第21話 毒殺未遂事件
そう歩かないうちに医務室へと到着。
すでに解毒の処置は終わっていたので、
「この侍女はもう大丈夫なのですかな?」
「えぇ。毒は全て取り除きましたので、命の危険はありません。念のため数日休息させた方がいいでしょう」
「……それは難しいかもしれませんな。この侍女は忠義に厚いことで有名でしたので。止めたところですぐ雪花様の元に戻ってしまうでしょう」
「ははぁ、そんなものですか」
張さんはもう引退しているし、引退前も宰相という偉い地位にいた人だ。一介の侍女について知る機会なんて普通はないはず。いや妃の侍女なんだから普通よりは目立つかもしれないけど……それにしたって限度はある。そんな張さんまで知っているって、この侍女、どれほど目立っていたのやら。
「……凜風様。少し真面目な話をしたいので、場所を移してもよろしいでしょうか?」
「ここでは盗み聞きをされると?」
「そこまでは言いませんが……医務室という場所柄、いつ誰がやって来るか分かりませんからな。もう少し人通りのない場所に移動できればと」
「まぁ、そういうことなら」
私も一応あの現場にいたのだし、取り調べも受けなきゃいけないか。そう判断した私は医官に侍女を任せて張さんに付いていったのだった。
◇
宰相が執務をするという部屋には梓宸の他、張さんの孫で現役宰相である
「凜風。あの侍女の容態はどうだった?」
ちょっと不安そうに尋ねてくる梓宸。皇帝陛下が一介の侍女の心配をするとは器の大きいことで。
……いや、『一介の侍女』じゃない可能性もあったりして? なにせ彼女は妃である雪花様の侍女。
「なんだか俺の名誉が著しく毀損されている気が?」
「気のせいね」
口約束浮気子作り野郎に毀損されるような名誉はないし。
「あの侍女さんだけど、毒物は除去できたので死ぬことはないわ。あとは念のため数日安静にしておけば……」
「あー、それは無理だろうな」
皇帝陛下にまでこんな反応をされるとは。どれだけ有名なのかしらねあの侍女は。もしかして雪花様の毒味役も自ら希望してやっているとか?
と、現役宰相である維さんが一歩前に出た。
「凜風様。まずはお礼を言わせていただきたい。陛下が自ら歓待する宴で毒殺騒ぎが起きようものなら、陛下の権威が失墜するところでした」
歓待相手が出自も怪しい神仙術士なんですから……という理屈じゃないんでしょうね。『賓客のいる宴で毒殺事件を防げなかった皇帝』として、反対貴族が利用するってところかしら?
「いえ、お気になさらず。あの状況で助けないという選択肢はありませんし」
というか初対面であんな敵意剥き出しだった維さんから感謝されるとムズかゆいというか。なんだか居心地が悪いのでそろそろ帰ってもいいですか?
そんな私のささやかな願いは叶わないようで。
「凜風様。これは妃暗殺未遂事件です。調査にご協力をお願いしたい」
「あー、はいはい。私のことをお疑いで?」
なにせ端から見たら私は『嫉妬に狂って妃を毒殺してもおかしくはない』立場だものね。いや実際は『なんで梓宸のために人殺しにならなきゃならんのか』って感じだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます