不信感


「……こんにちは」

「こんにちは~」



 生徒会室を飛び出した私は、コンピュータ室に来た。

 情報研究部の活動場所だ。



「あ、紗奈! 今日は早いね」

「うん……。もう全て投げ捨てて来た」

「どういうこと?」



 さっきあったことを香織に話した。

 生徒会メンバーのことから、長谷田先生のことまで全て。



 そんな私たちの会話を聞いていた他の部員も、集まってくる。



「今回の会長と副会長は大失敗だと思った。あれ、完全に人気投票だったもんね」

「そうそう、だって会長の公約覚えてる? 会長になった暁には、自動販売機をもう1つ増やしますだよ。それで当選するとか意味分からんにも程があるよね」

「もう既に自販機3つあるのにね」



 先輩たちが思い思いのことを言う。



 ……良かった。

 情報研究部の先輩は私の味方ということに安心感を覚える。




「しかし、長谷田マジでつまらんね!」



 そう声を上げたのは香織。

 そして部員みんなが頭を縦に振る。



「あれは教師を辞めた方がいい」

「そう思います。大体、うちのクラスの国語はほぼ授業崩壊しています」

「え、長谷田1年の国語担当なの?」

「はい。本当にヤバいです。けれど、何故か生徒から人気ですからね……。私は嫌いですけど」



 人気だけで教師をやっているような人。

 長谷田先生……。



 どうやったら生徒会担当から外せるかな。

 ちゃんと『指導』ができる先生が良い。




「うい~す」

「峯本先生、こんにちは~」

「おぉ、渡里。今日は来たか」

「来ました」



 情報研究部の顧問、峯本みねもと颯太そうた先生。

 商業科情報処理教師。


 商高のハッカーと呼ばれる峯本先生。

 いつも怠そうだが、情報処理のことになると火が付く。



「渡里、白石から聞いたかもしれんけど。秋の大会はプログラミングを頼むな」

「あ、はい。頑張ります」



 出来る限り……だけど。

 そう心の中で付け足す。



 先生は教壇に向かいながら、首を傾げた。



「ところで、何でみんな集まってんの?」



 1年生から3年生まで、みんなが私の周りに集まっている。

 この状況……確かに、疑問を抱く。



「いや、先生聞いて下さいよ。渡里ちゃん以外の生徒会メンバー、全く活動していないらしいですよ」

「そうそう。渡里ちゃんが1人で生徒会業務をやっているし、明日の生徒総会の準備があるっていうのに誰も来なかったみたい」

「ねー先生。ヤバくない? 」

「それは……ヤバいな。ヤバいけど、そういう状況で渡里がここにいて、明日の生徒総会の準備は? 誰がやってんの?」

「…………」



 コンピュータ室に静寂が訪れる。


 勿論、誰もやっていない。



「先生、紗奈はここ来る前に生徒会室行って準備してたんです。だけど長谷田先生が来て、生徒会メンバーが誰もいない状況の中、紗奈に対して『無責任なのはお前』って言ったらしいですよ」

「渡里、本当?」

「はい。先に私が『みんな無責任』って言ったんです。そしたら長谷田先生が『やる気があるお前が呼び掛けるんじゃない? 無責任なのはお前だろ。何してんの』って言ってきたので、全て放棄してここに来た次第です」

「それは……長谷田が悪いな」



 改めて長谷田先生の言葉を口にして思ったけれど。

 酷い言葉だな。



「長谷田もなぁ、生徒にチヤホヤされて天狗になってるから。喝入れないといけないって思ってたところよ。まぁ、任しとき。俺から言ってみるよ。渡里は明日のこと気にすんな。まっ、どうにかするから」

「……峯本先生。ありがとうございます」

「さすが情研部の顧問! よ、カッコイイ!!!」

「はいはい。カッコイイのは知ってるから。よぉ〜し、皆の衆。大会に向けて勉強しようじゃないか」

「はーい」



 プログラミングと表計算に分かれて勉強が始まった。




 峯本先生は気にするなと言ったけれど。

 明日の生徒総会のことがむちゃくちゃ気になって。



 目の前の課題に集中できなかった。




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