第5話

家を出てしばらくすると、商店街が見えたが、裏道への道がバリケードテープで入れなくなっていた。


「あ〜あ、もう見つかっちゃったか。最近の警察は見つけるのが早いなぁ。せっかくならもうちょっとゆっくりしててもよかったのに。さぁて、じゃあ次はどこに行こうかな〜。もちろん鳥冥くんもついてきてくれるよね? 逃げようとしたら許さないんだから」


おどけていっているようだが、おれにはその冗談はまったく通じなかった。実際に彼女はあの男を殺したあと、おれを追ってきたのだ。普通に逃げたところで、未兎は簡単におれに追いつくだろう。


「逃げやしねぇよ。第一、逃げたとして人一人殺してから追いかけてくるだけの余裕はあるんだろ?」


「まぁね〜。私、足には自信があるのよね〜。ほら、人って死を直観するとすぐに逃げるじゃない?

 それを追ってるうちに、だんだん足が速くなっていっちゃってね。今ではよっぽどのことがない限り、相手に逃げられることはないわよ?

 それに、私は殺そうと決めた人に発信機は必ずつけるもの。もし振り切られたとしても、必ず追いつけるわよ?」


とどめを刺されてしまった。一応発信機がどこにあるか探ってみたが、それらしき物は見当たらなかった。


「商店街だと警察がいるでしょうし、他に人気のなさそうな場所があればいいのだけれど……」


「だとしたら、ここからちょっと歩くけど、夜だと明かりもないし、静かな公園があるんだ」


自分でもなぜ彼女に道を教えているのかはわからなかった。これではまるで、自分から死にたいと思っているのと同じではないか。


自ら命を断とうとする人が高い場所や紐を探すのと同じようにおれは今、殺人鬼“藤田未兎”に自分の死に場所を案内している。


「自分から人気のいない場所を案内する人なんて、私初めて会ったかな。やっぱり君は、面白いですね。あぁ、速く殺してあげたいですわ」


人を殺すことが快楽になってしまっている未兎にとってはただ殺すだけではつまらなくなっているのであろう。おれのように変わり種をところどころ挟みたいということだろうか。


彼女は上機嫌でおれの後をついてくる。どこかに発信機がついていると言われているため、おれは逃げるという選択肢はない。ここから警察に通報したとしても、場所を聞かれる前に殺されるだけだろう。


「ついたぞ。ここが暗くて人気のない公園だ。さぁ、刺すなり締めるなり好きにしろ」


おれは公園に着くとブランコに向かった。


そのまま2つあるうちの一つの椅子に足を掛け、漕ぎ始めた。


すぐに凶器を取り出し、おれを殺す物だと思っていただけに、ブランコに乗れるだけの猶予を与えてくれることは意外だった。


「なぁ、なんですぐ殺さねぇんだよ。お前はおれを殺すためにここまできたんだろ?

 なら速く済ませたほうがいいんじゃねぇか? ここは人は通らないとはいえ、おれを殺した後にお前が逃げる時間がどんどん減ってくだけだぜ? 商店街の規制線だってそうだ。まだ近くにいると予想されるのは当然だ。この辺りはだんだん包囲されてくぜ?」


おれは高く漕ぐと、未兎に挑発をかけてみた。


ただ殺されるだけで彼女の記憶からどんどん消されて行くよりかは、少しでも印象に残るイラつくやつとして死んでいきたい。


これは単なるわがままでしかない。


「あはっ…ほんと、面白いなぁ。なんか殺すのがもったいなくなってきちゃったな〜。私もブランコしよ〜っと」


なんでかはわからないがおれは彼女の中で殺さない相手に決めたらしい。


「君が初めてだよ。殺そうと思ってた相手を殺さずに、そのまま生かしておこうって思えて人は」


隣り合わせでブランコを漕いでいた時、未兎に言われた言葉だ。


「それじゃあ、私はもう行くわね。またどこかで会えたら、その時は君のうめき声を聞かせてちょうだい。それと、これはあなたの命は私のものっていうあかし。大事にするのよ?」


そう言って未兎は唇を俺の唇に重ねた。


急に何をするのかと驚き数歩下がったところで彼女は唇の手を当ててから振り返りどこかへ行ってしまった。


おれが彼女に憧れ始めたのはその時からだ。

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