文化祭
「紗奈、これはどこに置く?」
「それはステージ裏!」
「了解!」
文化祭当日。
情報研究部総出で文化祭の最終準備をしていた。
「渡里、良くやったな。すげぇ形になってんじゃん」
「峯本先生もありがとうございました。本当、色々助けられました」
「良いってことよ。競技大会頑張ってくれたらね~」
「は、はははは……」
峯本先生は生徒会の現状を教頭先生に説明してくれていた。
メンバー8人が放棄していて、私1人で行っているということ。
長谷田先生も生徒会担当として仕事していないこと。
しかし……教頭先生は信じてくれなかったみたい。
多分、梁瀬先輩とかを呼び出して事情聴取したんじゃないかな。
そしてその時に……峯本先生の言うことが嘘だとか、そう言ったのだと思う。
「渡里」
遠くから私を呼ぶ、長谷田先生。
「……」
それを、無視した。
「渡里、長谷田が呼んでるぞ?」
「あぁ良いです。いつものことです」
首を傾げる峯本先生。
良いの。
長谷田先生と話すことは何もない。
*
定刻になり、文化祭がスタートした。
全体の進行は私。
照明やBGMなど、裏方の仕事は情報研究部に任せた。
生徒総会は本来の生徒会メンバーが勘で動いても上手く進められたが、文化祭のような大きな行事になると難しい。
生徒会メンバーが勝手なことする前に、手回し済み。
やることが見つからない本来のメンバーは、何もしなくて良いことを喜んでいた。
所詮、そんな人間。
「続きまして、生徒会長挨拶。生徒会長、梁瀬真希」
「はーい」
本当に生徒会長の挨拶だけをやるつもりの梁瀬先輩。
キラキラなメイクをして、髪を巻いている。
スカートから下着が見えるのはいつものことだけれども。
「生徒会長の梁瀬でーす。今回の文化祭、生徒会メンバーが一丸となって準備に取り組んできました。楽しいことが沢山あるので、みなさんいっぱい楽しもうねー!」
会場の生徒たちは興奮しているかのような声を上げながら、盛大な拍手をしている。
「………」
頭悪過ぎてビックリした。
何だこの中身の無い生徒会長挨拶。
いや、まぁ。
準備何もしていないのだから、何をするかも知らない梁瀬先輩にまともな挨拶ができるはずが無いのだ。
本当に……最悪な先輩。
体育館での催しが一旦終わり、自由時間となった。
生徒たちは、各クラスの出し物を自由に見て回れる。
私は……いつになく疲れていた。
「紗奈、お疲れ!」
「香織……。ありがとう。助かった」
「まだ早いよ。昼からも頑張ろうね! どうする? どっか見に行く?」
せっかくの文化祭だが。
正直、私には見て回る気力が無い。
「香織、ごめん。ちょっと休憩するから、他の子たちと見てきてよ」
「え、じゃあ私も休憩しとく!」
「だめ。香織には楽しんできて欲しい」
そんな私の言葉に香織は首を振って抵抗したが、どうにか行かせた。
私に付き合って、香織まで楽しくない思いをする必要は無い。
休憩できる場所。
そんなの、生徒会室一択。
文化祭で盛り上がる校内を移動し、誰もいない生徒会室に来た。
「はぁ…」
窓の外から隣の教室棟を見る。
どのクラスも楽しそうだった。
うちのクラスは揚げたこ焼きをやることになっている。
私は生徒会があるから、関わらないけれど。
「……え、渡里」
「え?」
私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
振り向いて扉の方を見ると、そこには長谷田先生が立っていた。
「……何してんの」
それはこっちのセリフだ。
「……別に私がどこで何しようと、先生には関係ありません」
「……そうだな」
そう言って先生は廊下を走って行った。
「……いや、何しに来たんだよ」
再び訪れる静寂。
私は椅子に座ってノートを開いた。
昼からの流れを再確認。
念には念を、そんな思いでいっぱいだ。
「取り敢えず、文化祭実行できて良かったなぁ……」
文化祭が出来るかどうかは長谷田先生の腕にかかっていると思っていた。
先生が生徒会メンバーを説得して、9人で準備ができる。
けれど実際、長谷田先生は何もしなかった。
他の8人に何もアクションを起こさなかった……。
「……はぁ」
峯本先生が助けてくれたから、私は頑張れた。
長谷田先生は……本当につまらない教師。
「渡里」
………また来た。
長谷田先生。
「……何ですか」
「……」
先生は無言で生徒会室に入ってくる。
そして、机の上に食べ物を置いた。
「これは……」
「やるよ」
ポテトに揚げたこ焼きにチョコバナナ。
外で売っているものだ。
「……どういう風の吹き回しですか」
「ったく、うるせぇな。黙って貰っとけ」
そう言って先生は私の目の前に座った。
「…………」
そういえば。
文化祭のことに気を取られ過ぎて、昨晩から何も食べていない。
凄く……美味しそう。
「………………いただきます」
「おう」
揚げたこ焼きに手を伸ばし、そっと口に運んだ。
…………美味しい。
ほんのり温かいたこ焼きは私の涙を溢れさせる。
「……泣いた」
「……別に。泣いていませんけど」
涙を拭いながら次々とたこ焼きを運ぶ。
久しぶりに食べた食べ物が美味しく感じるのか。
文化祭の準備期間に気持ちが張り詰めていたからなのか。
今日、盛大に文化祭を実行できたからなのか。
どの感情が優位なのか分からないけれど。
色んな感情で、胸がいっぱいだ。
「………」
そしてそんな私を、先生は無言で見つめている。
「………なぁ、渡里。……すまなかったな」
「……え?」
耳を疑うような長谷田先生の言葉。
先生が、すまなかった……なんて。
「梁瀬との話を聞かれた時、ちゃんとお前と話すべきだった。あの話を聞いてもなお、文化祭の準備をして実行してくれたこと。本当に感謝している」
真っ直ぐ見つめてくる先生の目。
思わず、目線を逸らしてしまった。
「……別に、先生に感謝されるようなことはしていません。生徒会メンバーとして、当たり前のことですから」
「お前……それだよ。たまには言葉を素直に受け入れろ」
「先生に言われたくありません。私の感情よりも自分の名誉を優先した先生に、何が分かりますか」
「…………可愛くねぇな。マジで」
「先生。まずは謝ってくださいよ。そんな先生、嫌いです」
「あぁ……俺も嫌いだ。大体、謝罪は強要するものではない」
お互いが机越しに睨み合う。
しばらく睨み合った後、どちらからともなく笑いが零れた。
「泣き顔、不細工だな」
「失礼過ぎます。先生最低」
「……バカ、ちげぇよ。泣いている顔よりブスっとしている方がマシだから、いつも不禎腐れとけって言ってんだよ」
「なら最初からそう言ってください」
先生は椅子から立ち上がって、扉の方に向かって歩く。
不禎腐れとけって、パワーワードすぎる。
けれど確かに私、先生に笑顔を向けたことが無いかも。
「……渡里」
名前を呼びながら振り返って、私の方を向いた。
「本当にすまなかった」
私の返答を聞かず、先生は足早に生徒会室から去って行った。
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