競技大会


「紗奈、紗奈………フローチャートが襲ってくるよ……、フローチャート……」

「フローチャートは襲ってきません」



 競技大会当日。

 情報研究部は大会の会場となる高校に来ていた。



「白石も、他のみんなも聞いて欲しいけど。もうここまで来たら、どうしよう……って思い悩まなくていいから。楽しんで来てくれ。特に3年生、最後の大会だから」



 峯本先生の言葉に、部員全員が頷く。


 言い訳みたいになるけれど。

 私は生徒会の活動もあり、思うように勉強が出来なかった。


 フローチャートが襲ってくるくらい勉強を頑張った香織。


 大丈夫。

 根拠は無いけれど。個人個人で、できることは全てやった……はず。





 *






 数時間後。

 大会は無事に終了した。


 禎原商業高校は、簿記部が地方大会進出となった。




 情報研究部は…………残念。




「……お前ら、落ち込むなよ。大丈夫、頑張ったから」



 私が生徒会に巻き込んだから。

 誰1人地方大会に進出できなかったということは、100%私のせいだ。



「皆さん、ごめんなさい。私のせいで……申し訳ありません」



 部員たちに向かって、深く……深く頭を下げた。


 そんな私の元に、みんなが駆け寄ってくる。



「紗奈のせいじゃないし!!! 何謝ってんのよ!!!」

「渡里ちゃん!! 大会が全てじゃないよ!! 私ね、高校最後の文化祭にあれだけ関わらせて貰えたこと、本当に嬉しかったの。渡里ちゃんと同じ部で良かったって、心の底から思ったんだから!!!」



 星乃部長は泣きながら私を抱きしめた。

 それを見た澤村副部長も、香織も、1年生も……みんながくっついた。


 優しい仲間たち。

 本当に、感謝してもしきれないよ。



「君ら………最高だな……」



 青春漫画のような台詞を零した峯本先生。

 その一言が何だかおかしくて、今度はみんなで大爆笑をした。






 *





「プログラミングから解放されたね」

「それよ! 嬉しすぎ」



 帰り道、香織と星乃先輩と澤村副部長の4人で歩いていた。



「ねぇ、渡里ちゃん。もうすぐ生徒会役員選挙じゃない。どうするの?」

「………」



 役員選挙。

 例年通りなら、生徒会を経験した2年生はみんな会長か副会長に立候補する。


 しかし今年度は……私以外は何もしていないからね。


 仮に私が会長に立候補したとして……副会長は、誰になる?


 仕事を放棄した2人のどちらかが立候補して当選したら、それほど最悪なことはない。




「渡里ちゃんに白石ちゃん。私ね、2人で立候補したら良いと思っているの。会長が渡里ちゃん。副会長が白石ちゃん」



 星乃部長は真顔でそう言った。



「……え!?」



 本気で驚いた声を上げたのは……香織だった。


 そりゃそうだ。

 香織は生徒会経験者ではない。



「ぶ、部長。何で私ですか?」

「渡里ちゃんと一緒に過ごして、生徒会のこともある程度は分かるわけだし。今回生徒会メンバーだった2人よりは、白石ちゃんの方が絶対良いと思う」



 そんな星乃部長の言葉に澤村副部長も頷いた。



「星乃と話していたんだ。2人が立候補したら、私たちが応援責任者をする。色んな人に売り込みもするよ」



 2人の先輩の目は本気だった。


 こんなにも信頼してくれているなんて。

 これほど光栄なことは無い。




「私が、生徒会……」



 香織の目は不安そうに揺れていたけれど。

 意を決したかのように、段々と目に力が加わってきた。



「……部長、副部長……そして、紗奈。………私、前向きに考えます。紗奈となら、頑張れるかも」



 香織は力強く頷く。

 その様子を見た先輩2人も、嬉しそうに何度も何度も頷いていた。




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