第二話
「愛、地球外家族物語」
(第二話)
堀川士朗
冬。
赤い東京に雪が降る午後八時。
窓を開けると美味しい冬の甘い風が入ってくる。
夜鳴きそばが通った。
ラーメンの屋台だ。
家から出ていってみんなで食べる。
外は当たり前のように寒い。
吐く息が白い。
屋台の鍋から湯気が立ち登っている。
一杯2000円のラーメン。
発泡スチロール製の容器越しに伝わってくるあたたかさが大好きだった。
今年は穏やかに生きよう。
ユルユルと、ガンジス川の流れに身を委ねるみたくユルユルと、穏やかに生きよう。
面倒はごめんだ。
牛歩戦術ならぬ、もっとゆっくりな亀歩戦術でゆったり過ごそう。
あたたかい一杯の醤油ラーメンをすすりながらそう思った。
TOBB。TOKK。
飼い犬のガイリッツィは目黒のペットショップで購入した。
黒犬。
すぐなついて、ご飯もたくさん食べる。
いっぱいしっぽを振ってかわいいよー。
よく散歩に連れていったり、顔のマッサージをしてあげる。
ガイリッツィをのぞいている時、またガイリッツィも僕をのぞいているのだ。
ハルキは僕のお父さんなんだけど、定職に就かず売れない戯曲ばかり書いているよ。
昔はいくつか何かの大きな戯曲賞を取ったみたいだけど、完全に過去にしがみついている男だよな。
カコノエイコー。
下らない。
うちの家族の中で、ろくでなしの父ハルキだけが貧民だよ。
情けない。
ハルキのやつはまるで海苔の缶の中に入っている乾燥剤みたいなものだ。何の役に立っているか普段分からないし、邪魔なだけ。
いつも家にいる。
まあ希望としては父の事をComprehensionしてやりたいというのもある。
親だからね。
父ハルキはお母さんマスミさんからはお金を一円も与えられてないから、糊口をしのぐために大衆系親父雑誌に雑文を載せているよ。
ほぼほぼ無収入に近い。
ただ、住むところと食べるものには不自由しない気楽なご身分だ。
全く尊敬出来ないが、一応父親だから立てるところは立ててやっている。
あと、ハルキは事ある毎に、
「しょうがないんじゃないの……?」
と言って諦める。
まさに持たざる者の無敵さ加減。
矢でも鉄砲でも持ってこい状態だ。
あのさあ。しょうがないしょうがないばっか言ってるから、しょうがない人生になっているんじゃないか!
諦念をやめろ!
アニメ、『ヲヴァンヨガリヲル』の主人公が呪詛のように繰り返すセリフがあるけど、人生からは逃げちゃダメなんだよ。
……この人は、要は引退してしまった人なのだ。
余生でかろうじて生きている。
みじめだ。
みすぼらしい。
畜生にも劣る。
なんだー。
なんだよ。
クズかー。
廃人かー。
どうしても近親憎悪を覚えてしまう。
殺してやりたい。
殺すか。
うちには銃がある。
僕は人生を諦めたりなんかしないからな。
僕のうちの近所には保育園があって(僕もここに通った)、小さな子たちがはしゃいで遊ぶ声が時折聞こえる。
かわいい。
僕はまだこどもだけど、赤ちゃんやこどもは国の宝物だと思う。
彼らには未来が待っている。
大事に育てて、ちゃんとした大人に成長していく過程を見守りたい。
だから、教育者や保護者の存在はとても大事なんだ。
まじめでなければならない。
まともでなければならない。
まっとうに生きていなきゃならないと思う。
少ないけどね。
僕は自分の部屋で冷やしたビーチューを飲んで、麦の匂いのするゲップを吐いた。
カンダッキーのチキンをアテにしつつ飲むビーチューはとても美味しかった。
チキンの脂が程好い。
うまうま。( ゚Д゚)ウマー。
ビーチュー一本につき190円かかる税金はやがて迎撃ミサイルを買う予算に組み込まれ、この国を護る。
こどもながら税を払い貢献している。
僕はこの歳で既に国を護っているんだ、偉い!
亡国の国防少年だよ!
偉いなあ僕は。
続く
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