仮面の英雄、お嬢様学園で姫君を護衛します
ネコクロ【書籍7シリーズ発売中!!】
第1話「潜入先はお嬢様学園」
「――はい? 聞き間違えでしょうか?」
急用とのことで呼び出しを喰らったナギサは、思わず尋ね返してしまった。
そんなナギサを、呼び出した張本人――国王は、重々しい雰囲気を放ちながら睨むようにナギサのことを見つめている。
現在王室にいるのは二人だけだが、傍から見ればいったい何が行われているのだろう――と疑問を抱くような雰囲気が、国王の室内を覆っていた。
ナギサはそんな雰囲気の中、もう一度口を開く。
「いえ、黙りこんで誤魔化さずに、もう一度おっしゃって頂けませんか? 任務の場所、いったい何処だっておっしゃられました?」
「お嬢様学園じゃ」
重々しい雰囲気を発しながらも、ふざけているのかと尋ねたくなることを抜かす国王。
ナギサは頭が痛くなるのを感じながら、再度国王を見た。
「ふさげてますか?」
「まじめじゃ」
確かに、国王の雰囲気からふざけているようには見えない。
だけど、ナギサは知っていた。
この人は、ノリで無茶ぶりをしてくる人だと。
「無茶言わないでくださいよ!? 僕男ですよ!? それに、歳も24ですよ!?」
耐えきれなかったナギサは、ついにツッコミを入れてしまう。
お嬢様学園とは、その名の通りお嬢様が通う学園であり、つまりは女の子が通う学校だ。
そして、この世にお嬢様学園と呼ばれるのは、一つしかなく――各国の権力者たちの娘が通う、世界一の学校でもある。
そんな場所に、男の侵入が許されるはずもなく、バレた際には侵入者の命が奪われることはもちろんのこと、国の信用問題にもなってしまう。
そのようなとんでもないリスクを負ってまで、国王はナギサに侵入するように言っているのだ。
「安心せい、お主は中世的な顔立ちの上、童顔じゃ。誰も疑いはせぬ」
「いやいやいやいや! バレますって! 絶対にバレます!」
見た目が女性寄りであり、年齢に見合わない童顔とはいえ、今までナギサは男の冒険者として生きてきた。
当然、お嬢様の仕草など知らないどころか、女の子がどういうことをしたり、どういう話を好むのかも知らない。
潜入しても、早々にバレてしまうのがオチだろう。
「ふ~ん? 断わるのか? 国王である儂の頼みが、聞けぬと?」
ナギサが嫌がると、国王はわざとらしく意味深に話しかけてくる。
それはいわゆる、脅しというやつだった。
しかし、国王と旧知の仲であるナギサは、これくらいでは屈しない。
「当然です……! 僕の命どころか、国に甚大な被害を与えかねないのですよ……!?」
「ふ~ん、そっかそっか。行き場を失った幼き少年を、拾って育ててやったのは、どこの誰じゃったかなぁ?」
「――っ!?」
脅されてもひるまなかったナギサが、突然国王の持ち出した言葉を聞いて息を呑む。
そんなナギサを国王はニヤニヤと見つめながら、更に言葉を続けた。
「力がほしいと願う少年に、闘い方を教え、道具を用意して鍛えてやったのは、どこの誰じゃったかなぁ? 正体がバレずに活動したいという少年の願いを聞いて、耐久力最高の仮面を用意し、身分も偽らせ、時には隠蔽してやり、現在正体がバレないまま国の英雄とまで呼ばれるようになったのは、誰が手を尽くしてやったおかげかのぉ?」
(くっ、このじいさんは……!!)
ネチネチと言ってくる国王に対し、ナギサは心の中でそう漏らしながらも、凛とした態度で国王に頭を下げる。
「全て、陛下のおかげです」
「その儂の頼みが、聞けぬと?」
「…………」
ナギサは目を瞑って悩む。
本当なら、何がなんでも断りたいところではあるが、国王が何もなくこんなことを頼んでくるはずがない。
当然それ相応の理由があり、その理由を聞いてから判断しても良いのではないか、と考えを改め始めていた。
――そうしないと、一生ネチネチ言われるかもしれないから。
「まじめな話、頼れる者はお主しかおらぬのじゃ」
ナギサが聞く耳を持つようになったと国王は敏感に察したらしく、数秒前とは別人のように真剣な表情で彼を見つめていた。
「いったい、何が起きているのでしょうか?」
「単純な話じゃよ。我が孫、アリスが厄介な組織に狙われているという情報が入った。おそらくはあの学園に潜入し、権力者の娘たちをこぞって攫おうとしとるのじゃろう」
「――っ!?」
信じられない発言に、ナギサは目を丸くする。
常識的に考えればありえない。
お嬢様学園から生徒を攫うなど、全ての国を敵に回し、戦争をおっぱじめるようなものだ。
しかし――そんなことをしでかしかねない組織に、ナギサは心当たりがあった。
「もしかして……」
「あぁ、お主に因縁のある奴らじゃ。お主が呼ばれた理由がわかったじゃろ?」
敵が何かを理解すると、ナギサの中で押さえこんでいた復讐心が燃え上がる。
そんなナギサのことを見つめながら、国王は目を細めた。
国の英雄と呼ばれるようになった今でも、幼かった少年の闇は消えていないことを、見抜いているのだ。
「他に潜入できそうなものの中で、あの組織に太刀打ちできる者はおらん。じゃから、お主の出番というわけじゃ。既に新たな身分と入学手続きは済んでおる」
「確かに……そうかもしれませんね……」
あの組織との因縁を決着させるチャンスなら、ナギサにとって願ってもないことだった。
それに、アリスが狙われているというのに、無視をすることができるはずもない。
彼女は、初等部からお嬢様学園に通う国王の孫娘であり、今年高等部に上がるのだが――ナギサと一緒に育った仲であり、妹のようにかわいがっていたのだ。
ナギサが彼女と最後に会ったのは、彼女がまだ四歳だった頃なので、アリスはもうナギサのことを覚えていないとナギサは思っているが。
「絶対に、バレないんですね?」
「お主次第じゃ」
「ちょっと!?」
てっきりそこまで手を回してくれていると思ったナギサだが、どうやら国王は何もしていないらしい。
――というはずもなく。
「お主がヘマをしなければバレないとは思っておる。そして、お主はそのようなヘマをするような者でもない、ということもな」
「陛下……」
「とはいえ、バレないよう頼むぞ。バレたら国が終わるからの」
「陛下ぁあああああ!」
こうして、ナギサはお嬢様学園に潜入することになるのだった。
――この時のナギサは思いもしなかった。
なるべく目立たないようにしようと考えていたにもかかわらず、お嬢様学園きっての人気者たちに目を付けられることになるなど……。
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