短歌集2023
籔田 枕
短歌集2023
#haiku
冬の沖光芒のさすありがたみ
杉山に歌ひ手ありて鶯や
#tanka
胃は冷えて肩や背中はやさぐれて銀のきらめき千代に八千代に
争いのあとに残ったものはただまずい味噌汁喉のむかつき
永久に続く痛みと苦しみへいらっしゃいませごゆっくりどうぞ
産まれたら強制参加させられるコロシアムからたまに逃げたい
闇(くら)い中映画を斜めっからでも観るみじめさと恋は似ている
「自分の機嫌は自分で取るもの」に救われる人、殴られる人
"飯を食う時だけ開くTwitter"飯食いすぎだろ相撲取りかよ
将来は火影になって悪人に「わかるってばよ」を炊き出す予定
なにもかもめんどうくさい
大学院卒業年収600万以上身長え 私ですか?
世の中の男がみんな鈍臭い女vsなんもせん男
アドリブは苦手だ僕は文鳥で風の捉え方ひとつ知らない
アドリブは苦手だ僕はイエネコでアドベンチャーも一歩でおしまい
アドリブは苦手だ僕はサーカスの象で暴れ方がわからない
人類は愚かだ全てどうでもいい怒りも恋も惧(おそ)れもおれも
人類は愚かですので今日からは神に管理していただきます
人類は愚かだ滅べ今すぐにその「美しさ」だって誇張だ
人類は愚かですからわたくしが月に代わっておしおきします
人類は愚かだだからこそ僕は教員になりここに立ってる
あんなにも可愛く生まれたら人生楽勝だよな自由でいいな
あんなにも可愛く生まれたら人生大変だよな磨かなきゃだもん
「帰る」のが実家ではなくアパートになる春 母の声無き喜寂(きじゃく)
すみません『悲しみ』……作りすぎちゃって……よければおひとついかがですか
偶然に理由をつける壁のしみ星のまたたき運の尽き
ボルネオのウツボカズラよおれも今から醜くとも強く生きる
いけないなあなたの髪とくちびるが春の日差しできらめいててさ
あんまりにあなたが強く光るからわたしが不甲斐なく思てさ
十字架と彼氏は似てる折を見てチラつかせればワンチャンは散る
無理なのに傷つけないよう気をつけて喋って結局踏み抜く地雷
ひとひらの書棚をあさるこれは日々中身が変わりわたしのもある
おれなのかわたしなのかを問うたびにイルカがなみのりをして遊ぶ
やさしくてくるしみに充ちているからあまり眼鏡をかけないのでしょう
君になら欺(だま)されても後悔はない押花になるコリウスの花
好意でも人が縛れることを知る私はなんにでも『いいね』する
雨の日も自分の香りを抱くようにうつむいて咲くサザンカの花
生きていていいのかどうか死にたがることでしか聞けなくてごめんね
追われれば逃げ、逃げるなら追う、そんな野良猫のよな距離感でいたい
きみがすぐ次の恋へ行けるようにぼくは悪者にでもなるかな
なんの日かすっかり忘れていたくせにずうずうしいしあつかましいよ
君がもし花言葉を検索したら「さびしい」ばかり集めるだろう
そばにいることが無理ならそばにいる気持ちにさせてメロンの匂い
引き留める理由を探す食べようとしてたゼリーの成分表示
恋が脳のバグならばまたいずれ会えるでしょうから ではお元気で
白いワンピースを見ると思い出すあれはたしかにヒロインだった
怪獣と鬼とはさほど違わない いかに無様にやられるか、だ
棄てるべきチャンスを逃し続けてる紙パックゴミのような焦り
先輩が卒業すればわずかだが勝算はある10(とお)ミリくらい……
偽りのマザーファッカーそこをのけ空虚な事柄に箔をつけて
スーパーのBGMがどんぶらこどんぶらこっこウケる気が散る
食感がもちょもちょしたものを焼けばベイクドモチョチョの完成ですね~
ろうそくの光の落ちたテエブルのクロスの十字(クルス)に交差(クロス)する影
シノニムがあればあるほど身近かなブロントサウルスエロサウルス
エジプトの生贄にされた十匹のワニのミイラの咽喉(のど)の渇きよ
日常に同居している惜別をたぐり寄せては手放す毎日
さあこれでおれかおまえのどちらかが死ぬまで終わらぬぞ覚悟せい
「嫌(や)だ」という最上級の否定語を退けてまた神にでもなる
若者は説教なんかしなくても結構ちゃんとしてるってこと
家にいる人を思えば一回り大きい鍋に多めのカレー
いつまでも夜(よ)が明けないから火をつけた雪よ全てを包みこんでくれ
戦争は爺(じじい)が始め中年が指揮をとり若者が死ぬもの
管(くだ)の水押し出すモーター音を聞く「うう」深酒の吐き気とともに
暗澹とした歌ばかりだと兄が心配するから踊るとするか
隣人のこもる歌声伸びやかに明日(あした)の咽喉もままよとばかり
悲劇だとわかっていながら都合よく愛を貪る夜の街灯
燃えている焔のような逢いたさへ油をかける昨夜のうちに
純水な見た目で溶岩のような語り口が好きだった(今も)
真剣に指揮棒を振る君の背が恥ずかしいわけないじゃないか?
