『同級生』林原今日子 (1993) 水彩、画用紙
続いて紹介するのはこちらの絵画です。
A3サイズの画用紙に、制服を着た学生が大きく描かれています。
椅子に座って正面を向いた全身が美しいバランスでデッサンされていますね。
水彩画独特の、陰影の強調された青みがかった色使いが、描かれている生徒の表情と見事にマッチし、独特な雰囲気を醸し出しています。
この絵画は、県立東が丘中学の当時2年生の学生によって描かれ、校内美術展で高い評価を得た後、県の美術展で優秀賞を受賞しました。その後、県の美術館に展示され、多くの人々の目に触れることとなります。
先ほどから不思議そうな顔をされている方がいらっしゃいますが、この絵をどこかで見たことがある、そう思っていらっしゃるのではないでしょうか。
それもそのはずです。
この絵は数年前にワイドショーや週刊誌などで広く取り上げられたのですから。
―児童連続誘拐・焼死事件
今から7年前に最初の事件が起こり、その後4年にわたって世間を騒がせた事件です。
4歳から9歳の総勢13人の児童が誘拐され、そのうち9人が生きたまま焼き殺されるという、未曾有の惨劇が繰り広げられました。
犯人は東北地方の自宅で逮捕され、そこに監禁されていた4人の児童も保護されました。
保護された児童はいずれも強いトラウマを抱えており、今でも普通の生活を送ることが困難だそうです。
誘拐された児童の居住地、遺体の発見場所が、時間と距離に矛盾が生じるほどの広域に広がっており、捜査が攪乱された結果これほど多くの被害者を出してしまった、とも言われています。
マスコミは、犯行の手口やその計画性に着目し、犯人の精神状態に迫る報道を行いました。
その過程でこの絵の持つ独特な「暗さ」に注目し、学生時代の犯人の人物像を分析しました。
犯人の幼少時代や家庭環境、人間関係などを想像のままに書き立てて、世間の興味を引くことに成功したのです。
マスコミの言及は、この絵を取り巻く人々の生活にも影響を及ぼすこととなりました。
この絵を描くことを指導した美術教師、美術展に推薦した当時の教頭、優秀賞に選出した県会議員。
それらの人物がSNSなどで不当に名前を晒され、批判の対象となり、美術教師は職を辞するまでとなってしまいました。
何より一番影響を受けたのは、この絵を描いた生徒です。
この絵に描かれた学生時代の犯人とは友人同士だったといいます。
彼女は普通の会社員として働いていたそうですが、事件が起き、この絵の存在が世間に知れてからは、それまで通りの生活ができなくなっていたようです。
マスコミや世間に叩かれ精神的に追い詰められた彼女は、犯人が捕まる数日前に自ら命を絶ちました。
実に悲劇的ですね。
遺書には、「どうして止めてあげられなかったんだろう、わかっていたのに」と書かれていたそうです。
彼女には未来が見えていたのでしょうか。
犯人が逮捕されたときの映像と、この絵で描かれている表情は、気味が悪いほどに一致していました。
犯人は未だに黙秘を続けています。
時折つぶやくように、「私のせいじゃない。私は悪くない」と発するだけで、重要なことは何も供述しないそうなのです。
逮捕から数年が経った現在でも、犯人がどうやって人目につかず児童を連れて移動したのか、そもそも動機は何だったのか、多くの事が謎に包まれたままです。
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