第7話 なんでここに!?
校門を抜け、バイト先へと歩き始める。
スマホで時間を確認すると17時30分と表示されていた。
充分間に合うな。
俺は学校から徒歩二十分位のとこにある個人経営の喫茶店『L'OASI』でバイトをしている。
ちなみに誤解のないように言っておくが、校則でバイトが禁止されている訳では無い。
むしろうちの学校ではいい社会経験になるという事で推奨されているのだ。
しかし、そのせいで学生がトラブルを起こして学校側が対応に迫られることもあるのだとか。
学生が経験をできる代わりに、何か有事の際は先生たちの仕事が増える。
一長一短だなと俺は思う。
学校が徒歩で通学できる範囲内にあり自転車通学が出来ないので、学校から徒歩で行ける範囲の中でなるべく遠めの、そしてなるべく同級生がおそらく来にくいであろう店舗をバイト先として選ぶ事にした。
その結果がこの店舗になったというわけだ。
このお店は日曜日は定休日でそれ以外の日は朝10時30分〜昼の12時まで、夕方18時〜夜の22時までと二部制で営業している。
読み方は店長によると''ロアジ''と読み、意味はイタリア語で憩いの場という意味になるらしい。
なんともオシャレな名前なんだろうか。
付けた店長を褒めてあげたい。
そして、「褒めてくれてありがとね。ヨシヨシ」と頭を撫でられたい。純粋に。
高校に入学してすぐの頃からここでバイトを始めたのでかれこれもう一年間位は続けていることになる。
店長は30代前半、すらっとしたスレンダーで母性本能をくすぐられる体型(つまりおっ〇いおおきい)をしている大人なお姉さん系美人の女性であり、名前を有村
20代前半と言っても過言では無い全然違和感のない整った容姿をしている。
結婚はしていなく、本人に結婚願望はないらしい。
引く手数多だろうになぁ…
ちなみにとても包容力があり、とっても優しい。
一挙一動がとても落ち着いており、彼女目当てでお店に来る人も少なくないんだとか。
そういう意味では美織さん自身が看板娘的な役割をしている。
本人はそう言われることを「店長としての威厳が無くなっちゃう!!」と嫌がっていたが。
どうだ?これを聞いてみんなも撫でられたくなってきただろう??
人はいつまでも母性を感じていたいのだ。
余談だが、俺の養ってもらいたいお姉さんランキング堂々の第一位を記録している人物だ。
今後これ以上の人は現れないだろうと断言しておこう。
などとくだらないことを考えている間、黙々と歩いているとようやくお店の看板が見えてきた。
今日は金曜日でしかも午後からのシフトだからお客さんが多そうだな…
テキパキと働くぞと気合を入れ、『L'OASI』へと足を踏み入れるのであった。
─────からんからんと音のなる扉をくぐり抜け、入店する。
まだ開店前なので当然だが人はいない。
「お疲れ様でーす。」
入ると同時に一息鼻から空気を取り込んだ。
すーっ…
ふぅ。
やっぱりこの店の匂いが好きだ。
コーヒー豆の匂いが充満していて、とてもリラックス出来る空間となっており、その雰囲気を壊さないために店内の装飾も相当こだわっているようだ。
程なくして奥から扉の音を聞きつけた美織さんがでてきた。
「あら、悠人くんお疲れ様。たしか今日18時からだったよね?昨日新しく入った子がいて、一応基本的なことは既に教えてはあるんだけどまだまだ不慣れな点が多いから優しく指導してあげてちょうだいね。あと、その子悠人くんと同じ学校で、しかも同じ二年生だって言ってたわよ?もしかしたら知り合いかもしれないわね。仲良くしなさいよ??」
げっ、そうなのか…
うちの高校の生徒が新しく入ってきたのかぁ…
働く仲間が増える分には作業量が減るからいいんだけど、よりにもよって同じか学校かぁ、
あんまり同級生に働いてるとこ見られたくないんだよな〜、なんか恥ずかしいし…。ってそれはお互い様か。
そういえば芹沢も今日の放課後バイトの予定が入ってるって言っていたな。
どこで働いているんだろうか?