駄菓子屋で万引きするやつ何度も当たりを引くやつ見てるだけのやつ
やさしさを焦げないように煮立たせて砂を噛むより味のない飯
嫉妬ではないと言えないドーナツの穴を特大イチゴで埋める
図書室の時計の針は休みなく叩く湿った梅雨の空気を
咲かずともああ桜だと判るよな魂を視(み)る人になりたい
自由には危険と責任がともなうテトラポットの少年の影
生き残るために周りを蹴落としてきた水槽の魚そっくり
考えることをはじめっからやめた人の「わからない」に白くなる
男ならだれもが一度はしげしげと眺めた五百円のきらめき
いつのまに生まれて消えた1号が2号によって弔われてゆく
やらかしたすまないカレー忘れてたじゃがいもが無い目で責めてくる
美しく進化することでSNS(ネット)で拡散される虫の戦略
「そうだよ」とあの時言えていたならば綺麗な石になれただろうか
電燈の光の下にだんだんと憂鬱になるばかりの心
我が辞書に【敗北】ばかり殖(ふ)えて君たちも大抵蟹なんですよ
蜃気楼 浪(なみ)打ち際をそろそろと歩く気持ちの悪い海松(みる)ふさ
師よ僕はもはや詩など書いていません……しかし無駄にはなっていません
「手付かずの緑が好(い)いね」と云ふ祖母や遠くから見れば皆美し
永遠を願った人は幸せでそしていずれはこまぎれになる
ここはなぜ暖かいのか肉球(てのひら)に眩しさが乗る さわれない滝
あせらずにゆっくり歩けばいいだれもわたしを待ってはいないのだから
散々わたしをいじめてくれたのにそうやって泣くとかできるんだ
饅頭の甘い匂いに束(しば)られて消極的に暮らしていたい
穴という穴を塞ぎまくっているそれらがどこへ行くかも知らず
親指が長くて靴擦れとはもう二十四年の仲でございます
理不尽で公平じゃないこの世界せめてわたしは味方でいたい
ドストエフスキーを積んでおくことでいつでも鬱になれるトリビア
金なんかなくても手を繋ぐだけで幸せだった学生の恋
迫害を受けがちな人が集まるメイドカフェで働いてみてよ
プログラムされているとも知らないでみんなこぞって「恋」していたな
人間の言葉に寄生(やど)り生存と繁殖を狙うネット・ミーム
批難している時だけは気持ちよくおのれの過ちを見ずに済む
「だからなに」と思うことが増えてきて思わず鼻でため息をつく
誓ってもいいただそれで君のこと使い捨ててきそうなら逃げろ
普段から怒られているかのように黙って上着の埃をはらう
妹よ私が便りに思うのはたった一人お前だけですよ
月々の雑誌に従兄の名がありて誇らしき手で頁(ページ)をはぐる
うすれゆく『こども110番の家』錆と寂(さ)びがこの町を包む
どこまでが川でどこから海なのか呼吸を止めて鰯追う鯖
ありがとうございますぜひ今後ともよろしくお願いします 以上
落ちてゐた短冊結へ直したり手を振るごとく風にひらひら
バスケットボール工場しゅうしゅうと空気を入れられてく友達
麺がよくほぐれるように祈られてただの水はほぐし水になる
お前もう転校生じゃないからな俺が今から友達だから
オッサンとオッサンがぶつかりあってベイブレードかよ火花散らす
水泳の授業のあとは眠くなるきっと海から生まれたからだ
天皇や官僚の子でもなければ産まれた意味など元々ない
バイクの神に愛されて上手くなる気がしてハイオクを入れてみる
ペンを執る時間が増えて長火鉢夫も我を珍しがらぬ
手のひらに載せた埃を一息に吹けばたちまち火花に変わる
