第8話 俺は剣の道場にも通い始めた

 俺は町一番の剣の道場「一閃道場」の門を叩いていた。

 理由はもちろん、綺麗なお嬢さんが師範代だからだ。


 以前、道場体験をした際に、師範代のリータさんが手取り足取り教えてくれた思い出が強く心に残っている。

 スキンシップ増し増しが特徴になっている大人気の道場だ。

 月謝は高いけど。


 そのため週に3日は格闘技道場「マックール道場」へ、さらに週3日は剣の「一閃道場」へ通い始めた。

 これもエルフのウナさんのおかげだ。

 毎回、回復魔法をかけてもらわなかったら、絶対に身体を壊していたと思う。


 一閃道場で何したいのか聞かれたとき、俺は迷わず話していた。


「イノシシを一撃で倒せる技を教えてくれ!」


「は?」


 リータさんの困惑の表情が可愛い。

 そんな可憐なリータさんの剣技は、この町でも1・2を争う。

 ぜひ、技を身につけて肉をゲットしたい。

 そして、その肉で筋肉を喜ばせたい。


 最近、俺は身体の変化を強く感じている。

 足も腕も太くなり、胸にも筋肉が盛り上がってきた。


「とにかく素振りをしなさい。まずはそれだけ」


 剣の型を見せてもらい、それをひたすら真似て素振りを繰り返す。

 俺は石運びで腕力がついたおかげで、刀を振るたびに風切り音が聞こえていた。


「力任せの剣は弱い剣です。いかに集中できるか、それが剣の強さといえます」


 そう言うと、リータさんは薪藁の前に立つ。

 大きく息を吸って一瞬動きを止めた次の瞬間、目の前の藁が両断されていた。

 

「デイル殿、切ってみなさい」


 ショートソードを受け取り、師範の真似をする。

 息を止め、次の瞬間、薪藁に切りつけた。

 けれども、剣はザウっと音を立てて薪藁に跳ね返されるばかりだった。


「力ではないのです」


 そう言ってリータさんは別の門人のところへ行ってしまった。

 その日から、俺の素振り練習が本格化したのだった。


 そんな中、初めてイノシシを倒したときは本当に気持ちが昂揚した。

 血抜きの処理をしてから川に沈めておく。


 次の日に川から引き上げて、それを肩に担ぐ。

 最近、ウナさんは筋力アップの魔法もかけてくれるので、イノシシを担いだまま町まで走れるのだ。


「何だか化け物じみてきたわね」


 2ヶ月が過ぎた頃、ウナさんがぽつりと話す。

 俺はそうは思わないんだが、町で馬鹿にされるのは減ってきたと思う。

 逆に気味悪そうな視線を常に感じる。


「血だらけのイノシシを担いで走っているのよ。気味悪くない?」


「お嫁さんが欲しすぎて、変な黒魔術でもやってるんじゃないの?」


 いい噂は全く聞こえなかった。

 何だよ、黒魔術って……。 


 ただ、2つの道場にいるときは師範代から何度も褒められる。

 成長への手応えを感じていた。


「えっ!?」


 今日なんて、マックール道場の師範代サリアさんを初めて掴み、その場に倒していた。

 いい匂いがするなあ。ラベンダーかな。って俺は変態?

 ぎゅうっと相手を抱きしめると、サリアさんが俺の腕からすり抜けて右手を固める。


「ぐああああ」


 腕ひしぎ逆十字だ。


「いやらしい顔つきの罰です!」


 この顔は生まれつきですよ。

 ちょっと、酷くないですか。

 俺は床を叩いてギブアップを宣言すると、ようやくサリアさんは腕を離してくれた。

 心なしか顔が赤い気がする。怒ったんだな。


「ブラスさん。出足が速くなりましたね」


 笑顔が眩しい。

 よし、これで、エルフのウナさんを捕まえられそうだ。


「じゃあ、次はキックを学びましょう」


 そう話すと、サンドバッグの前に連れていかれる。


「腰の回転で蹴ります。じゃあ、見ていてください」


 そう言うと、シュっと音を立てて、サリアさんの足がサンドバッグに向かっていく。

 ズシっと音を立てて、サンドバッグは縦に揺れる。


「おお~」


 凄い。

 この華奢な身体でこの威力とは。


「さあ、デイル殿。蹴ってください」


 俺は呼吸を整えて、何度か腰の回転を練習する。

 そして、


「ぬん!」


 と掛け声をかけながらサンドバッグを蹴りつけた。

 メキメキと異様な音を立てて、サンドバッグを吊している枝が折れてしまい、サンドバッグは5mほど向こうに飛んでいった。


「は?」


 サリアさんは驚いて目を丸くしている。


「木が古くなっていたのね」


 気を取り直して、隣にあるサンドバッグの場所へ俺を連れていく。


「こっちは、先週作ったばかりだから大丈夫よ」


 けれども、このサンドバッグも8mほど向こうに飛んでいってしまった。

 様子を見ていたマックール卿が驚嘆の声を出す。


「ガイの血は争えないな、デイル。お前はこっちでやってみろ」


 次は大きなニセアカシアの木の前に連れていかれる。


「こいつは、幹の直径は50cmはある。こいつにこの麻のロープをぐるぐるに巻き付けて……」


 嫌な予感しかしない。

 木の幹が麻のロープで1.5倍の太さになっている。


「こいつを蹴るんだ!」


 そういってマックール卿は思い切り、木を蹴りつける。

 ギシギシと音を立てて、ニセアカシアがぶるぶると震える。


「じゃあ、早速やってみろ」


 俺は思いきり、幹を蹴りつける。

 ボクンと音を立てて、強烈な痛みが俺を襲った。


「痛え!!」


「おいおい、最初から張り切りすぎはよくないな。まずは、軽く蹴って、足をすねを強化するのがいいぞ」


「先に言って」


 その日から、蹴りの練習が始まった。

 またサリアさんの提案で、蹴りだけではなくバランスよく突きの練習も始めたのだった。

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