第9話
「ちなみに」
みんなの視線に目を泳がせながら、おれは続ける。
「ウクライナ侵攻をするロシアに対してもその、経済制裁がされてはいるけど、抜け穴はあります。
例えばロシア産の天然ガスとか原油です。
ヨーロッパは今もロシアに依存したままです」
へーえ、また周囲から声があがる。
顔が熱くなる。
こんなに長時間、大勢の視線を浴びることなんてない。
「地球防衛隊には、国際連盟の何倍も多く国が加わりました。
で、日本もその内の一つです。そして——」
身を乗り出した。
「地球防衛隊に入ってない国も、軍隊とか兵器の攻撃を禁止する約束は守る必要があります。
でも、それだけ戦うことを禁止した流れがあるなか、世界各地で紛争は今も続いています」
いつの間にか、クラスの半数以上がおれを見ていた。
その中の一番後ろの目が、あっくんだ。
あっくんの優しい顔と対照的に、真ん中の席の高橋くんはずっとおれに温度の感じられない視線を送っている。
「そんな地球防衛隊での総会とか安保理で、世界平和に向けて話し合うんですが、おれは、総会も安保理もあまり意味がないと思ってて」
「言うじゃん」
茶髪男子がおれを見る。「なんで?」
「安保理は、常任理事国っていうレギュラーメンバー全員が賛成しないと効果を発揮しないからです。
一つの国でも、拒否権——反対すれば、その話し合いは無効になってしまうんです」
「成田くーん」
スポーツ刈り男子が挙手する。
「拒否権なくすのはどうですかぁ?」
「おれもそう思いました」
おれは頷いた。
当たり前のことだけど、やっぱり同じ考えの人がいると嬉しい。
「でも、拒否権があるからこそ、その場がおだやかな場でいられるんだと思います。
多数決制だったら、反対意見の国が怒って、下手したら戦争に発展する可能性もあると思います」
ふーん、へー、数人が頷いてくれた。
「地球防衛隊の総会は多数決制だけど、あくまで注意するだけで、絶対に従わなきゃいけない訳じゃないんです」
前にいるボブカットの女子がうんうん、と頭を上下してくれた。
「結局、ロシアがウクライナ侵攻をした時も、すぐに総会で、国連憲章に違反する、って話し合われたんですけど……」
はっとした。
その場のほぼ全員がおれを見ていた。
イヤフォンをつけた人もその眼はおれを見ていた。
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