第20話 妃たちとの宴・6
羽毛のように軽い私の蹴りを受けた梓宸は大げさに吹き飛んだけど、きっと大丈夫でしょう。「凜風の愛が重いぜ!」と寝言をほざいているし。
というわけで、毒を食べたであろう侍女の診断開始。千里眼で状態を確認する。
…………。
あら、あら。これはこれは。どうしたものか……。
とりあえず、毒の種類は分かったので解毒開始。とはいえ嘔吐によって毒の大部分は体外に排出されたので慌てる必要はない。
あ、そうだ。この前買った本に新しい治療法が載っていたはず。
「あ、あの、凜風様……?」
恐る恐るといった様子で張さんが声を掛けてきたけど、今は解毒が優先だ。
ほうほう? 胃袋にある毒物を除去するだけではなく、すでに吸収されてしまった毒も浄化する魔術ねぇ……? どれどれ……。
「神よ。いと気高き我らが神よ。穢れし子羊を憐れに思うのならば、慈悲の光を賜らんことを。――
私は欧羅の『神』を信仰しているわけではない。自分でもたどたどしいなぁと思うし、韻を踏めたわけでもない。
だというのに呪文詠唱に従って周囲の『気』が集まり、光を発しながらゆっくりと渦巻いて――侍女の身体に吸い込まれ、消えた。
「おぉ! 顔色が良くなりましたぞ! さすがは凜風様ですな!」
ちょっと大げさな反応をする張さんだった。これはあれか? 私の『力』を他の妃たちに示そうとしていませんか? 私は別に寵愛戦争に参加するつもりはないんですけど……。
張さんの企みはともかくとして、今は患者が優先だ。千里眼で容態を確認して、と。……うん、大丈夫そうね。満足した私が侍女を横抱きにしながら立ち上がると、
「あ、あ、あなた! 皇帝陛下を足蹴にするなんて!」
わなわなと震えながら怒りの声を上げたのは藍妃・
ちなみに他の妃の反応はというと……翠妃・
そして私が横抱きにしている侍女の主、白妃・
いや、なんで? 今あなたの侍女が毒殺されかかっていましたよ? どうしてそんな場違いな反応ができるんです? いやまぁ侍女が回復したことは雪花様にも分かるでしょうけど……。
おっと、今重要なのは文句を付けてきた海藍様への対応か。とはいえ両手は侍女を抱えて塞がっているので、首を横に振る。そして――
「――とろい」
「はぁ!?」
「妃であるなら、皇帝が危険に近づく前に止めてみせなさい。それこそ命を賭けて。梓宸は阿呆ですが、我が国で一番偉い人なんですよ?」
「な、な、な……っ!?」
なんかもう海藍様は顔を真っ赤に染めすぎて今にも倒れそうだし、
「……いえ、凜風様はそんな偉い御方を蹴り飛ばしておりませんでしたかな?」
空気を読まない
「張さん。王宮なら医務室くらいあるでしょう? この子を連れて行くので案内してください」
「はぁ、それは構いませんが……凜風様がお連れするのですか? その細腕で? 運ぶのなら兵士に任せるという手もありますが」
「病人の運搬なら私の方が慣れているでしょうからね。それに体重くらいなら神仙術で軽くできますから」
「ははぁ、何とも便利なことで……。では、こちらへ。女官用の医務室がございますので」
張さんの後に続いて、私は侍女を抱き抱えながら医務室を目指したのだった。
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