わが こゑは 天上に もえる ほのおの とどろきである とてもこわいぞ
睡(ねむ)るなと自分を叱るもむなしくアグニの神が帳を下ろす
淑(しゅく)として人魚になってゆく君の肩甲骨の鱗をなでる
脇役に感情移入してしまう君にスポットライトを当てる
女が花なら男は額縁私と永遠になりませんか
今だけは阿修羅になって腕全部使ってうちわ振りたい 暑い
ひまわりをひまわりと最初に呼んだ人の観察眼に乾杯
恋人と言っても他人できるなら抱き合ったままひとつになりたい
愛してるとか好きとかも言われずにこんなに愛を感じるなんて
あなたっていつもおもしろいこと言う直前みたいな顔してるのね
失礼にならないように慎重に選ぶばかりに何も言えない
爪とぎに座って椅子で爪をとぐ満足そうでヨシ! どうして……
漠然とよかっただけだった映画が今ちょっとした仕草でさえも
怠惰なだけなのになぜか夢を追う人と思われ応援されてる
永久に平和にならない世界で心にもないこと言って泣く
コマンドの上から四番目にあった『しぬ』が消えてて画面もカラー
スパゲティそうめんうどんカップ麺デンプシーロールみたいな献立
殴らなきゃわからんてのはただ単にあんたが殴りたいだけだろう
3000年 地上の毒も届かない所で口ずさまれるLemon
言い換えの達人になることこそが真の優しさと気づいたから
小説を書くとお金がなくなって万年筆がさらにきらめく
何一つ世界に働きかけようとしない怒りも恋も惧(おそ)れも
おかしいなあなたがぼやけて見えないな流れる汗と米のとぎ汁
まぶしいな椅子や机や珈琲を瓦礫に変えるその破壊力
変わらない思いに対し思い出す君の顔がぼんやりとして
過去形にすれば終わってしまうからわたしは今でもあなたがすきです
友愛を込めた意識を背後へと伸ばす姿が忘れられない
エンジンをかけて発進するときのまぶたをひらくその横顔よ
焼きつけたはずのあなたもおぼろげになってここはどこわたしはだれ
押入れの隅の女の痕跡を漁りブラック脳内会議
筆舌に尽くしがたい原風景思い出すのは何度目だろう
ささやかなことで幸せになれるわ 恋という字がころころ躍(は)ねる
いつくしむような涼しい流し目でほほえんだ日に僕は生まれた
なにもない私に意味をくれた人 初めて欲しいと思った人
来年も一緒にいるの前提で語らうひとつ心臓が鳴く
新品の革製品がこすれあうような渇いた心地よい声
もうあなた一人の体ではないのタバコをやめて野菜を食べて
いなくなるものと思って接してる顔見ても焦点が合わない
どろりと耳から流れる人肌に温められた気味悪い水
好きだけどアシダカグモはさわれないそんな感じであなたとは無理
この道を曲がるときだけ思い出す(都合のいい人みたいな)ポスト
会得した魔法がなまらないようにコンクリートへ炎を放つ
親父からもらったUSBが今世界を救う鍵になるとは
「そこの木の上にはいつも竜がいる。危険はないが」と御者は云った。
織姫と彦星の交換日記さよならは言わないでおこうよ
羽根を追う 肺も潰れよとばかりに脚の壊れるのも厭わずに
この場所が屍の上だとしたらなおさら生きなくっちゃいけない
シックスと声に出すのに抵抗があって「新作」などとごまかす
ミスしたら気持ちが沈みもしますがみなさんどうしてそんな強気で
職人の手と言えば聞こえはいいが夏は汗疱、冬は霜焼け
否定して手に入れた場所などいずれ否定されて失うだけだ
申し訳ないと思ってくれている君の犠牲になりたいからさ
