第4話(2) この話には血の表現があります。

──まず、作戦はこうだ。正面から剣を持って立ち向かっても、ルージのように返り討ちにあうだろう。そうなれば手遅れだ。そうならないように横に大きく移動し、どんどん木を使って上へ上がるんだ。そのあと、地上にいる妖精の合図で一緒にお互いのターゲットにダメージを与えよう。あいつらはああ見えて夫婦らしい。どちらかが欠けると激怒して暴れだすかもしれないからな。



「……って言われたけどなぁ……デカすぎだろ!」


 その姿はまるで怪獣。

 魔界の木は、絶えず高さを変えているが、どんなに高くしたってあの妖怪には勝てないだろう。


「……まだなのか?」


 作戦を考えた本人であるヘラは苛立ちを見せながら聞いた。


 《あっちを向いたら……あ、今です!強烈な攻撃を叩き込んでください!》

「いくぞ、ヘラ!」

「おう!」

「「はぁああああっ!!」」


 手長足長には共通する弱点がある。

 それは、体本体だ。

 長いのは手と足だけなので、どちらも体を守るのは難しい。長い手や足を斬り落とそうとしても、その標的による攻撃によって倒されるだろう。


 そこなら攻撃は届かないと思ったのだ。


「うぁああああっ!!」

「ちょっと、ヘラ!やりすぎじゃないか?」


 とっくに戦闘不能と思われるのに、まだ攻撃を続けるヘラをさすがに変に思ったムジナ。妖精も不安になってきていた。

 ヘラが担当するのは手長だが、もうグロッキー状態だ。


「ぐぅっ!ゔうっ!!あ゛あっ!!」


 返り血を相当浴びており、赤い服は余計赤みを帯びている。


「いや、イメージカラーは赤だけど……そんなに赤になりたいの?!」

 《なんか違うと思いますけど……》

「おーい、ヘラ!そいつはもう死んでるって!戻ってこい!」


 呆れる妖精の隣で叫ぶムジナ。だがヘラは止まることを知らない。


「うあああああっ!」

 《聞こえてませんね……》

「もうやだぁー」

 《諦めるの早すぎですよ!?》

「戻ってこーい……痛っ?!」


 再び声を出したムジナに飛んできたのは骨だった。

 コーン!という音が響く。見事に顔にクリーンヒットしたのだ。


「骨まで斬ってやがる、あいつ……」


 当たった骨を左手で持ち、呟いた。

 その目はさっきまでのようにふざけた表情ではなかった。


 《骨って……おかしいと思いませんか?!》

「思わん!いつもモンスター狩ってるからな」


 ムジナは毎日のようにやっていることを頭に思い浮かべながら胸を張った。


 《断言しちゃってますね》


 妖精が完全に呆れたその時だった。


 ─もうやめて、ヘラ!─


 まるで鈴のような声が辺りに響いた。

 ムジナと妖精は訳がわからないという風に顔を見合わせる。


「……あれ、お前叫んだか?」

 《いいえ》

 ─ルージだよ!─

「ルージ……?でもお前、死んだはずじゃ……」


 ヘラは驚きのあまり、剣を落としてしまった。

 剣は手長の足元に突き刺さっていた。

 そのまま手長から飛び降り、フラフラと声がする方へと歩いていった。


 ─そう、私は手長足長に食べられたわ。でも、魂は残るものなのよ。でね、ヘラに最後のお別れを言いにきたんだけど……まさかこんなことになっていたとは……─


 ルージは反省しているかのように呟いた。

 ヘラはこみ上げる感情を抑えながら声の方にゆっくりと近づいた。


「悪いのはお前じゃないよ」

 ─ありがとう。落ち着いた?ヘラ─

「おかげでね」


 ムジナと妖精は話している二人の方へ歩き出した。

 そしてムジナはヘラの肩を叩く。


「どうしてあんなに暴れてたんだよ?」

「俺にもわからない。でも、ルージの仇を討たないと気が済まなかったんだ」

 ─ムジナさん─

「え?」

 ─これからも、ヘラと一緒にいてあげてください。あと、ヘラの魔法補助の妖精を、そこの妖精に任せるよ─

 《私でいいんですか?》

 ─リーダーの私が言うんだから、間違いはないわ─

 《頑張らせていただきます!》


 妖精はルージがいるであろう方向に頭を下げた。


「ルージ……」

 ん?

「ありがとう」

 ─……うん。じゃあね、みんな。……お元気で!─

「待て、ルージ!お前にはまだ何もしてあげられなかった!なのにもう逝ってしまうのか?!そんなの俺は認めん!戻ってこいよ!!」


 ヘラが止めようとするも、その叫びは手長足長の屍が残る森に虚しく響き渡った……。


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