第七話


 「愛、地球外家族物語」

       (第七話)


          堀川士朗



学校の帰り道。

また、あの汚い臭いホームレスとすれ違った。

彼は歯がなくて、相変わらずとても臭かった。

ボロボロの自転車。使い古した黄ばんだビニール袋の中にはジュースやビールなどのアルミ缶を満載し、彼は笑顔だった。

きっとこれからジャンク屋にでもアルミ缶を売りに行って、帰りにそのお金で酒屋で安い焼酎でも買って祝杯を上げるのだろう。

ビニールハウスの中で。

夏は地獄だけど、冬はもっと地獄だろうなあ。


彼には、家族がない。



日曜日。

窓を開ける。

朝の清澄な空気が入ってくる。

近くの公園でこどもたちが遊んでいる。

その声が聴こえる。

こどもは元気だな。

こどもはきっと、僕みたいにビーチューやタバタバを嗜まないから元気なのだろう。



家事マシーンお父さんハルキがオーセンティックなお洗濯をしているよ。

ハルキは先週から工場でバイトをし始めた。

やだな貧乏たらしくて。

アシッド星人の誇りはどこへやったんだよ。

うちは金持ちだから、お金には全く困っていないんだけど、亡くなったおばあちゃんが散財してて、どうやら一億五千万円くらい使い込みがあったみたいなんだ。

すぐ一括返済したけどね。

守銭奴のお母さんマスミはそれがだいぶショックだったみたい。

それでお父さんに、


「アンタ!形式上だけでも良いから働きなさいっ!」


ってハッパかけたんじゃないかな?

まあ夫婦間の事は僕には分からないけどね。

まあハルキのやつは少し働いた方が良いな。

お母さんの1000分の1でも自分で働いて稼げば、お金の有り難みが分かるんじゃないかな。

よ~く考えなくても、お金は大事だよ。

まあ工場だなんて、クソみたいな仕事だけどね。

社保とかもろもろ引かれたら多分フルで働いても、僕の月のおこづかい110000円と対して差はないんだろうけどね。

要するにハルキは若い頃苦労もせず戯曲ばかり書いていて、頭お花畑あっぱっぱーファンタジーのまま良い歳になっちゃったんだよな。

つぶしが効かなくなっちゃった。

辛酸なめろ!

ハルキがマスミの働けという提案に大人しく従っている。

頭が上がらないのは、稼いでいない証拠だ。

家族の中で、あいつ独りだけ底辺を味わえば良いよ。

嫌いだから。

こないだ父親とホモる夢を見てから更に嫌いになったよ。

あと夢といえばハルキはショートスリーパーだから目が覚めてしまうのだろう、こないだからアニメ、アムパソマンをずっと「ぐぬぬ~」とか「はぬぬ~」とか奇声をあげながら一晩中観ていてこいつはもうダメかもしれない。

夜中にホラー映画を観るよりも、アムパソマンを観ている方が精神が追い詰められていると言えるからだ。

ちなみにハルキはダイキムマンとフリードキンちゃんのコンビが好きみたい。

ハルキのやつ、ありゃダメだ。



このところ雨が降っている。

あたしはハルコ。

お父さんお母さんには内緒で、こないだ亡くなったおばあちゃんの部屋の様子を何気なく見に行ったの。

今にして思えば、あれはおばあちゃんが呼んでいたんじゃないかな。

そしたら一冊のノートを発見したの。

ノートには頑丈な鍵が掛けられていて、鍵はおばあちゃんが使っていた鏡台の引き出しの中にあったわ。

開けた。


『祖母ブログ』


と、中の一枚目に書いてある。


「○月Ⅹ日。天気曇り。

今日も近所の内川のばあさんが私にお金の無心。もう150万円貸してある。3万貸しては1万返し、5万貸しては2万返しの繰り返しで一向に完済には到らないで困じ果てている」


これはセイナおばあちゃんの日記だ!

おばあちゃん、近所の老人にたかられていたんだ。


「○月Ⅹ日。晴れ。

胃がしくしくする。脂っこいものを食べた覚えはないのに。胃腸が弱っているのね。死期をとみに感じる毎日。毎日が楽しいのに、毎日がつらくてならないこの矛盾がつらい。でも誰にもこの事は内緒」


この頃からおばあちゃん容態が良くなかったんだ……。

一度も痛い素振りを見せなかったな。

かわいそうなおばあちゃん。

もう少しだけ読んでみよう。


「○月Ⅹ日。雨が続く。

痛い。痛い。痛い。痛くてたまらない。私はもうじき間違いなく死ぬだろう。でも死んだ後でもこの世から完全に私という存在が消えてしまわないように、よりしろが必要だ。魂を乗り換えるよりしろ……そうね。ハルコが良いかしら」


な、何?何の事を言ってるの?おばあちゃん……!


「○月Ⅹ日。今日も雨。

肉体は、そうね。ハルコが良いかしらね。よし、若いハルコの肉体に乗り移ってやろう。私が死んだら」


…………!


その時、私は鏡台を見てしまった。

私の後ろにはセイナおばあちゃんが虚ろに立っていた。

おばあちゃんの眼は全部、黒目だった……。



…………。

おばあちゃんは、薬局モハメドキヨシで大林製薬の『悪霊退散レイイナクナール』を買ってきてまいたら消えました。

ノートは可燃ゴミの日に捨てた。

もうおばあちゃん出てこないでね!

APBB。TOUKEY。



            続く


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