわ。」


「同時に、自分を恥じた。」


「だって私、あれだけあんたの事好き勝手に抱いておきながら…あんたに好きって言ったなかったのよね。」


「なんだかんだ、あんたに裏切られるのが怖かったんだと思う。…だから、私からは好きだって言えなかったんだと思う。」


「けど、その時覚悟を決めたわ。」


「私の思いを乗せて、とにかくあんたに口付けをした。」


「本当に幸せだった。」


「気分が最高潮になって、最後に『愛してる』って伝えた時、あんたは身体を痙攣させたわよね。」


「正直びっくりした。言葉だけでイけるだなんて。」


「同時に、私の事をそれだけ好きなんだと理解できた。」


「…私はね、その瞬間生まれ変わったのよ。」


「『七星』なんか使わなくても、あんたを守れるようになろうって。」


「無いとは思いたいけど、もし、あんたが『七星』の利権を欲しているのだとしても、『姫乃』の方が『七星』よりも価値があると思って貰えるような女になれば問題ないでしょ?」


「あんたの裏がどうであれ、自力で全部へし折って、必ず私のモノにしてやると誓ったの。」


「それがね、私が初めて自分の道へ一歩踏み出した瞬間だった。」


「あんたは私に言った。私があんたの生きる意味だと。」


「それは私も同じなの。」


「あんたは、私の全てなのよ。」

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