あの容姿だどこでもやって行けるに違いないが、案外喫茶店とかも似合いそうだな…。
もしかしたらここか…?
いや…無いかここは学校から大体2kmくらい離れているし、わざわざ人がきにくそうなところ選んだしな。
「了解しました。ちなみに新しく入ってきたバイトの子の名前はなんて言うんですか?」
その子のことが気になってつい聞いてしまった。
「あぁ、えっとそれはね…「───悠人くん私です。」」
美織さんの言葉を遮るように、発した言葉はバックヤードの方から聞こえたものだった。
なんか聞いた事のある声だな…。
恐る恐るバックヤードの方へ目を向けるとなんとそこには腰に手を当て仁王立ちしている芹沢の姿があった。
(もう平穏な俺の日々は戻ってこないかもしれないな…)
いまにもあんた馬鹿ぁー!?と言ってきそうな感じだった。
なんかちょっと嫌な予感してたんだよなぁ、、
朝見た占い総合四位の力はこんなもんかよ。
もうあんなのタブから消してやる!
へっ、短い
などと考えていると芹沢はてくてくと美織さんの近くまで移動し、視線を向けた。
「すみません、美織さんの話を遮ってしまって。どうしても自分の口から言いたくって…」
「全然いいのよ?気にしないでちょうだい。」
「すみません、ありがとうございます。」
そして俺の方に向き直してこう言った。
「さっきぶりですね悠人くん。どう?驚いたでしょ。」
だから、こいつ今日の昼休み意味深に誤魔化しながら放課後の予定聞いてきたのか…
呆れたように俺は答える。
「まったく…驚いたよほんとに。っつうか悠人じゃなくて柳って呼んでくれよ。」
「別にいいじゃん〜、ここに同級生は私しかいないんだし。それより私のことも結奈って下の名前で呼んでよ!」
やっぱり俺と接してる時ほんとにたまにだけど口調が変わったりする時あるよなあっちが素なのだろうか?いつか聞いてみよう。
話を戻すが芹沢が言っているように、俺たちの他にここでバイトしている人のすべてが他校の高校生だったり、大学生の人達だけなのである。
「えぇ、いやだよ…。」
と言うと完全に蚊帳の外だった美織さんから
「なんでよ下の名前で呼ぶくらいいいじゃない。それに私仲良くしなさいって言ったわよね??」
と結奈に助け舟を出され、俺には名字で呼ぶという選択肢しか残されないのであった。
「美織さんまで…。なんか小っ恥ずかしいんですよ、最近友達になった異性の子を名前で呼ぶの。」
ぽりぽりと頬を書きながら答える。
「あら、私の時はすぐに美織さんって読んでくれたのにね?結奈ちゃん良かったわね!意識されてるってことよ。」
「ま、まぁ?悪い気はしないですね。」
とちょっと嬉しそうに言う。
「いや意識してるって訳じゃないんですけど…」
すぐって言っても働いてから1ヶ月くらい経った頃だったし、美織さんが「早く美織って呼んでよぉ〜」って催促してきてたからな、
俺の意志じゃないというか…
て言っても、このまま話しても埒が明かなそうだし、美織さんにも詰められてるからもうどうしようもないな…。
と俺はしぶしぶ承諾することにした。
「はぁ、わかったよ…結奈。」
と目を逸らしながら言う。
あれ?意外と恥ずかしくないもんだな…。
「はぅ…、//」
目線を戻すとそこにはニヤけた口元を必死に隠そうとする結奈がいた。
「あれ?どうした結奈。」
「ううん、なんでもないの。それより早く着替えてきた方がいいんじゃない?もう開店5分前だし。」
「そうだわ。悠人くんぱぱっと着替えてらっしゃい。ついでにバックヤードにいる人を読んできてもらえる?準備出来たらすぐ開店するから。」
と話題を逸らすように二人に言われた。
「了解しました。」
素直に了承し、バックヤードへと向おうとすると何やら芹沢と美織さんがグッジョブと親指を立てお互い見つめ合っていた。
やっぱりグルだったのかよ…
(若いっていいわね…羨ましいわ。)
誰にも聞こえないように美織さんはそう呟いた
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