0-4 久しぶりの温もり

 ツナグはおにぎりを片手に、キズナに教えてもらった方角を歩いていた。


「村に着いたら、ゆっくり大事におにぎりこれを食べよう……」


 ツナグはズボンのポケットにおにぎりをしまい、歩みを進める。


 しばらくして、村らしき景色が見えてきた。

 ツナグは安堵しながら、村へと入っていく。


 小さな村ではあるが、人々の笑い声に包まれた、穏やかな場所でだった。


「……とりあえず村に着いたはよかったものの、よく考えたら俺一文なしじゃん……。これじゃあ、宿に泊めてもらうことすらできねぇ……」


 途方にくれるツナグ。しかしすぐに自身の頬を叩き、気合いを入れ直した。


「――いや、何を弱気になってる掬等繋きくひと つなぐ! キズナあの子にちゃんと礼もしなくちゃならねぇんだ! ……とりあえず異世界っつったらギルドだろ。ギルドへ行って案件をこなし金を稼ぐ! これだぁ!」


 ツナグは決意を口にし、村にギルドがないか探すことにした。




 ◇





「ギルド? ウチの村にはないよ、そんなもの」


 ツナグは、青果商を開いていた主人にギルドについて尋ねると、そんな答えが帰ってきた。


 肩を落とすツナグに、主人は続けて説明する。


「ウチのような小さなトコにゃ、ギルドなんて構えたってしょうがねぇからなぁ。ギルドで金稼ぐってぇなら、そりゃあ都会のほうさ行かねぇと案件なんてねぇよ。普通、仕事探すやつは、まずは『トーキョー』へ行くもんさ」


 ツナグは聞き覚えのある土地名に、思わず目を丸くした。


「……え? 東京……?」

「……お前さん、トーキョーさ知らねぇのか……? さすがに海外の人でも聞いたことねぇトコじゃねぇと思うが……」

「あ、いや……俺も東京に住んでたから……この世界にも、同じ地名の場所があるなんてなーって、ビックリしたンスよ」


 主人はツナグの話が見えてこないのだろう。怪訝そうに首を傾げつつも、次にこう提案をしてくれた。


「お前さん、もし今仕事が必要だってなら、

『センターリーフがい』へ行くといい。あそこならギルドがある。まあ、トーキョーほどの大きなギルドじゃねぇが……仕事は見つかるだろうさ」

「ほ、本当か!?」


 ツナグに希望の光が差し込んだ。これでひとまず仕事を見つけられれば、この世界でなんとか生きていけるかもしれない。


「ああ。だが、今からあそこへ向かってたら夜になっちまう。今日はひとまずこの村で泊まっていくといい」

「ありがとうございます! ……あ、でも俺、金が……」


 ツナグが口篭ると、主人は笑って言う。


「気にすんな。この村の宿はワシの弟がやっててな、アイツがお前さんの事情を知ったら、きっと一晩くらい、タダで泊めてくれるさ」


 宿まで案内してやる、と主人は椅子から立ち上がる。


 ツナグはその主人の優しさに、思わず目頭も熱くなるというものだった。


「……あ、ありがとう……俺……」

「いいってことよ。世の中、助け合いが大事ってもんよ……だろ?」

「……助け合い、か」


 ツナグは小さく微笑んだ。


 ずいぶんとそんな言葉、聞いていなかった。

 振り返ってみれば、自分自身も誰かを助けるなんてこと、していなかったような気がする。


 そんな思いが、ツナグの胸の内を駆け巡る。



「――おい、そこのお前」



 そのときだった。何者かが、ツナグに声をかけてきた。

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