第15話 モテ悠人前日




「それじゃあまた家でな」


「うんまたね、おにぃ朝言ったこと忘れないようにね〜!」


手をひらひらと俺に向かって振りながら自分の学年の下駄箱へと移動し、靴と上履きを履き替え自分の教室へと向かう


「いつも通り接する。だろ?分かってる。」


自分に言い聞かせるようにぽつりと呟く


「さてと、紗雪も行ったことだし俺も教室に向かうとするかな」


人がちらほらと見える2年生の下駄箱の方へと移動し、靴と上履きを入れ替えたり教室へ行く準備をしていると、なんだか視線のようなものを後ろから向けられているのを感じた


「…」ジーッ


なんで俺の事じーっと見てんの?

怖いんですけど


学校内だから、たぶん怪しい人物ではないと思うんだが…


ほっとく訳にもいかないか、ちょっと気味も悪いし


「…なぁさっきから視線を感じるんだが、俺になんか用か?」


振り返り声をかけるとそこに意外な人物が俺の方をじーっと見つめているのを捉えた。


「あ、おはよう悠人」


なんとそこに居たのは溝口だった


「なんで溝口が俺の事じっと見つめてんの?そしてなんで悠人呼び?」


「別に…、結奈がいつもそう言って話してくるからもう私の中でもそれで定着してるだけだし」


別に…ってなんだよ


「俺何か悪いことした?」


前ショッピングモールの時胸チラチラ見てたこととか?


異議あり。

あれは弛んでる服きてる方が悪いと思います。


「…だから別にって言ってるじゃん。こっちの話だよこっちの話。」

(結奈と釣り合う男か品定めしてるとかどう考えてもいえないじゃん…)


ギロリと鋭い目つきで睨んでくる


その眼光に俺は萎縮してしまい、言葉を詰まらせてしまった


「お、おぅそう、か。でもちょっと気味が悪いから控えてくれると助かる」


「ん…りょーかい。それから私のことははるねでいいから」


ぴゅーっと溝口は自分のクラスへと走り去って行った


「なんだったんだ一体…」


終始何考えてるか不明だったな、…


まあいいか

それより俺もそろそろ教室に行かないとな


春音を追いかけるように教室へと歩き出した



☆☆



「あ、悠人おはよ〜!」


教室に入ると真っ先に旭が挨拶をしてきた。


(いつも通り、いつも通りに。だ)

「あぁ、旭おはよう」


にっこりとだけ笑みを返すと旭は友達との会話の中へ戻って行った


それを横目で見ながら自分の席へと向かう


よしっ、

不自然ではなかったはずだ、自然に会話出来たと思う

この調子なら多分大丈夫そうだな


「おっ、悠人おはよ」


「おはよ、なんか久しぶりに儁を見た気がするわ」


「おいおいまだ金曜から2日しか経ってないぞ笑」


「それだけにこの2日間が長く感じたってことだな」


「お?なんかあったのか?」


「またゆっくり出来る時に話すよ、週末辺りに」


「分かったじゃあまたゆっくり話せる時に話してくれ」


と言った具合に会話を終わらせるとちょうど先生が入ってきて朝のHRが始まった





─────あっという間に授業が終わり放課後を迎える



「それじゃあ俺はがあるからお先に失礼するわ、初美容院頑張れよ〜明日その長い髪がどんなになってるか楽しみにしてるわ、じゃあな。」


「私もがあるから先行くね、初美容院頑張ってね!応援してる!!!あ、そういえば今日一緒に帰る予定だったけどあれなしでいいからね!」


「変になっても絶対笑うなよ…?また明日な。」



旭と儁はそう言い残すと颯爽と教室から出ていった


儁と旭には午前中の休み時間にそれぞれ「今日髪を切りに美容院に行くんだがどんな髪型がいいと思う」と相談しに行ってたんだが、昼休みになると二人して俺のところにその話をしに来て、一緒に相談に乗ってくれてその成り行きで二人は仲良くなっていた。

さすが陽キャたち、恐るべし。


さて、俺も美容院に行くとするかな



☆☆



「お、おじゃまします…」


ドアを開けつつ、カウンターのところにいる女性に恐る恐る声をかける


「あらいらっしゃい。あなたが紗雪ちゃんのお兄さんであってるかしら?」


うちのお母さんと同じくらいの年代の女性の店員さんで、その佇まいはとても美しく感じられた


「あ、そうです。突然お願いしてしまってすみません。」


「ふふ、いいのよ。席は用意してあるからこっちに座ってちょうだい」


促されるままに俺は用意されていた席へと移動し、深く腰掛ける。


「今日はよろしくお願いします」


「よろしくね、悠人くん。髪型についてどうしたいとかってある?刈り上げたいとかツーブロックにしてみたいとか」


俺は今日昼休みに旭や儁に聞いたことをそのまま伝える


「わかったわ、それじゃあ始めるわね」



こうして人生初めてのカットが始まった




────「はいこれで終わり!自分で確認してみてちょうだい」


俺の髪をワックスでスタイリングし終えた店長さんが声をかけてきた。


目を開け恐る恐る鏡に映る自分を見てみる


「え…、これが俺…?ほんとにこれ俺であってますか?ア〇パ〇マ〇みたいに顔取り替えたりしてないですよね?」


「ふふ、そんなわけないじゃない。悠人君はもともとパーツはそろってたんだからこのくらいのカッコよさになるのが妥当だと思うわ」


正面の鏡にはテレビでしか見たことないようなイケメンに急に大変身した!とまではいかないが今まで見てきた中で最高にビジュアルのいい自分がいた


「ほんとありがとうございます、自分を変えるのが怖かったんですけどおかげで自分に自信がついた気がします!」


「いいのよ~久しぶりにこんな原石の髪を切らさせてもらったんだし。もしよかったらなんだけどこの店でカットモデルしてくれないかしら?毎回どんなオプション付けてもお金はいただかないっていう条件でどうかしら?」


「目立ちそうなのでお断りさせていただきます」


「あらあらつれないわね~」



速攻でお断りさせていただき、俺はきちんとお金を払って退店した



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