思い


 文化祭は大盛況に終わった。


 情報研究部を始め、沢山の部活が助けてくれたから。

 本当の意味で『生徒が作り上げた文化祭』となったんじゃないかな。



「渡里、そしてみんなも。本当にお疲れだったな」

「峯本先生も、情報研究部のみなさんも、本当にお世話になりました」



 片付けも終わり、通常時の状態に戻った体育館。

 最後の最後まで情報研究部はお手伝いをしてくれた。



「競技大会が終わったら、みんなで飯でも行こうな」

「きょ、競技大会……! あ、頭が……!!」



 星乃部長の言葉に全員が笑う。



「先生、高級焼肉店行きたい!」

「バーカ、君らにはチェーン店の一番安い食べ放題で充分だよ。まぁただ、競技大会で入賞した人には……その店の一番良い肉、食べさせてやっても良いが?」

「え、マジか!! 頑張ろ!!!」



 みんなが拍手をしながら喜びまわる。

 そんな情報研究部の様子を、長谷田先生が1人で眺めていた。



「……」



 長谷田先生。

 文化祭の片付けは率先してやってくれた。


 何か会話をした訳ではないけれど。

 先生の中で、何かが変わった……ような気がする。





「おい、長谷田」



 長谷田先生に気付いた峯本先生。

 峯本先生の一言で、部員たちの視線は後ろを向いた。



「……何ですか」

「何ですかじゃねぇよ。そんなところ突っ立ってないで、何か言うことあるんじゃないのか」

「………そうすね」



 珍しく素直な長谷田先生は、ゆっくりと近付いてきて……。

 深く、頭を下げた。



「ありがとう、ございました」

「えぇ? 聞こえないなぁ長谷田先生。ねー、みんな」



 そう声を上げたのは星乃部長。

 部員はみんな縦に首を振っていたが、峯本先生は星乃部長の言葉を制した。



「星乃、もう止めとけ」



 長谷田先生はゆっくり顔を上げて、言葉を継ぐ。



「……渡里を支え、助けてくれたこと、感謝している。……渡里も、本当にありがとう」



 顔を赤くし、唇を噛んでいる長谷田先生。

 珍しく素直だ。



「峯本先生も、ありがとうございました。………その、焼肉代。俺も出します」

「お、マジで? よっしゃ!! 資金源ゲット!! じゃあ高級焼肉店行くか!!!」



 薄情な峯本先生に、みんなが笑った。



 今日、長谷田先生が口にした言葉。

 日頃言わないからびっくりしたけれど。


 その言葉の中に少しだけ、先生の本心が見えた気がした。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る