第20話 紅生姜 後編
自由過ぎるだろ。
「ちょっと男子〜」とかいうレベルじゃないぞこれ。
女子男子、先輩後輩、関係なしに、みんな好きな時に働き、好きな時にだべり、菓子を口に運び、歌詞を口に嗜み、そして寝る。
ヘッドホン先輩は、原案、下書きという重要な仕事を終えると何度か妨害はあったものの基本、部室の床で膝を抱えていた。
作業をしているバルコニーに出てきたと思ったら、
「空きれー」
スマホで沈みかけの夕陽を撮影していた。
猫かよ。
「今だシャッターチャンス」
居候先輩はその様子を盗撮していた。
飼い主かよ。
「えっヘッドホンにいちゃんいんの!?」
「いるけど…」
「写真見せて!!」
「は、なんで」
「絶対カッコいいじゃん」
「…ありがと」
わっかりやすっっ。
「日焼け止めって顔に塗っていいの?」
「逆に塗っちゃダメなことあります?」
「あ、待って今日髭剃ってない!!見ないでっ」
「なんでそんな気になること言った後、見んなって言うのさ」
「うるさい見ないでっ!!」
「何よ、もういいよ、一生君の顔なんて見てやんないんだから!!」
「ねーごめんて。いいよ、見ていいよ!!見なよ」
文芸部と漫画ファンクラブは今日も仲良し。
ブロッコリーも日焼けと髭は気にする。
そんな自由奔放な我々だが、なんだかんだ誰も途中で抜けずに、最終下校時間の7時を迎えた。
「帰り銀だこ行こうぜ」
居候先輩の提案で、その後暇だった居候先輩、ブロッコリー先輩、ヘッドホン先輩、テディちゃん、私の5人で帰りに銀だこに寄ることになった。
心配になるくらい人がいない店内。
「レジのおねーさんの仕草可愛くなかった?俺だけ?あのあたふたしてる感じ可愛くない?」
注文して席につくなりブロッコリー先輩が勢いよく言った。
「お前すぐ店員さん狙うよな…この前もラーメン屋で水運んできたおねーさん可愛いって…」
「ちょやめてよ話さないでよ」
ブロッコリー先輩は居候先輩の口を慌てて止めた。遅いけど。
突然隣でシャッター音がした。
「机の木目可愛い」
テディちゃんは今日も通常運転だなぁ。
当たり前だが、銀だこに来たのでたこ焼きを注文していた。
5人中4人が。
「俺タコ好きじゃない」
ブロッコリー先輩と一緒に銀だこから追放されるぞヘッドホン先輩。
「生地はふわふわしてるのに、中に硬いの入ってるのって変じゃない?」
「「「「たこ焼きってそれを楽しむものだろ」」」」
変なのは先輩です。
「あーでも私トマトは複雑で苦手です」
中がぐちゃぐちゃしてるんだもん。
「だよね。俺トマト食わず嫌い」
ヘッドホン先輩が謎の共感を示してきた。
「私はちゃんと食べてますよ。誰かさんと違って」
「ほら、今の見た?可愛い」
「黙れ」
ヘッドホン先輩の水の飲み方が可愛いとブロッコリー先輩が絶賛している。そのせいで、ヘッドホン先輩は水を口に運ぼうとしては、発言に引っかかり、自意識過剰になり、やめることを繰り返している。
「あ、ヘッドホン、スマホ貸して」
「え、なんで?」
そう言いながら渡すのね。
「こいつさ、部室に筆箱忘れて…ほら見て可愛すぎない!?」
ロック画面にデカデカと『筆箱』と書いてある。
「二日連続忘れたから流石にヤバいと思って」
なんだ、この先輩、いじりがいしかない。
そして文芸部あるある、ロック画面の時計の設定変な数字にしがち(ブロッコリー先輩&ヘッドホン先輩→ビルマ数字。私→クメール数字)。
ヘッドホン先輩は焼きそばを頼んだ。
「あ、ヘッドホン紅生姜」
「あ」
「…」
ブロッコリー先輩と居候先輩は目配せをしてニコニコと笑った。
「しょーがねーな食べてやるよ」
「全くしょーがねーな」
隅に盛られた紅生姜が箸一掴みづつ貰われていった。
「紅生姜も苦手なんですか?」
「俺は焼きそばに刺激を求めてないから」
『恋』ぐらい刺激はないと思うんだが…。
隅にはまだ紅生姜が箸一掴み残っている。
「これはあれですか?子どもによく言う、『これだけは食べなさい』って分ですか?」
「いや俺は大人だからそういうのない。全部食べてくれ」
それは子どもじゃ。
私は残りの一掴みを口に入れた。
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