廃墟のレジャー施設
「よくあるだろう、子供の時、冒険心からか肝試しをしてみようと思うのは」
そう言うのは会社の同僚だった。そして酒に酔ったのか沸々と上機嫌に話し始めた
俺は中学になって初めてクラスというものを体験した。
ドラマや、アニメなどで教科書等忘れたら、隣のクラスに借りに行く事を見知っていたものの、
小学校は全学年1クラスしかなく、学年が異なる為、教科書なんて借りれる訳はない
そんな片田舎で育ち、そして中学生になった時、俺は初めてクラスというものを体験した。
中学校は辺り小学校生徒を一まとめに集約したようなもので、
6校ほどから集めた結果、1学年、30名の4クラスが出来た。
そして幅広く集めているから中学校に集まる生徒の端と端は最大で10キロ程離れており、
友達の家に遊びに行く為に行動範囲も広がった。
移動方法は自転車である。
俺は中学生になって部活もしていて、そして友達も居た。
それは夏休みの始めの頃、部活が午前だけあり午後が休みの日だった。
部活動の帰り際、夏が近かった為か、ふと肝試しの話題になり、
その時会話に加わっていた俺を含め計5人で午後から肝試しをする流れになった
肝試しのスポットは国道に接するレジャー施設の廃墟
その施設は今はもう取り壊され、更地になっており、当時、ネット等は家々になかったので、詳しくは知らないが、
当時の俺の知っている限りでは心霊現象などの怖い噂等は無く、唯の廃墟だからという感じで決まった。
そのレジャー施設がある事は市街に買い物に行く為、親が運転する車から見ていた。
そしていつの間に閉まっていた
このレジャー施設が閉まっている事を気づいた時は、子供ながらに「閉まったんだ」と思った。
そんな当時、何年か前に経営を停止した施設、
数年しか経っていないにも関わず、今思えばかなり劣化、風化しており、積年を経た見事な廃墟になっていた
俺達5人は誰も欠ける事無く、レジャー施設の隣にあったマンションの駐車場で集合した。
そして全員が集まるとそのマンションの駐車場から地続きに繋がるレジャー施設へと向かった。
途中境界線にボロボロで錆びたフェンスがあった、工事現場などにある黄色と黒の縞々があるフェンス。
長年放置されているらしく、雨風でボロボロになっており、入ってはいけないのだとは伝えてはいたもの俺達には全く効果はなかった。
俺たちはフェンスの隙間をぬってレジャー施設の区域に入っていった。
そのレジャー施設の周りは自分たちの身の丈程の雑草が至る所で伸びていた、そして中から国道側、つまり外側が全く見えず
同じく外からも内側にいる俺達を隠していた。
昼間ながらも全員誰かに見つかるなんてそんな心配を覆い隠しているようだった
俺たちはフェンスを越えるとレジャー施設の駐車場に出た。
アスファルト製の駐車場は所々、舗装が剥がれたり、ヒビ割れていた。
その隙間から自分たちの背丈ほどの雑草が高く良く伸びている。
たった数年、人の手が入らないだけで、かなりの荒れようだった。
その時の俺たちは昼間という事もあり、肝試しというより、感覚的には探検に近かったと思う。
そのレジャー施設は、様々な施設を内包する本店が一つと外に二つの円柱型の建物の計3つで一つのレジャー施設になっていた。
本店の方はかなり頑丈に扉が施錠されており、外から見てもかなりのボロボロだったので
全員で危ないから入るのを止めて、二つの円柱型の建物に向かう流れになった。
全員が法を犯している事を知っていたのか、その時の全員、住居不法侵入という言葉を知っていたので、
その罪で捕まりたくなかったため、会話などはほぼなく、全員、ひっそりとしていた。
俺たちは近いほうの円柱型の建物に向かった。
円柱状の建物に沿うように、コンクリ製の屋根軒と野ざらしの舗装されたレンガの廊下、
そして、円柱に沿った建物に張り付くように設置されている金属製のドア
俺たちはその円柱の淵に沿うように一列で建物の陰に入る。俺は一番後ろだった。
前のやつがドアを開ける。カギはかかってないようだ。そしてつらつらと後続が続いて開いたドアの手前から顔をのぞかせる。
中は薄暗かった、日は傾き、夕方に差し掛かっていた。
先頭にいたやつが懐中電灯で中を照らす、
ぼろぼろになったソファーと、1mぐらいの大型の縦長の長方形の黒い箱とモニター、
ばらばらにほつれたかなり太めの雑誌、様々な種類のゴミ、
一目見て分かった。この部屋はカラオケルームだった。
全員特に何も言うことなく、次の扉に向かい、ドアを開ける。ここも同じくカラオケルームだった。
そして三つ目の部屋で先頭が中に入ったので皆、連ねて入った。皆あたりを物色する。
俺はボロボロになったカラオケの選曲表をめくる。演歌とか、童謡とか、ひと昔前に流行った、青年隊?とか、
その時代の歌が多かったような気がした。
その時の俺はあまり曲に詳しくなかったが、最近の歌はあまりない感じがした。
そして、特に会話とかはなく、一つ目の円柱の建物のすべてのドアを開いて確認すると、二つ目の円柱の建物に向かった。
一つ目の円柱の建物の部屋、全てがカラオケルームだった。
そして二つ目の建物のドアを開ける。それもカラオケルームだった。
周囲が興ざめの雰囲気に包まれる。はじめは怖さとワクワクに満ちていた。皆口には出さないが、内心テンションは上がっていたのだと思う
しかし、二つの目の建物に差し掛かった時点で、もうドアの中を見るのが形式的な義務になっていた。
つまらないなぁ、と、誰も何も言わないが、そう言っているのが分かった。
次のドアを開け、俺以外の4人が中に入っていく。俺は中に入らず外から部屋の中を見ていた。中の全員つまんなそうに物色をする。
すると
ガシャン!
