第29話「役者勢揃い(?)」
(――どうして、こうなった……?)
決闘場というお嬢様学園には相応しくない名前をした、コロシアムのような建物の中で、現在ナギサは戸惑っていた。
というのも――。
「まさか、入学式当日に決闘をする新入生がいようとはな」
「そもそも、今の時代決闘をする子なんていませんのに……。ましてや片方は、外部入学生であるナギサちゃんだなんて……」
ミャー、アリスだけではなく、リューヒとシャーリーまでもが観客席に座っているのだ。
その上――ミリアも、ナギサとアメリアの間に立っていた。
立会人をしてくれるのだろうが……図らずともお姫様四人が集結し、旧友までもがいる状況に、ナギサは胃が痛かった。
「アリス様、これはどういうことでしょうか……?」
ミャーやアリスと昼食をとった後、あれよあれよという間にこんな状況に追い込まれてしまったナギサは、引きつった笑みで観覧席に座っているアリスを見上げる。
「ごめんね、申請したらリューヒさんたちも見たいって言ったから」
この決闘場を使うには、生徒会長であるリューヒの許可が必要なことは、想像に難くない。
それによって興味を惹いてしまい、彼女たちも来たようだ。
「一応言っておくが、この学園において決闘とは、とても神聖な行いだ。二人とも、決して手を抜かぬよう頼むぞ?」
挙句、手を抜かないようにリューヒが釘を刺してきた。
それによりアメリアは嬉々として返事をしたが、ナギサは苦笑気味に返事をする。
(やっぱり、授業中にしてもらえばよかった……)
授業ではアリスが観戦できないということで、押し切られてしまったナギサだが――時間を戻せるのなら戻して、断固拒否したい気分だった。
それほどに、この状況を後悔している。
「私は、生徒にもしものことがないよう、止めるためにいるようなものです」
ミリアは聞かれる前に、自分がいることを教えてくれた。
自分が担当しているクラスの子たちが決闘するので、責任感で来ているのだろう。
今すぐ帰ってくれ、とナギサは心底思った。
「お忙しいのでは……?」
数日前に男がアリスを攫おうとしたことで、教員たちは表では普通にしていても、裏では大忙しのはずだ。
こんな学生の揉め事に首を突っ込んでいる暇は、ないはずなのだが。
「まぁ、暇と言えば嘘になりますが……中等部から上がってこられた子たちとは違い、サルバドールさんの実力は未知数ですからね。確かめる良い機会かと思いました」
要は、ナギサがどれだけやれるのかを知りたい、ということなのだろう。
幸いミリアがいるからか、姫君たちに隠れて付いていた護衛は今外れているようだが――よりにもよって、厄介なメンバーがここに勢揃いしている。
こんな状況で本気を出せば、間違いなく学校側に目を付けられることになるはずだ。
かといって、下手に手を抜こうものなら、目聡いリューヒやミリアに見破られてしまう。
めんどくさがりのミャーとは違い、彼女たちは間違いなくそこに言及してくるだろう。
そうなれば、どうして手を抜いたのか――と問い詰められることになり、余計に状況は悪化しそうだった。
ナギサは、この状況を作りだした元凶を再度見上げる。
「……♪」
元凶であるアリスは、ワクワクという感情を全身で表現しながら、決闘が始まるのを待っていた。
かわいい妹分の浮かれ具合に、ナギサは苦笑いを浮かべてしまう。
「姫様方が注目してくださるのは、好都合だわ。私の実力を、皆様に示すことができるのだから」
そんな中、決闘を申し込んできたアメリアは、高ぶる感情を抑えられないかのように、意志の強い瞳でナギサを見てきた。
彼女は剣を握っているため、ナギサと同じ魔法剣士なのだろう。
さすがに武器を持ち込むことは禁止されているので、学園側が貸してくれるやつのようだ。
ちなみにナギサも、学園に
「あなた、武器は?」
ナギサが何も持っていないので、アメリアは眉を細めながら聞いてくる。
「あっ、私は剣や弓が扱えませんので……」
「ふ~ん……魔法専門ってことは、よほど魔法の扱いに自信があるのね?」
「いえ、単純に武器の使い方を教わらなかっただけなので……」
ナギサはそう誤魔化す。
本当は、剣を持てば動きで間違いなくミリアにバレてしまうので、持つわけにはいかなかっただけだ。
「ふっ……その程度のレベルってことね。容赦しないけど、いいわよね?」
「まぁ、それでお気が済むのであれば……」
ナギサは苦笑しつつもコクリッと頷き、決闘の舞台へと上がる。
「この学園の医療設備や揃えられている薬は世界最高クラスなので、よほどの重傷でなければ完治します。そして当然、これ以上はまずいと思えば私が止めますので、お二人とも遠慮なく闘うように」
ミリアの説明により、アメリアはニヤッと笑みを浮かべる。
ナギサが戦い慣れていなくても、手加減をする気はないようだ。
「一つだけ、いいことを教えてあげる。あなたの魔法属性は氷みたいだけど、私も同じく氷属性よ。だから、属性相性ではなく、純粋にどちらが上かで勝敗は決するわ」
ナギサに負けるとは微塵も思っていないアメリアは、自信満々な態度で切っ先を向けてくる。
「そうですか……」
片やナギサは緊張した様子を見せるが、心の中では好機だと捉えていた。
アメリアは、ハイエストの両翼と謂われている貴族の家柄であり、本人も腕に自信がある態度なので、かなりの実力を誇ると思われる。
ましてや、戦略や闘い方、駆け引きもきちんと教わっているはずなので、接戦を演じて負ければリューヒやミリアは疑わないだろう。
そして、わずかにアメリアに及ばなかったと演じるなら、下手に相性の良し悪しがあるよりも、同じ系統のほうが調整がしやすいのだ。
――と、ナギサは考えていたのだが……。
「――先手必勝!! 瞬殺してあげるわ!!」
開始の合図が掛かると、アメリアは馬鹿正直に、真正面からナギサに突っ込んできたのだった。
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