第16話 悠人の過去
俺、柳 悠人は中学二年生のころいじめを受けていた。
いじめている本人たちからしたらきっかけはきっと些細なことにすぎず、軽い気持ちでやってしまっていたのだろうと思う。
でもされた側からしたらそれは大きなことだったわけで、ずっと心の傷として付きまとわれるのである。
中学校二年に上がった最初のころ俺は髪が長かった。
どのくらい伸ばしていたかというと肩に届きそうなくらいの長さだったと思う。
俺はこれを思春期の自己探求の一環であり、自分の個性の一部だと思っていた。
中学に上がり、二年生という学校生活に十分に慣れてきた時期にほかの人とは違う自分をアピールしたいと思うようになった。
当時は髪の長さが自分のアイデンティティを形成する一部であり、自己表現をする一つの手段だったのだ。
そんなある日クラスの中心的なリーダーである奴から「お前きもいんだよ。男のくせにそんなに髪伸ばしてさ」と言われ、それからずっと陰口を言われ、笑われるようになる。
学校に登校する度にクラスメイトから「キモイ」だの「男のくせに髪長すぎなんだよ、くせぇんだよ!」などの罵声を浴びせられそれに周りも呼応するように俺にどんどん罵声を浴びせたり無視したりするようになった。
教師に相談してもまともに相手にされず、あまつさえ「キモイんだよお前」と罵倒された。
そんな日々を続けていると当然だが俺の心はどんどんすさんでいき、「やっぱり髪を切ろう…」と考えるようになり、俺は髪を切る決心をした。
そんな数日後、髪をバッサリと切って学校に登校した。
「これでいじめられなくなる」と安易に期待していた気持ちはすぐに打ち砕かれることとなる。
「あれ、?柳髪切ったの?でもお前髪でよく顔がみえてなかっただけで、実際はこんなきもい顔してたんだな笑前のほうがまだましだったんじゃないか???笑笑」
今考えると恐らく彼らも引くに引けなくなったのだろう、意地を張っても謝ろうとしなかったのだと思う
だからまた敢えていじめるという彼らは選択をとったのだ
俺の前には冷たい現実が広がった。
自分が変わったところでいじめがなくなるわけではないと実感する。
どうせきもいと思われるならましなほうがいいかと思いそれからずっと前髪で顔を隠すようになってしまった。
ただその時ずっと味方でいてくれて、陰口などを一切言わず、いつも通りに接してくれた旭に「高校に入る前にさすがに鼻あたりまで髪切ったら?」と言われたので、現在は目が覆いかぶさるようになる程度の長さでとどまっている
高校が家の近くにあったということもあり、中学でいじめをしてきた奴らもちらほらといて、陰口を言われることもあるが旭や紗雪が「全然気にしなくていいよ、あいつらがキモイし、悠人(お兄ちゃん)は素敵だからだいじょうぶ」ってい言ってくれていて、それに少し心が救われている自分がいる
でも俺もそろそろ成長しなきゃな…
☆☆
いくら美容院で自信がついたとはいえトラウマとはなかなか解消されない
手足がぶるぶると震える
「すぅ、ふぅ…」
その震えを抑えるように校門の前で深い深呼吸をした
よし、行くか
俺は体をおどおどさせながら下駄箱へと向かい、靴を履き替え教室へと向かう
大丈夫だろうか、前みたいにいじめられたり罵倒されたりしないだろうか…
いっぽいっぽ教室へと近づくたびどんどん不安が募っていく
横を通り過ぎる人たちが俺を凝視してくる
あの人はどう思ってるんだろう、この人は…
そう考えると怖くなってくる、俺はまだ成長できてないな弱いままだなと自分を責めたくなる
あぁ、俺はダメな人間なんだな
だんだんと気分が落ち込んでいき、顔の口角も下がり、
「悠人君、おはよ!」
「悠人おはよ」
前から何やら声が聞こえた
その人物を心配させないように表情を戻し
垂れてしまった頭をよいしょと持ち上げ、目線を上げるとそこには結奈と春音がいた
「あ、あぁ、髪切ってみたんだがどうかな、俺、きもくないかな…」
「きもいわけがないじゃん。そ、その…悠人かっこいいよ」
「きもいわけないよ!悠人くんすんごいかっこいいよ!」
「もう、皆で一緒に行こって言ってたじゃないですか~。抜け駆け禁止ですよ?まったくもぅ」
「そうだぞ?俺たちみんなで行こって言ってただろ??」
次は背後から声が聞こえ、振り向くと旭と儁が歩きながら俺のもとへ来ようとしていた
え、みんなでってなに?
「ごめんごめん、私が見てられなくて」
「ん…真っ先に結奈が飛び出ていったもんね」
「え、なんでみんなここにいるんだ?旭と儁はまだわかるが結奈と春音は真逆の方向にクラスがあるだろ」
「私が呼んだんだよ?」
「えっ?」
「昨日友達と用事あるって言ったでしょ?その用事はね、ここにいるメンバーに悠人の過去のこと話して、明日もしかしたら悠人がしんどい思いするかもしれないからみんなで朝集まって支えに行こうっていう話をしてたの。勝手に過去の話してごめんね悠人…。でも心配だったの…」
(でもまさか旭ちゃんが悠人に告白してたなんて、あの場で私に宣戦布告してくるとは思わなかったけど…私はまだ気になってるだけなのになんか焦っちゃうな、)
俺は涙でみんなの顔が見れなくなっていた
「ぃ、いや、旭が謝ることはない…、俺のためにありがとうな、みんな」
「全然気にすんなよ悠人。俺たち友達だろ?その髪型にあってるぜ?」
「やっぱり私のオーダー方法に間違いはなかったみたいね!さすが旭ちゃん!褒めてくれてもいいよ!悠人~その髪型雰囲気に合ってて似合ってるよ、私は好きだな~」
「ああ、ありがとうな旭…」
「そうだよ!ほんとに過去のことなんか気にしないでいいからね?」
「あーし、いじめとか大っ嫌いだからほんとに気にしないで大丈夫だし…!」
「ってかおい!しれっと自分の手柄みたいに言うなよ!俺も協力しただろ!」
「儁のアイデア役に立たなかったじゃん!」
「みんな、ほんとにありがとな!」
俺は今まで見せたことのない屈託のない笑顔をみんなに向けた
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