という音が聞こえた。俺は音のする方を見た。部屋の中から友人が続々と出てくる
「どうした?」
「何の音?」
「何、何」
と出てき次第、各々が言葉を吐く、俺は音がした方を見て事実を告げる。
「ドアが勝手に空いた」
俺は確かに覚えていた。先ほどまで進む先にあんな黒い長方形の壁なんて無いことを、
特に怖さとかは無く、事実を伝えることにした。
「はぁ?」と一人が言ったが、それ以上は何も言わなかった。それよりも皆、開いたドアの方に興味津々だった
そして4人がそろって歩き出す。俺は少しだけ遅れてそのドアの元へ向かった。
そのドアは先ほど物色していた扉から二つ先の扉だった。そして俺が一つ隣のドアに差し掛かった瞬間に、先頭の歩いていた二人が
「わあ!!」声を出し、俺の傍を横切って走り去っていく。いや、逃げていった。それほど必死の形相で慌てふためいた。
俺は逃げ去る二人を目で追った。二人はそそくさをフェンスを潜り、伸びた雑草の先に消えていった。
「えっ?」と一声が聞こえた。
俺は再び前を向く
声をだしたであろうそいつも俺の傍を駆け足気味で横切ると逃げた二人を追うように同じルート辿っていった。
「まじかよ」
一人がそう言い、扉の前で中を見て立ち止まっていた。
俺はようやくたどり着くと中を見た。
懐中電灯などは必要なく、部屋の中を西日が差し照らしていた。
骨だ。かなりの大型の獣の白骨死体がカラオケルームの中心で横たわっていた。
頭蓋骨は中学校の俺の頭ぐらいあった。
匂いなどは全くなかった。
整っており、骨格だけで大型の獣だとわかるほどだった
「何の骨だろうな」
そいつが聞いてくる。俺はその時、家で飼っていたラブラドルレトリバーを思い出す
「大型犬じゃないかな」
そうはいった手前、目の前の骨は明らかに家のラブラドルレトリバーよりも一回り程大きかった。
ライオンのメスを髣髴とさせる。
「うへぇ」
とそいつはわざとらしくいい、「行こうぜ」と俺に声をかけた。
それよりも俺はある事に疑問が沸いていた。
「どうしたんだ?」
そいつが部屋の中を見ている俺の横から声をかける。
「この扉、勝手に空いたんだよ、で、これって手前に引くタイプで、金属製じゃん」
「ん?それがどうしたんだよ」
「俺さ、はじめ、風かなと思ったんだよ、開いた原因って」
「ん?」
「でもさ、この部屋の中を見る限り、窓が全くないんだよ」
その瞬間、残った一人は中をもう一度見ると口をきつく結んで閉じ、そそくさと去っていた。
俺はもう一度、中を見る。
建物の内側に掘られたように作られたカラオケルーム、その部屋の中に窓なんて一つもなかった。
怖いと思わなかったんですか
あぁ、なんかわかんないけど、怖くは無かったな。想像に乏しかったのかな、
骨を見た時も第一印象も大型の獣の骨があるってだけでそれだけだったし、扉が勝手に開いた時も、勝手に開いたってだけだったし
部屋の中に窓がなかった時も、どうやって開いたんだろうって考えて、そして考えながら外に出たし、
ほかの人は?
あぁ、外で俺を待っていたよ、そんで駐車場で突っ込まれたよ、「なんで歩いてんだ!!」って、
それで各々「やべぇ、呪われるかな」、「お祓いいった方がいいかな」、「清めの塩」とか言ってたな
それで何か実際に起こったりは
いや、何もないよ、全員、無事で、一か月後にはみんなで集まってカードゲームとかしていた
そして目の前の人物は酒を煽った。
「人生、一度や二度ぐらいは不思議な経験をするらしい、確かにあれは本当に不思議だった。だってやっぱり窓がないのに扉が勝手に開くなんて、一体何が扉を押したんだろうな」
そういって、頭を傾げていた。
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