第9話 本来の私
「「……」」
2人薄暗い街の中を黙々と歩く。
とりあえず学校の方に向かってくれますか?と言われ歩き出したがいかんせん気まずい空気が続いていた。
何か話題があったら俺たちは割と話し続けることが出来ると思うのだがその会話の糸口すらつかめない。
ここにきてコミュ障という能力を展開してしまうう俺。
なんとも情けない
何か無いか…!
なにか!
どうにか話題を探そうとあれこれ周囲を見渡したりしたが、簡素な街が広がっているだけで会話の糸口になりそうなものはひとつも見当たらなかった。
そうこうしていると結奈が口を開き、話題を提供してくれた。
「そういえば、悠人くんの家ってどこら辺にあるのですか?」
あぁ、確かに具体的な家の場所とか聞いてなかったな。
「そうだな、言ってなかったな。学校の南東側に1キロくらい行ったとこにある駅の近くに住んでるな。」
「あれ、奇遇だね。私もその近くに住んでるよ〜。でも中学で見かけたこと無かったかも、もしかして高校から転校してきたとかなのかな?」
また口調が変わってる
たまにあるこれなんなんだろうなぁ…
話の腰を折ってまで聞くことではないからまた後で聞くことにしよう。
「いや、転校してきてないぞ別に。俺の家はふたつの校区に跨るとこにあったから2つの中学校を選べたんだよ、だから中学校は違うとこだったんだろうな。」
「あら、そうなんですね?中学校から出会ってれば今もっと仲良くなれてたかもしれないのに…、」
結奈は少し残念そうに呟く。
「まぁ、そうだな。その頃から出会ってたらもう少し仲良くなってたのかもな。」
結奈といる雰囲気が悪くは無いなと感じている俺はそう答えた。
「そう言ってもらえて嬉しいです」
と微かに口角をあげ笑いかけてきた。
「そりゃよかったよ。」
くそっ、かわいいなこのやろう!
「そうそう、他に聞きたいことがあるんですけど…」
と何かを思い出したかのように結奈は話し始める。
「悠人くんって妹さんとかっていたりしますか?前に学校で悠人くんと似た顔立ちをした1年生の女の子がいたのを見かけたから気になってました」
「ああ、紗雪っていう妹が1人いるな」
「あら、やっぱりそうだったんですね」
「可哀想なことにこんなモブみたいな顔立ちをした俺に似てしまっているがな。」
と、少し自虐気味に言う。
「そんなことないと思いますよ?紗雪さんとっても可愛らしかったし、あなたもちゃんと整えればいい線いけると思いますけど…」
「ちゃんと整えればの話ですがね」
と念押をされてしまった。
かっこいいとは言われなかったのが少し残念ではあるが兄妹もろとも案外高評価だったのであとでさゆにも伝えておこう。
「ところで妹さんはバイトとかはしていないのですか?」
「まぁ、妹は家の事してくれてて忙しいからな。」
「あら、親御さん達は忙しいの?」
純粋な疑問に充ちた瞳をしてそう問いかけてくる。
「父さんが小学生2年生の頃に亡くなっちまってな、その頃から母さんがせっせと働いて俺たち2人の養育費を払ったり、将来に向けて貯金したりしてくれてるんだよ。それをどうにか手助け出来ないかってことで俺はバイトを始めて、紗雪も紗雪でなにか出来ないかってことで小学4年生位の頃から家事をし始めたんだよ。
と言っても「あんまりバイトに入りすぎて体壊さないでね」って母さんに心配されたからシフトの量は程々にしてあるんだがな。」
横に視線を向けると申し訳なさそうにする結奈がいた。
「ごめんね、無神経だったね…」
また口調が変わってるな。
「いやいや、別に大丈夫だって。もう昔のことだし吹っ切れてるから、俺の方こそごめんな。」
「うん…、それでもごめんなさい、」
それからまた気まずい空気が流れる
今度は俺が何とかしなければと思い、最近ふと疑問に思ってることを聞いてみることにした。
「んっうん、」
気まずい雰囲気を和ませるように咳払いをしてから話し始める。
「最近疑問に思ってることがあるんだがきいてもいいか?」
「え、えぇもちろんいいですよ?」
話しかけてきたことに驚いたのか言葉をどもらせ、反応した。
「俺とLINEとか現実で話す時たまに素に戻るというか違う口調になったりするのはどうしてなんだ?」
「え…?」
「あ、あれ?私違う口調になってる時あった??おかしいなぁ…、ちゃんとボロが出ないようにやってきたのに…」
ボロが出ないようにってことは高嶺の花のようなキャラクターはやっぱり取り繕ってたって事だったのか。
「ってことはやっぱりいつも取り繕ってたのか?」
「そういうことになりますね…。まさか無意識にボロを出てたなんて不覚です…」
バレてもなおそのキャラを続けるのかよ…
「ちょっと待って、…悠人くんにバレてたってことは他のみんなにもバレてるってこと!?!?」
あ、また本来の結奈にもどった。
「多分気付いてるの俺だけだと思うぞ?少なくとも俺が見た限りでは他の人にはそういったような態度取ってなかったしな。」
「ほんとに、?それならいいんだけど…。」
「あなたまさか言い触らしたりしませんよね?」
そんなに俺信用されてないの?
