第27話

人魚がどうしてあんなことをしたのかなんて、

こんな考えなしな生き方をしてきた僕にはわかるはずない。

自分が生きてる理由ですら人に言い切ることができないのに他人の人生、行動までに考えを回せるはずなんてさらさらないのだ。

本当に、人としての頭脳が足りない僕には、

でも、先輩だったらもし噛みつかれたらどんな反応をするのだろうか。


「あっ!青葉くーん?キッチンでどうしたの?」


先輩の声がする。都合のいいタイミングで現れてくれたものだ。


「あ、ちょっと人魚に噛まれちゃって~。」


僕は今までと変わりなく答える。先輩は僕の左手を見て怯えたような表情を“魅せた”先輩の青色の髪の毛によく似合う、

真っ青なお顔。いつにもまして透き通るように美しかった。


「だい、じょうぶ、なの?」


先輩は黒のレースの手袋をした両手で僕の左手に触れる。

僕の左手からは変わらず輪郭をつたうように血液がとめどなく溢れていたのだけれど先輩は気にするそぶりもみせずに

ただ、あおい顔をして僕の左手を握りしめていた。

ふと、魔が差したという訳ではないが、僕は右手でそっと先輩の髪の毛に触れてみた。


「あおば、くん、?」


先輩の小さな声。僕は絹のように柔らかく、甘いまるで人魚の血液のような妖艶な香りを放つ先輩にみとれながら軽く答えることにした。


「多分大丈夫ですよ~!」


どうせこのくらい人間として生活する分には気に止めるほどでもない傷なのだ。

それでも、大袈裟に心配してくれる先輩の瞳はうるんでいた。

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