第三話


 「愛、地球外家族物語」

       (第三話)


          堀川士朗



お母さんマスミ。

彼女は専業主婦じゃない。

何かの会社の代表取締役で、バリバリ働いている。

多分ハルキの年収の二千倍は稼いでいる。

だから料理は父ハルキが毎食作っている。

専業主夫だ。

それにうちは店屋物が多いんだ。

セレブだからね。

食費は家族六人で月200万ぐらい。

他は知らないけどね、多いのかなうちは。



おじいちゃん。ミリオ。

この家はおじいちゃんがまだ若い頃に発明の特許料で得た資金で一括で建てた。

彼は大人物だ。

当初から三階建ての三世帯住宅にする予定だったらしい。

8LDKの邸宅は昔の日本ではだいぶ目立っていただろう。

近くの土地を買い取って立体駐車場を作り、そこの月極めの駐車料金収入はうちの長年の固定給となっている。

近所付き合いも良かった。

セイナおばあちゃんは美女で若い頃モテていたそうだから、おじいちゃんのミリオは気が気じゃなかったろうな。

おばあちゃんの散財癖はその頃からだよ。

おじいちゃんは蝶よ花よと好きにやらせていた。

やがてこうして僕ら家族が構成されていった。


今、昔の家族アルバムを見ている。

僕とハルコの赤ちゃんの頃の写真もあり、かわいい。

二人してはだかっぽでお風呂に入った写真。

優しく抱き上げた父ハルキの眼差しはとても優しく、まだ新米のパパって感じがする。

この時はまだ人生諦めてなかったのかな、それを聞きたいが面倒臭い。

アルバムの中の僕らはかわいかった。

そうなんだよねー。

十年でこんなにもかわいくなくなるもんなんだよねー、こどもって。

今日は静かな夜だ。

風の音しかしない。

こんな夜は摂氏マイナス60℃の『常冬の惑星』に自分が行って、完全防寒機能のあるコテージの寝袋の中で、


「人類が死に絶えたなあ。僕はどうするかなあ」


って思いながら独り眠っているのを妄想するとよく眠れるよ。



正月。

おじいちゃんは夜食に一人でモチを焼いて食べていたそうだ。

おじいちゃんがモチを喉に詰まらせて死んだ。

病室でおじいちゃんの最期を見とりながら、悲しかったけど僕はユアーズチョーブで猿合奏のお笑いライブを観て一人ニヤニヤしていた。

現実逃避していたんだ。

おじいちゃんはよく僕の頭を優しく撫でてくれていた。


「頭が良くなるように。ハルトの頭がもっともっと、良くなるように」


と。

くすぐったかったけど、それがとても好きだった。

僕は、家族に降りかかるこの悲劇の端緒に、怒れば良いのか悲しめば良いのか分からず茫然とするあまりだった。

おじいちゃんが死んで、街からひとつの図書館を失ったような感覚にとらわれた。



図書館といえば去年学校の図書室で借りてきた本に、


『心は

価値観の積み重ね

価値観を学んだ

ロボットにも

心は宿っている』


みたいな五行歌が書いてあって、ああそんなもんかなって思った。

それよりも、本を返しに図書室に来ていたクラスメイトの海苔香さんとちょっとこの本についてお話して、その横顔を見ながら、ああこの子はとてもかわいいなと感じたんだ。

これは『心』のなす感じなんだろうか。

僕たちアシッド星人には心なんて、ないのに。


すごく遠くで工事の音がしている。

僕は耳が良い。



            続く


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