第39話 答え?


 瑾曦様の案内で外廷に到着すると、梓宸ズーチェンや孫武さん、ウェイさんに張さんが待ち構えていた。


「よくぞお越しくださいました凜風様。早速ですが妃毒殺未遂事件についての今までの調査結果を――」


 あのあとも調査を続けていたらしく、張さんは色々な報告をしてくれた。


「宮廷内の全ての厨房を調べさせましたが、水仙らしきものは見つかりませんでした」


 全てって。宮廷はただでさえ広いうえ、皇帝や貴族の食事を作る厨房と官僚たちのための厨房は別になっているはず。万単位の人間の食事を作る厨房全てを調査とか、凄いことになっているのね……。


「納入された野蒜ノビルの中に水仙が混入していたかどうかは、これ以上調査のしようがありませんな」


 それはそうよね。一つだけ偶然混じっていただけかもしれないのだから。


「料理人の背景を調査しましたが、特に怪しい点はありませんでした。嫌がらせなどの目的で水仙を混ぜる可能性はありますが……自分が疑われるのは分かっているのですし、おそらくはないでしょう」


 いやぁ、今回はともかく、愉快犯とか精神的に不安定になってという可能性もあるんだけどね――いや、ややこしくなるから黙っていましょうか。


「やはり可能性が高いのは配膳をした侍女でしょうか。あの侍女は長年宮廷で働いていますが、皇帝のお手つきもなく、そろそろ年齢的にも厳しくなってきたところ。嫉妬に狂って妃の誰でもいいから――という可能性は十分にあります」


 え? 年齢的に厳しいの? まだあんな若くて綺麗なのに? それだったら結婚適齢期を過ぎちゃった私なんて完全に選外じゃない? いや別に選外になることを恐れているわけじゃないけどね? 私が駄目じゃないのにあの侍女さんが駄目というのは筋が通らないというか許せないというか……。


「もう梓宸が抱いてやればいいんじゃない? 四人も五人も変わらないでしょう?」


「真顔でなんてことを言うんだ凜風……」


 なぜか梓宸に眉をひそめられてしまった。あの腰軽浮気下半身野郎に。ムカつくから潰して・・・やろうかしら?


「ひっ」


 長年の経験から何かを察したのか内股になる梓宸だった。


 まぁ、情けない皇帝はどうでもよくて。今重要なのは疑われている侍女さんだ。


「無実の人間を犯人扱いするのは、可哀想だと思いますよ?」


「……無実、ですか?」


「えぇ。たしかにあの侍女は梓宸を狙っていますし、妃に嫉妬していますし、いつか自分が成り代わってやると野望を抱いていますが……。だからこそ、毒を混ぜるなんてことはしませんよ。だってそんなことをしたら罰せられて自分が妃になれない・・・・・・・・・じゃないですか」


「……犯人ではないと視た・・と。ではお尋ねしますが、この事件の犯人は誰なのでしょう?」


 真剣な目を向けてくる張さん。さすが三代も皇帝に仕えてきただけあって全てを見抜きそうな目をしている。


 そんな彼に対して、私はあっけらかんと答えた。


「犯人なんていませんよ。偶然。偶然水仙スイセンが混じってしまっただけです」





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