第9話 俺は作戦の失敗を理解した
「今日が最終日よ。デイル、自信はあるの?」
ついにウナさんを捕まえる最終日がやってきた。
朝から追いかけているのだが、全く捕まえられない。それどころか指一本も引っかからない。
さすがに少し焦りを感じてきた。
「デイル。もしかして私が高嶺の花だって気付いてに諦めてしまったのかしら? 私はそれで一向にかまわないのだけど、貴方は頭で考えるんじゃなくて、最後まで走り続けるの方がいいわ」
ウナさんは、すぐに去ってしまうのではなく、なぜか俺の近くに現れるを繰り返している。
チャンスは増えたんだけどな。
昼食を挟み、気付けばすでに6時間が経過して、すぐに夕方がやってきた。
さすがに全身の疲労がピークに達していた。
(手詰まりだ。せっかく仲良くなれたのに……)
見かねて回復魔法をかけてくれたウナさんは、心配そうにこちらを見つめている。
さて、どうしたら……。
その瞬間、ウナさんの後ろで黒い影が動く。
「危ない!!」
俺は思わずウナさんを突き飛ばし、その黒い影からの攻撃を剣で防ぐ。
「レジェンドベア!」
ただの熊ではなく、体の大きさも2倍で力も強い。
俺は剣を構え直し、レジェンドベアに相対する。
レジェンドベアは両手を挙げて、攻撃の準備をしている。
俺は静かに息を整え、剣の震えをなくすべく集中を意識する。
やがて、剣先がぴたりと止まる。
「むん!!」
レジェンドベアに一足で近づき、イアイで胴を一閃する。
音も立てずに、胴が両断され、地面に落ちる。
良かった、最後にウナさんを助けた……な。
そう思った瞬間、俺は膝から崩れ落ち、前のめりに倒れていた。
どうやら、気力の限界のようだ。
体力は回復できても、気力はそうはいかないからな。
残念。エルフのお嫁さんは諦めるとするか。
§
どれだけ眠ったのだろう。
誰かに頬を叩かれる感触で目を覚ます。
「デイル。もうすぐ深夜の12時よ。このままだと貴方の歪んだ望みを達成できないわ」
どこが歪んだ望み?
でも、全身が痛んで身体を動かせそうにない。
目を開けると、すぐ上にウナさんの顔があった。
「手は動くのかしら?」
ようやく動かすけれども、俺の手は何も掴めなかった。
「勝負は……らしいわね」
その笑顔を見た瞬間、俺はまた意識を失っていた。
§
ん? 何だか髭が痛いな。
目を開けると、誰かが俺の髭をいじっている。
しかも、ウナさんが俺の頭に膝枕をしてくれていた。
「え?」
結局、昨日は眠ってしまったから賭は俺の負けだ。
身体を起こそうとすると手で制される。
「デイル。もう少し休んでいるといいわ。私の膝で眠れるなんて幸運、滅多にないのだから」
含み笑いをしながら、ウナさんがいつも通りに話しかけてくる。
若干、優しさが含まれているかな。
結局、俺は昼頃に起きたんだけどウナさんはずっと膝枕をしてくれたんだ。
ウナさん、最後にありがとう。
俺は起き上がると大きく伸びをする。
でも、俺の夢は一からやり直しになった。
さすがに気落ちする。
ただ3ヶ月、俺はお嫁さんのために努力できた。
あの生きてるのか死んでるのか分からなかった生活が、ウナさんのおかげで大きく変わったのだ。
帰り支度をして、ついにウナさんと別れる時間がやってきた。
ウナさんは長い金髪をたなびかせて、俺がしている作業をじっと見つめていた。
「ウナさん。今までありがとう。お嫁さんにできなかったのは残念だけど……。出会えて嬉しかった。それに会話も楽しかったよ」
髭面の37歳が言うには気恥ずかしい限りだったが、それでも気持ちまで若返った気がする。
体力・筋肉ともに以前とは比較にならないほど増えており、ヒョロガリを卒業できて嬉しい。
ま、これからは石運びをして、お金を貯め……残念だ……。
すると、そこに3ヶ月前に出会ったもう一人のエルフが現れる。
「(エルフ語)ウナ。契約はどうなった?」
「(エルフ語)ケルフィ、私の負けよ。この男についていく」
「(エルフ語)ほう、こんな男にか。まあ、いいだろう。だが、ニンゲンの世界に行くのだから、もう二度とエルフの国に戻ってはいけないぞ」
「(エルフ語)分かってる……。今までありがとう」
「(エルフ語)ふん、別に礼を言われる筋合いはない」
何を話しているのか分からない。二人揃って帰って行くのかな?
でも、俺の意に反して、ウナさんはその場からいなくならなかった。
「ウナさん?」
「あ、あの、レジェンドベアから助けてくれた時に私に触れて、ちょっとだけ掴んだから」
「掴んだから?」
もしかして?
「とりあえず貴方の生活を見に行くわ。まあ、ニンゲンの世界を勉強するのも悪くないし」
はい、残念。
そうだよね、古の契約は結ばれなかったんだね。
がっかりしている俺を見て、ウナさんは優しく励ます口調になる。
「ま、まあ、私はニンゲンのお金をもってないから、しばらく貴方の家に滞在するわ。私の部屋はあるのかしら?」
あります、あります!
でも、エルフと一つ屋根の下で?
「勘違いしないでね。女性になれていない貴方と話すボランティア職員が、家に駐在するとでも思ってもらえればいいわ」
酷い言いぐさだな。
でも、しばらくは一緒に過ごせるんだな。
「よろしくね」
ウナさんの笑顔、眩しいな。
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