第2話 殺蟲隊
「おい蟹江ぇぇ!!!!」
その薄汚れた
デスクに向かっている人々(‥‥‥といってもたった五人であるが)はこれを少しも気にしていない。何せその怒号は、男の目の前に立っている者――蟹江周次ただ一人に向けられたものなのだから。
「‥‥‥そんなデカい声出さなくても聞こえますよ、班長。俺若いので」
周次は両手で耳を塞いだまま、呆れた様子で男に返答した。
ここは日本のとある地方"Kmシティ"にある事務所、殺蟲隊"駆除班"Km支部の拠点。
「そんな話をしているんじゃない、俺は怒っているんだ!! お前、あの虫女に
怒鳴るこの男の名は
そして今は、周次が飛蝗の
「あれはあいつが勝手にやったんですよ。俺は
「蟹江‥‥‥。俺は何も助けを乞うなと言ってる訳じゃない。ただ
駆除班の役割は名前の通り
殺蟲隊には他に
「でも仕方がないでしょう。俺じゃどうしようもなかった。相手が強すぎる」
周次の言い分に、玄造はついにため息をついてしまった。
「お前の相手は最も駆除しやすい
「そんなこと言われましても‥‥‥」
目を逸らす周次。するとその後ろからこんな煽り声が飛んでくる。
「戦えないのにどうして
透き通る落ち着いた声の持ち主は
さて、この煽りに周次は言い返せず口を紡いでしまった。代わりに答えるように別の者がこう言う。
「それは蟹江君が特別だからでしょう」
低い声音の男、
「
充はそう続けた。セツナは首を横に振る。
「そんなことは分かってますよ隠岐さん。でも、わざわざ駆除班に配属することはなかったでしょう? 解析班にでも回して実験台にした方がよっぽど良かったはず」
これにまた他の声が飛んでくる。
「どこにやるにしても、万が一に備えて
「あれ、その魔王様はどこ? さっきまで居たよね」
額に手を添えてキョロキョロと周囲を見回す幼い少女――
「つい今しがた出ていきましたよ。恐らく
充が答えた。それで瑠花は納得し、しかし首を傾げていた。
「周次もだいぶ変わってるけど、あの人も不思議な感じだよね‥‥‥」
「呼び捨てするな。俺のが歳上だろ」
* * * * *
とある地下牢。数メートル先でさえ何も見えないほどの暗がり。そこに女は収監されている。周次と共に飛蝗の
時折ぽつりと水滴の音が響くだけの閑散としたその空間に、カツカツと何かが近づいてくる。そしてその正体を、女はもう分かっているらしかった。
「また君か」
つまらなそうな声で、しかし微笑んでいる牢の女。
「そうつれないことを言わないでよ、
檻の前に立ち止まったのは一人の女。駆除班の一員であり、同じ駆除班の仲間たちでさえも"魔王"と称する最強の戦闘員。肩まで伸びた艶がかっている白髪、少し高い鼻が印象的な凛々しい顔立ち、百七十センチに及ぶ高身長と抜群のスタイル。名を
「その呼び方やめてくれないかな。僕は周次以外の人間には興味ないんだ。‥‥‥それに、仲良くするためにここに来る訳じゃないだろう?」
「まぁ上の人間たちの考えはそうなんだけど‥‥‥私は仲良くしたいと考えているよ、カゲロウちゃん。もちろん真面目にね」
真央の言葉に、女――カゲロウは鼻で軽く笑った。
「組織一番の
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