『the dog 』作者不詳(1876) 油彩、キャンバス

まず最初にご覧いただくのはこちらの絵画です。

この絵画は1876年にイギリスのとある小さな村で描かれました。


30センチ四方のキャンバス中央に黒い犬が大きく描かれており、その周りを複数の人影と炎のような赤い波が囲んでいます。

実に荒々しい抽象的なタッチです。


犬はまるでオオカミのような牙を持ち、残忍な眼差しをしています。

周りの人影は怒り狂っているようにも、嘆き悲しんでいるようにも見えますね。


この絵画が描かれた村には当時こんな噂がありました。

村に住み着く黒い野犬に予言された人は必ず死ぬというのです。

予言されて死ぬ、というのはなんだか呪いのようですね。


イギリスで黒い犬は「hellhound(ヘルハウンド)」と言い、不吉の象徴とされています。

その影響もあってか、その黒い犬は村でとても恐れられていたようです。


そんな中、村ではある奇病が流行しました。

元気だった人間がある日を境に高熱を出し、最終的には踊るように発狂して死ぬというのです。

村の人々はその原因を黒い犬だと考えました。

その犬に吠えられた、つまり予言されたため死んだというのです。

実際に犬の激しい鳴き声を近所の人間が聞いた次の日から、体調を崩し亡くなった方もいたようで、村の人々は噂を信じ、恐れ慄きました。

亡くなる方は性別、年齢関係なく、日に日に増えていきました。


村での死者が両手で数え切れなくなったある日、犬の予言で子供を失った親たちが、元凶である犬を葬り去ろうと団結しました。

村人たちは、何か不吉なことが起きるからやめた方がいいと止めましたが、親たちの怒りと悲しみはそれに勝りました。


親たちは犬を捕まえ、村はずれの森に連れて行き全員で袋叩きにしました。

頭のつぶれた犬は息絶え、村には平和が戻ったと親たちは安堵しました。


しかしその翌日、犬の討伐に関わった人間が全員発狂して死んだのです。

村の人々は、黒い犬の呪いだと怯えました。

更なる呪いを恐れた人々は、犬の為に棺を作り、村のはずれに放置されていた犬の死体を入れ、村の教会に安置しました。

それ以降、村で奇病を発症する者は居なくなったといいます。


村ではこの出来事を教訓として忘れないために、旅の絵描きに依頼しこの絵画を作成しました。

そして犬が安置されている教会に飾ったのです。


この教会は戦時中に一度火事に遭いました。

その際に棺も半分焼けたそうです。

火を消した後に村人が中身を改めると、白骨しているはずの犬の死体は黒い毛皮をまとったまま横たわっていたそうです。


犬の死体はある機関に運ばれ、厳重に保管される事となりました。

そして残った絵画だけが、巡り巡って今皆様の目の前にあるのです。


後の時代になると、奇病の正体は狂犬病であったのではないか、と言われていますが、真実はわかりません。


この犬は本当にただの犬だったのでしょうか。

それとも、村人に死を運ぶ悪魔だったのでしょうか。

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悪魔の展覧会 ヒノワ馨 @hiro_n04

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