選挙


 生徒会役員選挙の時期が来た。

 私と香織は話した通り、それぞれ会長と副会長に立候補したのだった。




「――しかし……意外だったね」

「うん」



 生徒会を放棄した今年度メンバーの2年生2人は、予想に反して選挙に立候補しなかった。


 それ以外に立候補者も現れず。

 まさかの、今回は信任投票だ。



「良かったと思うよ。確実に2人が当選すれば、次年度の生徒会は確実に良くなる」

「うん。そう思う。特に渡里ちゃん。あなたはやり手だから」



 星乃部長と澤村副部長は微笑みながら親指を立てた。

 優しい……。この先輩2人は優しすぎる……。



「良い先輩に出会えて良かったです」

「何それ、こっちのセリフだよ。素晴らしい後輩の応援責任者が出来ること、光栄に思う」



 部活後のコンピュータ室。

 信任投票と言えど、やるべきことはやらなければならない。


 4人で残って、選挙ポスターの作成などを行っていた。






 *





 その後、数週間が経過し

 生徒会役員選挙は無事終わった。



 次年度生徒会の会長は、私。副会長は……香織。



 無事、信任された。



「……渡里。次もよろしくな。白石も」



 放課後の生徒会室には、私と香織と、長谷田先生がいた。



「……また、生徒会担当は長谷田先生ですか」

「んだよ。そうだったら何か文句があるのか」



 文句あるわ。

 この1年を思い返してみろよ。


 お互い口を閉ざして睨み合う。

 間に挟まれている香織は、口を尖らせた。



「散々、紗奈をいじめた長谷田先生は不信任です。不信任決議案を提出します」



 わざとらしく手を挙げてそう言う香織。

 長谷田先生は、わしゃわしゃと頭を掻いた。



「はぁ……うるせぇ。……うるせぇな。白石、覚えとけ。ここでは俺がルールだ」

「はぁ!? うわ、この人最低なんですけど!!」



 新生徒会長と副会長が決定したことによって、現生徒会は解散となった。

 本来なら新旧の引き継ぎなんかも行うのだが、今回は……ね。


 引き継ぎも何もない。



 結局、放棄した生徒会メンバーは一切活動を行うことなく終了を迎えた。



 みんなは、何のために生徒会に入ったのだろう。

 あの8人がいつか、この1年のことを思い出して後悔する日が来ることを祈るばかりだ。



 梁瀬先輩は何だかんだ言いながらも、長谷田先生の根も葉もない嘘は流さずにいた。



 そして、最終的に先生のことは諦めたみたい。

 何か……馬鹿馬鹿しいよ。


 梁瀬先輩。

 一時の感情で、大切な何かを見失うなんて。



「2人に残り6人を決めてもらって、来年度の生徒会メンバーとするからな。立候補者優先だけど、お前らからの指名とかあれば。また考えとってくれ」

「分かりました」



 新生徒会が発足するまで、あと少し。

 長くて短いような辛かったこの1年が……もうすぐ終わる。





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