第38話 魔導具作り


 毒を以て毒を制すというか。盗人のばんには盗人を使えというか。毒という概念を使うことによって毒を探知できるようにするというか。


 詳しい理屈は置いておくとして。『毒』という概念が強ければ強いほどより多くの毒を探知できる魔導具になるのだ。


 そして、この国において辰砂――水銀は毒物の皇帝と呼べる存在だ。なにせ大陸をはじめて統一した始皇帝の健康を蝕み、それ以降も多くの皇帝や貴族の命を奪ってきたのだから。我が国において水銀ほど『強い』概念を持つ毒は存在しない。


 というわけで。

 後宮には設備や素材がないので、そのまま実家で毒検知の魔導具作りを開始した私である。


「え~っと、まずは辰砂。金剛石の結晶に、毒蛇の牙。熊の胆嚢と、一角獣の角……」


 素材をすり潰したり煮込んだりして大本を作り、あとは私の血と神力を混ぜていく。


「――天皇天帝陛下に願い奉る」


 呪文を唱えながら血を一滴垂らし、神力を込めながら鍋をかき混ぜれば――完成だ。


 見た目は欧羅の『ワイン』を思わせる赤い液体。


 しかし、匙で掬って机の上に垂らすと――液体であったそれは自然と球体となり、固まった。


 匙で叩いてみると、軽い音が響く。少なくとも液体に匙を入れた音ではない。


 試しに身近で手に入る毒――水仙をすり潰した液体に近づけてみると、球体は蛍のように点滅し始めた。このくらいなら所有者の神力もほとんど消費しないはずだ。毒の浄化までするとなると利用できる人間も限られちゃうけどね。


「よし、成功っと」


 一応『鑑定眼アプレイゼル』で鑑定。……うん、問題なく作動しそうね。あとは装飾品を作る職人に指輪部分を作ってもらえばよしと。


 それは知り合いの職人に発注するとして――いや、皇帝である梓宸や、上級妃である瑾曦様や雪花が使うなら装飾の格式とかあるのかしら?


 ちょっと分からないので一旦後宮に戻り、誰かに確認してから発注しましょうか。


 作った大本の液体を匙で掬って、球体にして、掬って、球体にして……。すべてを球体にしてから空間収納ストレージにしまい込み、後宮へ転移。


 さてこういうのは瑾曦様に尋ねるべきか、あるいは張さんに頼めばいいのかしらと悩んでいると、ちょうどよく瑾曦様がやって来た。


「凜風ー、いるかい?」


「瑾曦様。どうしました?」


「皇帝陛下というか、張の爺さんからの呼び出しだ。事件調査のために外廷へ来て欲しいそうだよ」


「……いや、また侍女みたいなことをやっているんですか瑾曦様?」


「あはは、妃よりこっちの方が性に合っているね。凜風の侍女でもやってみるかな?」


「冗談でも止してくださいよぉ……」



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