球根


 競技大会に向けて部活が忙しくなる。


 大会まであと半月。

 もう、時間が無い。


 とは言え、生徒会もやることがあって忙しい。


 文化祭が終わったということは。


 次は……生徒会役員選挙だ。


 次期会長と副会長の候補者を募集しなければならない。




 私は部活に行く前に生徒会室に寄った。

 申込書の作成や選挙日程の決定など。


 やることは多々ある。




 1人で黙々と作業をしていると、静かに扉が開いた。



「……渡里」



 長谷田先生だ。



「……何ですか、それ」

「球根」



 長谷田先生は両手に袋を抱えており、その中に沢山の球根が入っている。



「お前が植えたい花を言わないから。勝手に用意した」



 袋を机の上に置き、いつも通り私の向かいに座る先生。

 何だか、疲れているかのような表情をしている。



「……」



 だからと言って、気に掛ける義理は無いけれど。



「この球根、チューリップが咲くんだ」

「チューリップ……」

「花言葉は……博愛、思いやり。それで、俺が選んだ」

「………先生には無縁すぎる言葉ですね」

「……ったくお前は。その一言が余計だ」



 ポケットから『チューリップの育て方』と書いてある小さい冊子を取り出した。何度も読んだのか、冊子は少しボロボロになっている。



「……チューリップには、色別の花言葉があるんだ」

「この球根は何色が咲くのですか」

「それは、言えない」

「はい?」



 言えないってどういうこと。

 そこ隠す意味ある?



「とにかく、明日植えるぞ。俺もやる」



 そう言って生徒会室から出て行った。



「……」



 残された球根。

 これを全て植えるなんて……骨が折れそうだ。


 だけど、先生もやるって言うなんて。


 珍しいこともあるものだ。




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