第3話 太閤秀吉の策略

「しかし、秀吉の考えが理解できないな」



 俺は一人ごちる。彼の計画は堺の港の全船の撃滅ではなく、「一隻のみ沈没させよ」とのことだった。



「そりゃあ、一回見れば他は降伏するかもしれないけれど……」



 一つ考えられるのは、「残った船を没収すること」。そうすれば、国として財産になるし、単純に輸送力がアップする。でも、それだけではない気がする。策略家の秀吉のことだから、より大きな考えがあるに違いない。俺には到底考えつかない作戦が。



「おいおい、どうした。柄にもなく考え事しちゃって」凪が隣に来て肩を叩く。



 甲板にいるので、潮風で彼の声が途切れ途切れになる。考えを述べると「そんなこと知るか」と投げ出された。まあ、秀吉も俺たちに悪いようにはしないだろうけれど。





「さて、いよいよだな。目標はあの帆船だ」秀吉が俺たちに指示した船は、船団の中で上の下といったところだろうか。てっきり、一番ボロい船を指示されると思っていたのだが。



「ほ、本当にあの船でいいんですか?」念の為確認するが、秀吉は力強くうなずく。



 ええい、秀吉の考えなんか知るか! 要は奴らを降伏させればいいのだ。その目的さえ同じであれば、どのような手段だろうと同じことだ。俺は主砲を船の方に向けて慎重に狙いを定めると、スイッチを押す。



 堺の港に轟音が響き、一隻の船が爆ぜる。その様はまるで、映画のワンシーンのようだった。





 その有り様を見て、他の船の乗組員は大人しく投降した。予想通りの反応だった。



「皆のもの、船に乗船せよ!」



 秀吉の号令で武士たちが乗り込む。やっぱり、船を再利用するのが目的だったらしい。しかし、秀吉の命令はそれで終わりではなかった。



「積荷を下ろして、分別せよ! 香辛料はこっち、あっちは美術品の類だ」



「なるほど、積荷が本当の目的だったんですね」



 秀吉の横に立ちながら、訊ねる。そして、秀吉が「ああ、その通りだ」と返事をする。



「だったら、轟沈させたのはあの船で良かったんですか? いいものが積んでありそうでしたけど……」



「お前、船の外観で決めつけてはいかん。あの船はすでに積荷を下ろしている。つまり、用無しというわけだ。まあ、お前はその事を知らんから、そう考えるのも無理もない」



 さすが太閤豊臣秀吉。そこまで、計算に入れているとは、恐れ入った。



「もしかして、積荷を分類したら、均等にあれらの船で全国へ運ぶ、そんな考えですか?」



 秀吉はふふ、と笑う。どうやら、当たったらしい。



 輸送力を上げるだけではなく、全国へ配ることで全体の経済を良くする。とても俺では考えつかないだろう。敵船を攻撃して滅茶苦茶にすることしか考えていなかった俺には。



「それで、最初はどこを攻める? やはり、一番近い朝鮮半島か?」秀吉の顔は戦艦大和という巨大なおもちゃを手に入れた子供のように無邪気だった。



「ええ、朝鮮半島、そして明です。しかし、単に攻めるわけではありません。貿易港のみ叩きます」と俺は秀吉の問いに答える。



 彼は首をかしげると「なぜ、内陸まで攻めない。もしかして、経済的に混乱させて、弱らせる作戦か?」と持論を述べる。



「それもあります。でも、これは侵略と同時に、奴らへの復讐でもあります」



「復讐とな?」



「我が国は明との貿易で銀が多く流出しました。実はこれが一因となって、百年ほどのちに日本は経済が弱るんです」



 そう、江戸幕府では銀本位制を採用していた。つまり、銀が貨幣の基本単位となっていたから、国内の銀が不足すると、貿易相手国に銀が流出しやすくなり、ますます経済的に貧困になったのだ。今ここで、明から銀を取り戻せば、悲惨な未来を避けることができる。



 説明をすると「お前もしっかりとした戦略を持っているのか。どうだ、うちの軍師にならないか?」と冗談を言われた。もちろん、そんな器ではないことは自覚している。



「では、明に向かうとするか。皆のもの、配置につけ!」



 秀吉の命令によって武士や足軽たちが、持ち場につく。機械式とはいえ、三人だけで動かすのは正直キツかったから、大助かりだ。それだけでなはい。彼らのおかげで、遠距離は大和で、近距離は歩兵の上陸により、攻めの分担ができる。敵に内陸で陣を敷かれては、大和の射程範囲外になってしまうから。



「さあ、世界征服にいざ行かん!」



 秀吉の号令で大和は徐々に動き出す。明だけではない。これから世界を相手にするのだ。任務ではあるが、ワクワクもする。そして、広大な海に向けて叫ぶ。



「この船で俺たちの運命を変えてやる。歴史を塗り替えるために!」

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