第4話 vs手長足長
「なんだって?!」
ここは学校のような施設の一角にある図書館。
急に大きな声を出したので周りから冷たい目で見られている男の人の名は、ヘラ・フルールだ。
「うるさいよ、ヘラ」
ちょうどこの日はムジナも付き添っていた。
なんでも、一人じゃ調べきれないから手伝え、とのこと。
「一旦出るぞ」
「え、ちょっと!調べ物は?!」
「そんな余裕ない!」
「……ったく、もう……」
ヘラの後を追って施設を出ると、目の前に浮遊する光が幾つか見えた。
しかし、どれも小さい。
「詳しく聞かせてもらおうか」
《はい、ヘラさん……》
その光から姿を現したのは、小さな羽を持ったエルフ耳の少女……いわゆる、妖精である。
《いつものように森の泉で遊んでたのです。しかし、突然現れた怪物に襲われ、みんな怯えて逃げました。しかし追いかけてくるので、私たちのリーダーであるルージが時間を稼ぐと言って立ち向かいました。そして、しばらく経ってから戻ったのです。そしたら……》
そしたら、羽をもがれたルージが血を流して倒れていたそうだ。
なんて酷い話なのだろう。
しかも、それがルージなのか確認できたのは残った羽の柄を見た後だった。
そう、体のほとんどを食べられていたのだ。
羽は美味しくなかったのだろう。
血もたくさん出ているところを考えると、“羽だけ残して、他のところは全て平らげてしまった”ということになる。
変わり果てたリーダーの姿を見た仲間たちは、パニックに陥ってしまった。
今この場所に来ている中で、こうやって伝えることができている妖精だけ落ち着きがあるようだ。
周りの妖精はまだパニックになっている。
なので、妖精を使役するヘラに助けを求めるために真っ先に伝えに来たというわけだ。
「それは災難だったね……」
《あの、あなたは?》
「オレはムジナ。ヘラの親友だ」
「こいつは悪い奴じゃないから安心しな」
ヘラは妖精に微笑んだ。
妖精は納得したのか、手を胸の前でポン、と叩いた。
《そうなのですか!》
「で、その怪物の特徴は?」
《異常な長さの腕と足でした》
「よく捕まえられなかったな……」
《妖精は素早いですからね》
「ま、どうせルージが無茶な遊びでも持ちかけてきてたのだろう?超スピードなかけっことか」
《はい。それで鍛えられました。……逃げられたのは……全部ルージのおかげなんです……!》
その妖精は泣き出した。
しかし、体の大きさと比例して涙も小さいため、地面に落ちる前に光となって消えてしまう。
それを見かねたヘラは妖精の頭を親指で撫でた。
「大丈夫。絶対にその怪物とやらを倒してやるからな!」
《本当ですか?》
「あぁ、本当だ」
「オレも手伝うぞ!」
ムジナも張り切っている。
《ありがとうございます!》
「いつも魔法の手伝いをしてもらってるし……困った時はお互い様だよ」
妖精と共に森へ行く決意をした二人。
二人は歩きながらヘラの本を読んでいた。
「そいつは多分『手長足長』という妖怪だな」
「今回は妖怪なんだね」
「花子さんは『都市伝説、妖怪、幽霊の時代』って言ってたからな。ありえないものだったら何でもありなんだろう」
「それに、封印を解いた力となると……」
ムジナの声を掻き消すように、鳥が羽ばたく音が聞こえる。
しかも一斉に。
その後、とても大きい影が三人?の上空で薙ぎ払われた。
「お、おい……まさか……」
「そのまさかだろう。逃げるぞ!」
《あぁっ!前を見てください!》
妖精が叫ぶが、二人はありえない光景を目の当たりにし、足が麻痺したように動けなくなっていた。
「それ……武器じゃねぇだろ……」
なんと、手長の方は長い手をヌンチャクのように手当たり次第振り回し、木に当たって落ちてきた獲物に一撃をかましてそれを食べていたのだ。
まさに常識外れである。
一方、足長の方は獲物が逃げる場所に先回りし、その長い足で影を作ったり、地面を踏んで地震のようなものを起こして元の木に戻し、あとは手長に任せるという。
こんな奴らにどうやって勝つのか?
まず戦えるのか?
こんなに勝つビジョンが見えにくい敵なんて初めてだ。
「降参してもさ、最終的には食われるんじゃねぇか?」
「いや、やってみよう!怪奇討伐部の名にかけて!」
「何それ……」
ヘラがそのダサい名前に反応する。
「さっき考えたんだ」
《まさか、さっき固まってたのって……》
「え?グループ名を考えてたんだぜ?」
「あっそ。お前、とことんバカだな」
「はぁ?何で?!かっこいいだろ、この名前!」
呆れ返るヘラにムジナは頬を膨らませながら対抗した。
《で、でも、おかげで緊張がほぐれました!》
「そうか!よっしゃ、あいつらを倒しに行こうぜ!」
「《おー!》」
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