ぞばぞばと血の池を進んだ先に鬼の屍体と棍棒ひとつ
用はないけど立ち寄ってしまう店 猫が陽(ひ)に目を細めてるから
あまりにも理不尽な目にあったから君は幼いフリをしている
敬語っつう概念がないアイツのが愛されるのはなんでなんだよ
スーパーのヘンテコな歌を口ずさむ息子の姿に安心などする
羽化をした蝉がすぐさま羽化をしてまた羽化をするような不気味さ
「推し」という言葉に懐疑的である"推し変"されたものどもを見よ
おれのことすきならおれがしあわせになるの応援して ね ばいばい
願いごとがあるわけではないけれど来る日も星と月を見ている
アイテムと呼ぶかどうかでその店の格式高いかどうかがわかる
マイナーなジャンルならば輝けると思っていたがとんでもないな
才能はない だからこそ師と慕う勉強をする継続をする
もう少し早く本気になれてたら原石にでもなれただろうか
恵まれた環境にいる自覚ない天才をこの手で始末する
化粧乗り良いと寄り道したくなる 落ち葉が舞って私を祝う
君の手が触れた掌がいまだにさらさら熱を奪いつづける
君は言う寺はお願いする場所じゃなくて感謝をする所なの
せっかくの卵を青大将が奪(と)る早起きは三文の徳なり
連れてって気づいてそして道ばたに捨ててくださいわたしのことを
難産を撫でられてまた腹が冷えないように片手を載せて寝る
何の鳥なのかちっともわからないけど撫でつづけてる赤い羽根
「何か釣れましたか」子どもに尋(き)かれれば持たせぬわけにゆかぬ夕暮れ
とりあえず泣けば相手がひるむので俳優にでもなるとするかな
犯人は小説家だが近年の物書きは皆ペンだこがない!
その肉体(からだ)さぞや名のある将と見た! 群雄割拠やあ我こそは
伝えたいことはひとつにまとめろと頭の中のスティーブ・ジョブズ
ぼくがまだニンゲンだったころのこときみはゆるしてくれないだろう
今日こそはあなたの理性を吹き飛ばす そう思いつつメイクしたから
エイプリルフールとかガチくだらねーのになんで廃れないんだろな
テキトーに作った歌が通ぶった人に絶賛されて引きつる
まるっきり無駄ではないと思いたいサイクルマシン一時間半
贅沢をしたいとまでは言わないが野菜をためらいなく買わせて
期待してしまういつもの「19時で解散しましょう」を言わないから
ルパンとは概念であり憧れた瞳が次の怪盗になる
大切にしたい気持ちと約束を破りたい気持ちが殴り合う
50%を引けなかっただけあんたは悪くないよ 泣くなよ
「可愛いは正義」を言える程度にはあんたは可愛い だからおやすみ
抱き合ったままで氷漬けになって百万年後尊ばれよう
画数が多くて少し読みづらい話題をくれる愛しい苗字
人間の脂の溶けた湯面(ゆおもて)が退屈そうにだぶだぶ揺れる
永遠に守らんとするものは愚と世間智と美徳とを歩いて
永遠に超えんとするものは風や彼岸や脳髄の上を歩いて
雪虫のあの日私を狂わせた香水の名を今も探せり
甲冑を着ながら三時間かけてねり歩く信玄公祭り
オリーヴオイルの中蓋を取る時少し気分が悪くなります
お別れの話が増えてゆくPCハピエン厨じゃなかったっけな
信じたい心を利用されかけてゴミも燃えれば少しは綺麗
人生を逆転させる近道を探して遠回りをしている
腹と背の皮がくっつきそうなので無事故祈願のおまもりを食う
十八に誰かに貰われる準備済ましてた人、やっぱりすごい
しぐれるキスこんな時も大丈夫わたしはいつもそばに、N.(エヌドット)
里芋と大根が名乗りをあげて互いの柔らかさを競いたり
