第8話

「——その、ウィルソン大統領の14カ条の原則のなかに、

世界平和を目指す、地球防衛隊の祖先が生まれるきっかけになったものもありました」

 おれは続ける。


「えっと?」、「地球防衛隊の祖先って、国際連盟のことかな」

「あっ、そうです、国際連盟」

おれは頷いた。


 一人、また一人とイヤフォンを外す人が増えていく。


「その国際連盟の反省を活かして、地球防衛隊は設立されたんです。

国際連盟は世界平和をうたっていたのに、第二次世界大戦を防げなかったからです」

後ろのセミロングの女子も頷いてくれる。


「話は地球防衛隊の祖先——国際連盟に戻ります。

国際連盟ができた後には、今後は戦争をしない、っていう約束ができました」

「フランスとアメリカのパリ不戦条約な」

ウェーブ髪の男子がこっちを指さした。おれはお礼を言う。

「でも、そのパリ不戦条約には問題点がありました。

まず、戦争開始の合図がされた戦争だけを禁止するもので、

あとは、軍隊とか兵器の攻撃は禁止していなかったんです。

だから戦後にできた、地球防衛隊のルールで……」

「せーの、国連の、国連憲章」

 今度は後ろの席の女子三人が声を合わせた。ありがとうございます、おれが頭を下げると、三人は同時に親指を突き出した。にっこり笑ってくれる。

「——国連憲章で、戦争を禁止する——つまり、軍隊とか兵器の攻撃を禁止しました」

「武力不行使原則だ」

ボブカットの女子が微笑んだ。おれも笑って頷く。


「そして地球防衛隊には安保理という選抜チームがあって。

国連憲章では、安保理でゴーサインが出れば、軍隊や兵器の攻撃を認めています。

例えば、湾岸戦争。

これはイラクがクウェートに侵攻した時、安保理で話し合って、各国がイラクを攻撃した戦争です。

つまり、安保理はたくさんの死傷者を出す未来を決める組織でもあります」


息を吐いた。

後ろのあっくんを見る。

ずっとこっちを見てくれている。


「でも、安保理では軍隊とか兵器以外の攻撃方法も決定します」

「具体的には?」

眼鏡をかけた男子が眼鏡を押し上げた。

「経済制裁です。

貿易の取り引きとかお金を送ることを中止して、経済的に困らせるやり方です。

でもこの方法にもデメリットが……」

「デメリット?」

眼鏡の男子がまた聞いてくれる。おれは頭を搔いた。

「おれ個人の意見だけど、結局、困るのは国の方針を決めてる上の人達より、国民だと思うんです」

ふーん、周囲から声が上がる。


どんどん視線が集まっているような気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る