第3話(2) ※少し血の表現があります



「あら、ヘラさんじゃないですか」

「あ、どうも」


 保健室の前で待ち伏せていると、中から先生が出てきた。

 白衣を着、眼鏡をかけている、保健室の先生と言ったら容易に想像できる姿だった。


「どうされたのですか?」

「いや……ムジナ、大丈夫かなってさ」

「ふふ……仲間思いの友人ですこと。でも大丈夫。私が見ていますから」

「そうですか……包帯男の噂が出てるじゃないですか。それの包帯がここで終わってるそうですけど……襲われたりしてませんか?」

「大丈夫ですよ。だって……」


 ガラガラっと保健室のドアが開き、白い影が視界に少しだけ入った。

 その影はとても素早く、腕を後ろに回された後、背中に蹴りを入れられた。


「がっ……」

「だって、私が包帯男を作ったんですもの」


 保健室の先生が暴露するも、ヘラの視界は既にブラックアウトしており……耳には入らなかった。


──────────


─────


「ヘラさん!ヘラさん!」


 シフの声が聞こえる。

 でも、目を開けられない。


「起きてください!」


 ──だから目を開けられないっつーの。


「うぇっ……うぇええええんっ!」


 ──お、おい!泣くなっての!


「先生ぇ……どうしましょう?!このまま目を開けなかったら……」

「開けられねぇんだよ!!」

「ヘラさぁん!!」

「え?」


 シフは飛び起きたヘラに抱きつく。

 ……どうやら飛び出していったのに逆に心配かけさせてしまったようだ。


「よかったですね、シフくん」

「はい!」


 先生の話によると、保健室の前の見張りをしていたヘラが、突然現れた噂の包帯男に攻撃され、気絶していたところを先生が見つけた。とのこと。

 しかし、本当にそうなのか?

 もっと大切な事を忘れていないか?


「でも俺、保健室の前にいたはずじゃ……運んでくれたんですか?」

「えぇ、テレポートでね。人助けには重要な魔法なんですよ」

「そうなんですか……ありがとうございます」


 ──違う……俺は先に先生と話していたんだ。その後だ。あいつに襲われたのは……。

 では、先生は何者なのだろう?また今日も見張りをする必要があるな……。


 夕方から雨が降ってきた。しかし中止するわけにはいかない。ムジナを取り戻すためにも……。


「来ましたね、ヘラさん」

「あぁ」

「今日もよろしくお願いします」

「こちらこそ」


 そんな何ともない話しをしていると、ガラッ!と扉が開く音がした。


 ──来た!


「いっけぇええええっ!」

「ヘラさん、どこへ?!」


 突然走り出したヘラに驚く先生。

 ヘラの狙いは外にあった。

 上の方でガラスが割れる音がする。窓を割り、先回りするつもりなのだろう。しかし、それもヘラの想定内だった。


「正体を現せ、包帯男!」


 ヘラの狙いは雨だった。

 布は濡れると重くなり、動きが鈍ってしまう。なので、包帯を外す必要がある。

 雨が降っててラッキーだった。


「外さないで!」


 保健室の先生が叫ぶが、時すでに遅し。

 包帯まみれだったムジナが姿を現した。

 彼の瞳は生気を無くし、そのままフラフラと膝から崩れた。


「……ヘラ」

「ムジナ!よかった……」

「させないわ!この魔法でっ──」


 叫んだ先生が窓から落ちてきた。

 胸のあたりに尖ったブローチを付けて。

 そして、鮮血が飛び散る。

 グシャ、という音が響いた。


「うおっ!どういうことだ?!」

「さぁ……?」


 すると、どこからか声が聞こえてきた。

 ねっとりするような、つかみどころのないような声だった。

 残念ながら姿は見えなかった。


『私の部下がご迷惑をおかけしました』

「お前は?」


 動けるヘラが一歩踏み出した。


『私は、今まであなたたちが倒した幽霊たちの王です』

「……一つだけ質問していいか?」

『何なりと』

「お前らがこの魔界に来れるようになったのは、トイレの花子さんが言っていた封印のせいなのか?」

『まぁ、そうなりますね』

「やっぱりそうなのか……」

『いつかあなたたちと相見えるのを楽しみにしていますね。ふふふ……』

「あっ、待て!」


 声がフェードアウトしていく。

 ヘラが慌てて手を伸ばすが、ムジナはヘラの真っ赤なコートの先をクイ、と引っ張った。


「もういいよ、ヘラ……ありがとう」

「くっ……今回はお前を助けられたことだけで大収穫ってことにしておくとするよ」

「うん、そうしておいて……」

「シフが待ってる。帰ろう」

「…………うん」


 ヘラが差し出す手を掴み、おんぶという状態に落ち着いた。


 いつの間にか先生はいなくなっていた。

 その場に残っていたのは落ちた時に飛び散った血と、胸に刺さっていたナイフだけだった。


 さっきの王と名乗る者と戦わなければいけないという運命を突きつけられた二人。

 これからどんなことが起こるのか、誰にも想像がつかなかった……。


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