試されし大地の鴉 徒(いたずら)にアスパラガスを折りてゆきたり
あきらめて居直るごとく笑う間(ま)に可愛い子には男ができる
苦しみが脳になみなみ満ちる夜 今も背中をさするシオラン
あたたかい布団に包まれ冬の夜、波音を聞く『星海の家』
今までに一体どんな目にあえばそんなかなしい背中になるの
鮮やかな黄色の帽子の人形が癒しの音色と共に回る
もう嘘と言われてもいいイケオジがふたり仲良くパフェを食ってる
詩は対話でありながら孤独であるすなわち海辺のボトルメール
あなたには絵本は必要なかったね想像を聞かせてくれたから
君がそう思ったのならきっとそうなのだろう置きざりのキャスター
忘れ去るべきもののただのひとつも持たぬ平凡で仕合わせな蟹
シミにキスを落としてからというもの化粧が薄くなっていとしい
数年後たまたますれ違った時鼻を明かしてやるから見てろ
いいじゃんか松尾芭蕉も実際に蛙の音を聞いたか知らん
"しあわせ"を"しやわせ"と言う悪くない違和が記憶の片隅にある
何かへの熱が社会で実をつけず何やかやあり側溝の中
辺境の奇妙な摂理六十になると突然消える老人
音楽に明るかったならあなたの気持ち少しはわかったのかな
初めてのコスメコーナー悔しくてまごついたあの日を思い出せ
手間ひまをかけたごはんがおいしくて今日は私も最強である
自分でも薄々気づいてることを物申されてナタデココになる
生活は略奪で保たれている唐揚げから飛び出た血管
そこここに漂っている神様にお願いするような「気をつけて」
もう少しいい人がいると思えばだんだん消えてゆく愛おしさ
まだコキア赤くなっていないけれどあんま そう 主役はきみだから
このままで寝たら確実に風邪引くくらい寒くて一枚増やす
物を買うそのたび毎に維持管理する責任が生じてボカン
=(イコール)が嫌い 平行というのは衰退だから終わりにしよう
実家からもらった餅とヤクルトと干ししいたけで作ったおうち
メリークリスマスと言ったその口が同僚への怒りに歪めり
積雪に憂鬱になる傍らで目を輝かす犬たくましき
年末は短歌を読んで薄暗い気持ちになって年始に会おう
猛暑にて寢つかれぬ時からころと冰をひとつなめて寢るらむ
空腹に耐へられぬ時食ふ用のレトルトカレーばかり減りゆく
すれちがふ二酸化炭素の一々にハイタッチしゐるコノテガシワ
来客にあつさり心を乗りかへる猫よおまへはだから愛しひ
前人も屢々云ひ及んでゐる盛名を求めてはならぬと
吾輩が膝へ乗るのは温(あたたか)いからである勘違ひせぬやう
立てきつた障子(しょうじ)に日の光が差して老木の梅の影が揺れゐる
消息をしたためてゐる翁かな時折枯れた咳の聞こえる
端然と膝を重ねたままぢつと三國志など読みて候
復讐は復讐と伝説を生むそして巷に勇気を与へる
世の中のすべてが急に本来の下等さを露(あらは)すやうだつた
手を繋ぐことは煩悩であらうか? 目を合はせてもくれない画竜
恐らくは我らが恋もこの掟ばかりは逃れられまいといふ
憂鬱な微笑を浮かべ椅子を指しこの話を繰り返すであらう
創作の苦しみにずつと前から親しんでゐる文房具たち
巌畳(がんじょう)にできた腰かけの中にも多少のマリアを感じるであらう
いとかはゆし鏡のおのれに惹かれ芸を見せつつ禿げゐる鴉
短歌集2023 籔田 枕 @YabutaMakura
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