第38話「子孫の能力」
「ふぅ……終わったか……」
オーガロードが綺麗に地中へと埋まると、ナギサはホッと息を吐いた。
だがまだやることはあり、オーガロードの図体と同じくらいの大きさの氷を生み出すと、粉々に砕いてしまう。
少し苦しい言い訳にはなるが、アメリアたちには砕ける氷魔法でオーガロードを倒したと説明しようと考えていた。
氷はかなり細かいものになっているため、話しているうちに溶けてしまうだろう。
「――んっ、終わったね……」
「はい、怪我人も出なくてよかっ……えっ?」
背後からした声に反射的に答えたナギサだが、聞き覚えのある声に思わず振り返る。
すると、そこにいたのは――氷の中へと閉じ込めたはずの、ミャーだった。
「ミャーさん……!? えっ、なんで……!?」
ナギサはすぐに、アメリアたちを閉じ込めた氷のほうを見る。
そこには、水のシールドを張った大型の氷がちゃんと残ったままだった。
相変わらずアメリアとフェンネルの声が中から聞こえてくるので、氷を一部壊して外へ脱出したというわけでもなさそうだ。
となれば、ミャーはナギサが不意打ちで発動した氷魔法から逃れ、今の今まで気配を消して隠れていたことになるが――。
(嘘でしょ!? 気配を消すのが得意な子だってことはわかってたけど、この距離で気付けなかったの……!?)
三人を氷の中へ閉じ込めたとはいえ、外から救援や応援が来る可能性は十分に考えられた。
何より、戦っている最中に例の組織が不意打ちで襲ってくる可能性だってあったのだ。
だからナギサは、周囲に十分気を配っていた。
それなのに、ミャーの気配には気付けなかったのだ。
(しかも、不意打ちであの魔法を避けられるなんて、ありえるの……!? いや、ミリアさんですら無理だろ……!?)
ナギサがそう頭の中で自問自答していると――
「私、勘がいいからね……」
――ミャーは少し得意げに、自身の頭を指でさしながら小首を傾げた。
(野生の勘か……!)
ナギサは膝から力が抜け、くずおれてしまう。
こんなの反則だ、と心底思っていた。
「気配に関しても……気にしなくていい……。私の先祖から……代々引き継がれる……能力だから……」
「…………」
ミャーがフォローを入れてきたことで、ナギサは国王から昔教わったことを思い出した。
始まりの英雄たちは、それぞれ普通の人間にはない特別な能力を保持しており、その能力は子孫に受け継がれてきた――と。
ナギサは始まりの英雄たちの子孫ではないが、過去にそういった特別な能力を保持した人間は存在した事実があるので、ナギサのことも何もおかしくはない――みたいなことを言われていたのだ。
現にナギサの母親も、ナギサと同じく全ての系統に適性があったのだから。
ちなみに、国王やアリスがどういう能力を持っているのかは、ナギサは知らない。
国王曰く、『知らないほうが良いことも、この世にはあるのだ』とのことだ。
「そのことって、皆さんご存じで……?」
「うぅん……知ってるのは……始まりの英雄たちの血を引く王家……もしくは、それに近しい者たちだけ……。私はともかく……シャーリーやリューヒ……アリスの能力は知られると……多くの人が……利用したがるから……」
だから意図的に、信頼できる者以外には隠してきたらしい。
「私に教えてよかったのですか……?」
内緒にしていることなら、自分にも話さないほうがよかったのではないか。
とナギサは他人事のように心配するが、ミャーはニコッとかわいらしく笑みを浮かべた。
「全属性への適性者……本当にいたとはね……」
「――っ」
まったく違う話をしていたことで、突然切り出された『ナギサが全属性の魔法を扱える』という話題に関して、ナギサは息を呑んでしまう。
隠れて見ていたのだから知られてはいたのだろうが、どうしてこのタイミングで切り出されたのかナギサは理解できない。
しかも先程の発言を踏まえるに、ミャーは全属性に適性がある人間が存在することを、知っている口ぶりだった。
「噂になっている……人物もいたけど……ほとんどの人は……全魔法を使えることを……信じていない……らしいね……」
ミャーはご機嫌そうに笑みを浮かべたまま、ナギサの顔を見つめてくる。
しかし、ナギサは気が気ではなかった。
ミャーの言う噂には当然ナギサも心当たりがあり、『お前、仮面の英雄だろ?』と言われている気がしたのだ。
なぜなら、その噂になっている人物というのが、仮面の英雄なのだから。
「あはは……たまにいるみたいですね……」
見られた以上誤魔化せないので、ナギサは全属性に適性があることはもう否定せずに、仮面の英雄と同一視されることを全力で避けることにした。
そうしなければ、男だということがバレてしまうのだ。
「……私がした話……振り返ってみるといい……」
「どういうことですか……?」
「……時間切れ……」
ミャーはそう言うと、突然落雷の魔法を放った。
それは、ナギサに――ではなく、粉々になった氷へと落ちる。
「何を……!?」
「匿ってあげる……。君は本当に……何も知らないみたいだけど……これも、縁……だから……」
ミャーがそう答えた直後、ナギサは複数の気配がこちらに向かってくるのを感じた。
時間切れというのは、そういうことらしい。
(この子、いったいどこまで気付いて……うぅん、知っているんだ……?)
ミャーとここ数日一緒にいるナギサだが、今ミャーが何を考えているのか全く読めないため、信じていいのかどうかわからなくなってしまうのだった。
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【あとがき】
他の作品では更新の際に書いたのですが、
数日前に退院しました(事後報告…!)
ちょっと体調戻っていないのと、
相変わらず仕事が忙しいので更新ペースは落ちたままですが、
落ち着き次第また更新頑張っていくのでよろしくお願い致します。
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