信用を裏切ったことはないと思うんだけど…
ちょっとしゅんっとしちゃうなぁ、
「いやいや、しないって。わざわざ言いふらすようなこと。俺にそんな趣味はないしな。」
「冗談よ、冗談」
全然冗談に聞こえないんだが…
「それよりなんで本来の自分を隠してるんだ?別に話したくないなら話さなくてもいいんだけど」
どうしても気になった俺はその理由を聞くことにした。
「別にあなたになら話してもいいですね、私がぼろを出すってことはあなたを信用してるってことだと思いますし。なんでかは分からないですけど…」
なんでかはわかんないのかよ…
信用されてるのか、されてないのかよくわかんねぇな…
まあ話してくれるってことは信用してくれてるってことでいいんだろうか?
すぅっ、ふぅ…
と一息深呼吸して話し始めた。
「それじゃあ話しますね、昔から私異性に人気があるって前に言いましたよね?」
「そうだな、そんなこと言ってたな。」
「それで、中学校1年生の終わり頃のことでしたかね、元々こんな容姿をしてたから好意を寄せてくる周りの人達にクールだとか高嶺の花みたいだとか言われて、勝手なイメージを付けられるようになって、学年を追うごとにそれがどんどんエスカレートしていってね、芹沢 結奈と言えばクール系美少女の代表格とまで言われるようになったの。」
それはまた自分勝手な奴らだな。
「それから私は彼らの作り上げたイメージを壊して失望されるかもと恐れるようになって本来の自分で振る舞うことが怖くなったの。だから中学の頃から高校の今に至るまで私は自分が望まれるキャラであり続けるために男女関係なく自分を取り繕うようになった。これが理由かな。」
「とっても疲れることなのですけどね、失望される方が怖いんです、克服したいとは思っていますけど…」
自分自身に呆れるかのように呟いた。
言い終わるまで黙って聞いていた俺は遂に口を開く。
「そんなことがあったのか…、まあ俺は本来の結奈でも取り繕ってる結奈でもどっちにも良さがあっていいと思うけどな。」
素直にそう思うし、今異性として俺くらいしか、本来の結奈をみせられないのならそれを肯定してやるのが俺の役目だろう。
何かそれを克服する手助けが出来たらと思うし。
「そう…?」
「うん、そうだ。だから俺と接する時くらいは本来の結奈で接してくれよ、そっちの方が楽だろ?」
と笑いかける。
「やっぱり優しいね悠人くんは。さっき信用してる理由がなんだか分からないって言ったけど悠人くんが優しいって分かりきってたからみたい、ありがとね!」
と満面の笑みを浮かべる結奈がいた。
守りたい、この笑顔。
「別に優しくないだろ、普通だよ普通。」
まあ、普通の人間ならこうするだろってことをしてるだけだしな。
「そんなことないと思うけど…」
「まあいいや!お言葉に甘えてこれからは悠人といる時は本来の自分で居させてもらうね!」
「おう、ぜひそうしてくれ。」
などと話していると俺の家の前まで着いてしまった。
「俺の家に着いたけど結奈の家ってどっちだ?」
「あ、ここが悠人くんの家なんだね〜。りかいりかい。」
と何やらスマホにメモしていた。
ちょっと結奈さん?人の家の住所をメモして何に使うつもりですか?
怖いです
やめてください
しかも俺の質問に答えてくれてないし…
「で、結奈の家はどっちなんだ?」
もう一度結奈に聞き直す。
「あ、ごめんごめん答えてなかったね〜。私の家はこっから5分くらい東に歩いたとこにある踏切を超えたあたりにあるよ。」
あぁ、あそこの踏切か。
「分かった。ほらついて行ってやるから早く行くぞ。」
「うん!ありがと!」
と会話し結奈の家へと歩き始めた。
その後結奈とくだらない話をしながら家に送り届け、その後俺は自宅に帰宅した
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます